英雄と称えられる俺ですが、人見知りなんでほっといて欲しいんです

和泉 花乃羽

第1話

 長年人間の平和を脅かしてきた魔王軍。

 何人ものの勇者を魔王城に派遣したものの、戻ってくる者はいなかった。


 今までは……


「英雄様、ばんざーい!!」

「英雄様、感謝申し上げます!」


 全人類がある男を称えた。たった一人で魔王城に乗り込み、魔王を倒した男を。

 ーーある一人を除いて


「なんてことをしてしまったんだ…!」

 頭を抱え、唸る男。

 そこに獣人の少女がやって来た。

「どうしたんであります?英雄さま〜」

 そう、この男こそが人々から英雄と呼ばれる人物なのである。

「カーフ、英雄っていうのやめてくれ…」

「どうしてでありますか? 皆、ご主人様のことをそうやって呼んでいるであります」

 心底分からないと言う顔のカーフ。

「俺はこれ以上目立ちたくないんだ…」

 この男は……ライジェルは極度の人見知りなのである。

「ならば魔王なんて倒さなければよかったんじゃ…」

「あれが魔王なんて知らなかった」

 できる限り人と関わりたくないライジェルは、いつも一人で魔獣を倒していた。それでも周辺の森だと誰かしらに会う。だから遠い秘境に行っていた。だが秘境に行くほど強い魔獣がいる。それによりライジェルの力は他の人よりも強力だったのだ。

「あれが魔王って弱すぎないか? 幹部を魔王だと勘違いしてるかも…」

「それはありえませんね」

「なんで即答なんだよ」

「あの魔王の幹部、しかいないですから」

「…………」

色々とやばい魔王だったんだな。





「ライジェル様、お客さまがいらっしゃいました」

ヒョコッと顔を見せたのは、もう一人の獣人の執事、アルケスだ。

「俺の知り合いか?」

「どう思いますか?」

真顔で返すアルケス。

「冗談に決まっているだろ。察してくれ」

人見知りに知り合いなんているわけない。カーフとアルケスとまともに話すことだって知り合って4年目にやっとだったのに。

「アルケス、いつものように頼む」

ライジェルは変身術が使えるアルケスに頼み、代わりに依頼主と話してもらっている。自分が出てきても会話できないからだ。

「そうしたいのは山々なんですが、国王様がいらっしゃって……」

「……え?国王?」

「はい。お礼を申したいとのことです。」

「嘘だろ……」

「英雄様も大変でありますねー」

流石に国王だ。誤魔化すわけにはいかない。ライジェルはいつも出かける時(とは言ってもほとんど出かけない)に着るマントを羽織り、顔を見えない様にした。

「これでいくか」

「ちょっと待ってください!」

カーフはライジェルの服を整える。

「これでいいであります。」

誇らしげに笑うカーフ。ライジェルもつられて笑う。

「頑張るか…」

「ライジェル様、待たせすぎは良くないかと」

「ああ、今行く」

ライジェルは扉にむかって足を踏み出した。

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