イケメン名乗るならイケ免許くらい持ってなくちゃ?

ちびまるフォイ

きゃっち&リリース

「ねえ君かわいいね、俺とお茶していかない?」


「えぇ~~? どうしようかなぁ」


女の反応に手応えを感じた。

この反応はYES。


俺くらいの手練れのイケメンにもなればすぐわかる。


はい行きます、と即答すれば男に飢えてる感じになるので

悩んだふりをワンクッション挟んで自分のプライドを守っているのだろう。


「いいじゃん。ここで出会えたのもなにかの運命でしょ?」


「う~~ん。そうかなぁ」

「そうだよ」


「じゃあ、お兄さんはイケ免許ありますか?」


「イケ免許……?」


ぽかんとした表情がいけなかった。

俺の反応を見た女は一瞬にして素の表情になった。


「チッ……。なんちゃってイケメンかよ。

 イケ免許もないのに、イケメンふかしてんじゃねぇよ」


「え、ええ……!?」


女は去ってしまった。

こんな反応をされたのは人生で初めてだった。


悔しくて、数日後にはイケ免許教習所へと足を運んだ。


学校のような施設には顔のいい男たちがすし詰めになっている。


「すごい……。本当にイケメンばかりだ」


周りの雰囲気にのまれていると、近くのイケメンが声をかけてきた。


「やあ、君もイケ免許を取りにきたの?」


「ええ、まあ」


「いいよねイケ免許。持っているだけで、店では常に良い席通されるし。

 舞台でも最前列。電車ではイケメン優先席にだって座れるんだから」


「そ、そうなんですか」


「君……知らないでここまで来たの? 珍しいね」


「女の子にイケ免許がないってフラれたのが納得いかなくて」


「ははは。そうなんだ。でもイケ免許さえ取れれば、

 免許を見せるだけで女の子たちが君の前に列をつくるよきっと」


これまで路上で必死に声をかけていた姿から、

今度は逆に女の子から声をかけられるシチュエーションを想像するだけで希望がわく。


「絶対にイケ免許取ってやる……!」


「その意気だよ」


イケ免許教習所では合宿も併設されている。

免許の合格試験を受けるためには合宿への参加が義務となっている。


「合宿ったって何をするんだろう」


合宿所に入るや、竹刀を持った教官が鬼の形相で待っていた。


「遅いぞ!!! イケメンたるもの、30分前に集合だろうが!!!!」


「えええ!?」


「30分前に集合して、髪と服装を整えて相手を待つ。それがイケメンだ!!」


「そんなの人それぞれでしょう!?」


口答えをした瞬間、弾丸より早い竹刀が飛んできた。


「ばかもーーん!! イケメンは1日にしてならず!!

 24時間365日、イケメンであり夢を壊さないことがイケメンだ!!」


「ひえええ!!」


合宿所到着から数分にして、ここへ来たことを深く後悔した。

それからも合宿所での鬼のイケメン教習は続く。


「イケメンたるもの、食事のスピードを相手に合わせるのが鉄則だ!!」


「イケメンは昼間に排便しない!! トイレは髪を整えるだけの場所だ!!」


「なんだその服装は!! イケメンはそんな服を着ないぞ!! 着替えろ!」


朝から晩まで教官の罵声が続き、数日もすると脱走で合宿所はガラガラになった。

イケメンであるためにはこれだけの苦労が必要だったのか……。


1ヶ月後、ついに合宿所に残ったのは自分ひとりとなった。


「よくぞ合宿に最後まで残ったな。だがこれだけだと思うな」


「まだあるんですか……?」


「この合宿はイケメン実習部分だけだ。座学は教習所に戻ってから行われる」


「ざ、座学……!?」


肉体的なしごきが終わったら、今度は教習所での勉強づめ。

朝から晩まで頭にイケメン学を叩き込まれてパンク寸前。


これなら疲れて深く眠ることができるだけ、まだ合宿所のほうがマシだった。



それから1ヶ月が過ぎたが記憶は定かではない。


新しい記憶を詰めるよりも、イケメン学を学ぶのに精一杯だった。

教習所で行われた最後のテストを行い、なんとか合格点を勝ち取った。


教習所にいる彼女役の女性と、仮免テストデートもなんとかパスできた。

そして。


「合格だ。おめでとう」


「きょ……教官っ……!!」


「泣くんじゃない。お前はよくがんばった。おめでとう」


辛く厳しかった合宿所での日々もすべてはイケメンとしての性根を叩き込むための儀式だった。

教官はその優しい本性を隠して、辛い役回りを演じ続けてくれていた。


教官との熱いほうようをしたあと、教習所にあるボロボロの撮影所へ向かった。


「はい撮ります。3,2,1……はい」


「えっもう?」


「免許に写真載せるんで、上の受付でもらってください」


2階に上がると、受付で金色にかがやくイケ免許が目に入った。


「ああ……ついに俺にイケ免許が……!」


イケ免許でさまざまな特典はあれど、

いちばんうれしいのは免許取得で「イケメンである」と客観的に認められたこと。


もう誰にも雰囲気だけのなんちゃってイケメンとは言わせない。

自分は正式なイケメンなのだから。


「ふふふ。さて、イケ免許も手に入ったことだし……早速使ってみるか」


このイケ免許がどれだけ効果があるのか試したくてしかたない。

若い人の多い町へくり出して、高々とこれみよがしにイケ免許を掲げた。



(さあ、ここに正式なイケメンがいるぞ! 寄ってこーーい!!)




しかし、道行く女性は免許こそ目で確認したが、すぐにそっぽを向いてしまった。


「あ、あれ……?」


あまりに誰も寄ってこないので、しびれを切らしてこっちから声をかけた。


「あの、ちょっと!」


「……なんですか」


「これを見てくださいよ。ほら、これ、イケ免許」


「ああ……」


「俺はイケ免許を持ってるんですよ。なんで寄ってこないんですか」



すると、女は低い声で答えた。



「こんなに写り悪い免許の写真のでイケメン名乗るなんて、

 偽造するにももうちょっと工夫しなよ???」



その後、イケ免許は返納された。

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