戦火は私に何を見せる。
弾、後晴れ
一撃
狭く暗い空間。各所に乱列するスイッチとレバー。それを眺めるヘルメットには、デジタル表記の様々な情報が滝のように流れてくる。
ガー…ザザザ…
無線だ。
『間もなく出撃地点。20秒後に出撃。今作戦では完了まで無線を切る。幸運を。』
低いゲートの唸り声と共に隙間風の音色と眩い朝日が入り込んでくる。輸送機の格納スペースに光が差し、4機の機械の巨人の身体がチラチラと輝く。
『出撃まで5…4…3…2…1…、出撃!』
左から順に輸送機から姿を消してゆく。自分の番が来たと感じた瞬間、強烈な浮遊感が襲ってきた。思わずブースターを吹かし姿勢制御を取ろうとしてしまう。だが、耐えねばならない.
正確に敵本部を叩く。本部ゆえ何が起こるかわからない。燃料は、大切にせねば。
機内のアナウンスが、地表までの残り距離を伝えてくる。2000…1500…1000…、迫りくる地上が巨大な壁のように見えてくる。そして、残り500m。
パラシュートを展開した。少し上に引っ張られる感覚が自分の体を刺激する。周りの状況を確認したいが、無線が封鎖されている為連絡が取れない。
─────ガシャン
全員が着地、順調だ。隊員たちが横一列に並ぶ。
さぁ、ここからだ。ステルス解除。セーフティ解除。僚機無線解放。レーダー正常。
『こちらブラックバード。いつでもいけます。』
『サイクロプス。問題なし。』
『レイブンです。早く命令を。』
「よし、こちら隊長機アーク。各機1号ミサイル用意。」
私の声に合わせ、鉄がぶつかり、擦れ、兵器が組み上がる音が聞こえる。
「派手にいこう。」
『『『了解。』』』
中央の操縦桿の頂点に位置するボタン。
─────戦争を始めるスイッチだ。
「…Fire!!」
ボシュッ、ボシュッと次々に4つの飛翔体が発射される。それは高く高く飛翔し、目標めがけ急降下する。巡航ミサイル4発。たとえここが本拠地でも基地の機能を壊滅させるには十分すぎる火力だ。
「着弾後間もなく突貫。着弾まで3…2…1…着弾今!」
4本の雷が基地の重要施設を的確に潰していく。それと同時にけたたましいサイレンが鳴り出した。
「さぁ、片付けよう。」
仲間の機体が次々と基地に進撃していく。私もそれにつづき破壊活動を始めた。
戦車に宿舎、航空機、対空砲、あらゆる戦力と呼べる物を片っ端からミニガン等の実弾兵器で潰していく。次々に起こる爆発はまるで派手な花火だ。
『敵4機の接近を確認。どうしますか?』
レーダーに点が3つ映る。おそらくこの基地の物だろう。…敵施設の破壊より優先すべきだ。
「私が相手をする。お前らは行動を続けろ。」
ブースターの推力を高め、加速する。近接戦闘へ切り替え、比較的コンパクトな銃とサーベルを背中から引き抜いた。敵機の装備は、小銃一丁のみ。隊長機と思しきものはライフルが両腕に装備されていた。一般的だが、貧弱だ。
その弾丸はこちらの機体の装甲を貫くことは出来なかった。わざわざ近づく必要はないようだ。
肩に搭載されたミサイルで一気に片付ける。それが最善だ。4機をロックオン。発射。
3機は激しく爆散した。1発外したが、すぐ終わらせる。しかし、レーダーにも視界にも、その機体の姿は捉えられなかった。
「逃げたか…」
瞬間、体が勝手にレバーを右に切っていた。私がいた場所には、巨大なナイフが刺さっていた。
『避けるか…。やはり隊長機は一筋縄ではいかないな。』
黒い機体、鎌のエンブレム。間違いない。ネームド[13]。話には聞いていたが、ここまでとは。音を殺し、レーダーにも感知されずに後ろから刺す。
「クソッ。報告。」
だが、そのスピーカーから3人の声が聞こえることは無かった。
「…仇は取る。」『…仇は取る。』
2機のブースターが同時に点火する。青の光が交差する光景は、まるで地を駆ける流星群の様だ。ミサイル、弾丸、全てが紙一重で当たらない。このままでは埒が明かない。
サーベルを抜く。ナイフを持つ。
仕掛ける。懐に潜り込む。
2つの鉄の塊がぶつかり合い、火花を散らした。
(感触的には相手はスピード重視の軽量機。)
(パワー型か。出力では負ける。力比べは分が悪い。)
ならば。
(出力差で押し切る!)(撹乱だ。)
押し込もうとするが、サーベルを受け流し、[13]は青い光と共に背後に回り込む。
(まずい!)
なんとか避けるが、左腕を切り落とされた。いち早く間合いから逃れる。右手のライフルで牽制するが、相手が速く、かすりもしない。それどころか逆に距離を詰められてしまった。
「しまっ…
『堕ちろ』
機体が激しく揺れ、エラーの警告音が鳴り響く。
『燃料機関に甚大な被害。離脱、離脱、離脱…』
『私の部下の無念。地獄で嚙み締めろ。』
機体の腹部に風穴が空いている。その傷口からは激しい火が上がっていた。損害率は、80%。
──────もう、帰ることは叶わないだろう。
いつかこの時が来るとは分かっていた。
どうせ、死ぬなら。
「焼き尽くしてやる。」
肩部にぶら下がる、巨大な6連のチェーンソー。展開するまでの時間は長く、使えたとしても制御は不可能。だが、今は。今だけは。
『異常な信号を検知。直ちに使用を中止してください。』
切り落とされた左腕に強引に取り付けられたそれは、錆のように機体のシステムを壊していく。
激しく回転する刃は赤く熱を発し、今にも暴れだしそうだ。幸いやつは背中を向け、油断している。
許容範囲外にブーストを吹かし、完璧に展開されるまで待とうとするが、機体が応えるように異常に早く完了した。
今しかない。
『この音。まさか…!』
もう遅い。
「『派手にいこう』」
一気に前進させる。今まで長いことこの機体に乗ってきたが、体感したことのない加速Gが私を襲った。
『往生際の悪い…!』
すさまじいGは私の意識を暗闇に誘い、ばらまかれる銃弾が機体を揺らす。何も見えないが、奴がそこにいることだけは分かった。
再び違う衝撃が伝わる。加速が止まり、その代わり金属を乱暴に削る爆音が鼓膜を乱暴に刺激する。
「くたばりやがれぇぇぇぇ!!!」
『このダメージでなお、止まらぬか…化け物め!』
力づくで突破するころには、刃が回転する音のみとなっていた。
『この力、執念…そうか…貴様が、そうなのかもしれんな…」
背後に感じる、爆風と爆発音。その激しい刺激は、私の意識を完全に落とすには十分すぎるものだった。
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