怪しい雲行き 5/23
今日はリョウマのお見舞いにきた。
3人揃って、ギプスに落書きをしたり、久々に友達と遊んでる気分になって、とても楽しかった。
「つうか、モリオ。お前、やるじゃないか」
「んあ? 何がだよ」
心底、安心しきったように、リョウマが柔らかい笑みを浮かべる。
「カンナのこと、……好きなんだろ」
僕は深くため息を吐いて、天井を見上げる。
「……ん? なんで?」
「隠すなって。良い女だもんな。お前が好きな、格ゲーの女の子にそっくりだし」
「ん? ん?」
「俺は、手を出してない。アノンからは、えっちな事をされたけど。カンナは、ほとんど見てるだけだったんだ。手で弄るくらいはしてきた。でも、顔が真っ赤で、なんか、見てる方が恥ずかしくなるような女子だったからな」
過去に話した出来事の詳細か。
ただ、僕は話を聞いている間、色々と言いたい事が込み上げてくる。
「おいおい、陰キャ卒業してんじゃねえよ!」
「そうですぞ! うらやましいいいいいっ!」
毒が抜けた爽やかな笑顔で、「そんなんじゃねえって」とか言ってやがる。
「お前がそのつもりなら、……俺は下りる」
「リョウマ……」
「本気か?」
リョウマは、まるで同じ人を好きになったけど、友達の方が大事だから自分は手を引くって感じのカッコいい親友を演じていた。
名前だけ呼んで、場を盛り上げる取り巻きの役を二人がやっている。
僕は段々と殺意が込み上げてきた。
「……は?」
「何も言うな。黙れ。喋るな。言わなくても、俺、腹決まったから」
「なあ、こいつ、何言ってんの?」
リョウマを指し、殺意のこもった疑問をぶちまける。
「何でさ。この世界ってさ。僕を奈落に突き落とそうと、全員が一丸となるわけ? 意味分からなくない? どいつもこいつも、カンナさんのこと好きだろって。おかしいだろうが! 一言も言ってねえって!」
おまけにエッチをしたとか、何が悲しくて友達の聞きたくない猥談を聞かなきゃいけないんだろう。
「モリオ」
「ぶっ飛ばすぞ」
「……頑張れよ」
「らぁっ!」
僕は憎たらしい顔を思いっきりぶん殴った。
すぐにヘイタ達から止められ、羽交い絞めにされてしまう。
「後腐れなくするために、押し付けてんじゃねえよ! 嫌だっつうの!」
「でも、お前告ったって」
「それはアノンさんの押しに負けて……」
「気持ちをぶちまけたんだろ! 逃げんのかよ!」
「逃げるよ! 逃げるために、こっちは口先だけで言ったんじゃい!」
雲行きが変な方向に流れていた。
確実に。
着実に。
世界は僕を悪魔に売り渡していた。
僕の理想は、清楚な女の子と青空の下でイチャコラしたいだけだ。
他愛無い話をしたり、デートをして失敗しても笑いあったり、何てことない普通の恋愛がしたいだけだ。
僕の記憶にある現実は、青空の下でライダーキックを食らい、吹っ飛んでいく苦悶の瞬間のみ。
「いやだああああああっ!」
「ちょっと! あなた達! さっきから、うるさい! 静かにしてください!」
騒ぎに駆けつけたナースさんに怒られ、僕らは頭を下げて謝った。
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