國頼くんから逃げられない
草乃
第1話 あだ名の命名、行方不明
ゆん、というあだ名がどこから来たものなのか、かれこれ五年ほど付き合いのある私は國頼くんに確かめたことがない。
付き合い、というか、彼氏彼女という名称でもあるのだけれど、世間サマよりはゆるっとしていて日常的に好意を告げられていて、私もその気持ちをおそらくは返せている、のか、まだ一緒に居ることが多い、というだけなのかもしれないけれど。
國頼くんの、付き合って、もどこか買い物にでも行くのかなあ、くらいにしか思っていなかったし、それからも「好き!」とは言われても私はたぶん同じくらいの気持ちを返せていないんじゃないかと不安になる。
今でもあの時「今日は予定があるので」と断っていたらどうなっていただろうかとたまに想像してしまうけれど。それはもう、もしも、の話でしかない。
こうして一緒に居られたかもしれないし、ときどき高校の部活の関係で会うだけになっていたかもしれない。それは、きっと淋しい。
そうだ、あだ名だ。國頼くんはだいたい“さん”や苗字の呼び捨てが多いのだが、私の事だけはいつからか、“ゆん”と呼ぶようになった。
これは本当に、覚えていなくて今でも謎。聞こうにも、いつも忘れてしまう、まるで暗示にでもかかっている様な具合で。
名前は
ゆうさん、の省略だとしても、國頼くんは“さん”付けはすれど下の名前で呼ぶことは少ない。まだそんなに彼と深い人間関係の人に会っていないだけかもしれないけれど。
ただ、彼の声でそう呼ばれることが心地よくて、呼んだ時の表情がいつも良くて、また私も彼が「ゆん」と呼んだらそれは私のことなのだと認識しているのだとおもう。
暗黙の了解なのか彼のなんらかの働きかけからか、彼以外は“ゆん”と呼ばないから、特別なのだなぁ、と単純に感じるだけだ。
付き合い始めてからなのかその前からなのか。
そんなに特別に思われているんだなあと、身に沁みる日々がこようとはさしもの私も思ってはいなかったけれど。
あ。やっぱりあだ名の事聞くの忘れてる。
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