陰キャ会議 5/20

「で、僕が姉妹のオモチャになってやったわけ」


 初めて味わった女子の手料理は、大雑把なのに結構なお手前だった。

 初めて触れた女子の頬は、ぷにぷにしていた。


 今日は双子は用事があるとのことで、自由になっている。

 アノンさんはパパ活だろう。

 そのボディガードにカンナさんが付いて行く感じか。


 一皮むけた男子として、僕は顎をしゃくり、ポケットに両手を突っ込んだ状態で、椅子の背もたれに体重を預ける。


「カッコ良くねえからな。お前の、それ。全く様になってねえからな」


 ケンイチは全否定してきた。


「ふむ。予想はついていたけど、カンナさんは本当に一途ですな」

「振り向いてくれない男子のために、色々やってるんだろう。健気だけど、不満が爆発したら、殴るんだろうな」

「今のところ、どっちもそんな感じだよ」


 ヘイタは真顔で股間を掻き毟り、「ところで」と聞いてくる。


「モリオは、アレか? カンナさんに告ったのか?」

「ああ。告ったよ。全力でね。蹴りも受け止めた。思いの丈をぶつけたよ」

「……好きなのか?」

「いや?」

「はは。意味分からん」


 アノンさんに流されて、断れない陰キャ性格の僕が、全力で告っただけだ。振られることを前提で告ったけど、妙な手応えがあったので、僕の方が戸惑っている。


 けど、思いはリョウマ一筋のようなので、僕は手を引くつもりだ。

 ごめんだぜ。


「余計な事にならなきゃいいけどな」

「余計な事って?」

「本来、ヤンデレには寝取られルートはあり得ないんだ。まあ、有名作品ではそういうのシーンがチラッとあるけどさ。でも、ほぼ全部と言っていいほど、マジであり得ないんだ」


 ケンイチは周りを見渡し、僕ら以外に誰もいない事を確認すると、額に血管が浮かぶほど力み、放屁する。


「きったねえな!」

「カンナさんは未知のヤンデレだ。どう転ぶか、分かったもんじゃないぞ」


 滅多なことはないと思うが、一応頭に入れておこう。


「でもさ。話を聞くに、やっぱ親父さんが原因じゃない?」

「あー、異性への愛情が歪む、ってやつか」

「著名人とか、色々な人が話してるけどさ。性格の歪みとか、犯罪とか、よくない事の原因って、からだって言うし。双子が何にトラウマ抱えてるのか分かれば、一歩進むんじゃない?」

「相談に乗るって?」

「ボキらじゃなくても、リョウマが回復して、あいつにも立ち上がって貰えれば、少なくとも一方的に殴られる事はないんじゃないか?」


 なるほどな。

 僕は素直に、面倒くさいな、と感じてきた。

 だって、家庭のディープな所なんて、知った事ではないだろう。


 僕だって、母さんの尻に執着して指でカンチョーしまくってたら、ある日の朝に「お前のせいで母さん尻が弱くなったぞ」と、いきなり言われたことがある。


 家庭は人それぞれだ。


 それがリョウマの別れたいを解決させるとは思えない。


「ま、情報集まってきたし。一応、リョウマにも報告しようぜ」


 なんて感じにケンイチが欠伸をする。

 ふと、鼻の穴と口の中を眺めていた僕の視界に、いきなり小さな頭部がひょっこり現れた。


「作戦会議?」

「蕩坂さん」

「わったしも、ま~ぜて」


 椅子を持ってきて、ナチュラルに隣へ座ってくる。


「面白い話はしてないぜ。ケヒっ」

「ふむ。モリオがカンナさんに告ったとか、ブチュキスをしたとか。ネトリ報告しか今のところ聞いてませんなぁ」


 いや、誤解生むだろ。


「……へえ。モリオくん。あいつらが好きなんだぁ」

「蕩坂さん?」


 一瞬見せた真顔に邪悪さを感じた僕は、つい名前を呼んでしまう。


「うん。じゃあ、私も協力したげる」

「へ?」

「いやいや。これ以上はもういいって」

「遠慮しないでっ。んじゃ、さっそく行ってまいりますっ♪」


 敬礼した蕩坂さんに、僕らはダブル敬礼をして、背中を見送る。

 猛烈に嫌な予感しかしないが、行かせてよかったんだろうか。


「女子ってのは、お節介だねぇ」

「まあ、蕩坂さんのおかげで、この前も住所が分かったんだし。ボキ達はハイレグレオタード大戦でもやりますか」


 スマホを取り出し、三人でゲームを開始。

 その日の昼は、雨が降った。

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