第11話 傘地蔵
都近くの峠に差し掛かった桃太郎一行。
暮れも近く、峠には雪が降り積もっていた。
「あ~腹減りましたね。あれ、あそこのお地蔵様にまんじゅうが供えてある!」
サルは空腹を我慢できずにお地蔵様にお供えしてあるおまんじゅうを食べてしまった。
「サル君意地汚いわね~。本当に最低だわ!」
「か、かぐや姫さん、すいません……」
「サルの兄貴、そういうところですよ! だから、あんた昔話では良いイメージないんだよ!」
かぐや姫と犬に責められ、サルもかなり落ち込んでいた。
「おい、誰か来るぞ! サルよ手についているあんこをお地蔵様の口元につけて、俺たちは茂みに隠れるぞ!」
まんじゅうを盗み食いしたこがバレるのを恐れた桃太郎は、皆でお地蔵様の後ろに隠れることにした。
桃太郎たちが隠れていると一人のおじいさんがお地蔵様のところに現れ、お地蔵様の頭に降り積もっていた雪を払い、六体のお地蔵様に笠を被せていった。
「こんな雪ではお地蔵様も寒かろう。笠が売れず、お正月の餅や米など買えませんでしたが、笠を家に持ち帰るより、お地蔵様に使っていただく方がありがたい。お正月の米や餅が買えなくてお婆さんには怒られるかな……」
おじいさんはそう言ってお地蔵様に笠を被せていき、最後の6体目のお地蔵様には被せる笠がなくなったため、自分が被っていた笠を被せて家に帰って行った。
「あ~あ、サル君、本当にやってしまったわね。お金のない中お供えしたおまんじゅうまで食べちゃうなんて、本当に最低!」
かぐや姫は反省しているサルに追い打ちをかける。
「ま、まあ、過ぎたことは仕方ない。それよりも、今のお爺さんの話聞いただろ! 俺たち結構金持ちだし、町に買い出し行ってあのお爺さんの家の前に米とか餅とか置いていかない?」
桃太郎はサルが落ち込んで重たい空気になっていたので、とりあえずの提案をした。
「桃太郎さん、とてもいい案だと思います!」
桃太郎の提案を聞いて更に桃太郎に惚れこむメデューサ。
「旦那、我々がただプレゼントしたのでは、セレブの嫌味になりかねないので、ここはちょうど6人いますんでお地蔵様の笠を借りて、お地蔵様が御礼に届けたことにしてはどうですか?」
「犬よ、お前はいつも賢いな!」
桃太郎は犬の案を採用し、町でお米・味噌・お餅などお正月に必要な食料を買うとおじいさんの家の前まで運びドサッとわざと大きな音を立てて、お地蔵様のいた方向に引き返すのであった。
「なんじゃ今の音は?」
「おじいさん、外を見てください!」
外は吹雪いていたため、はっきりとは見えなかったが笠を被った6体の人らしきものが歩いていくのがわかる。
おじいさん、おばあさんが玄関を開けると、目の前にはお米・お餅・味噌などお正月に必要な食料が大量に置かれていた。
「あの笠、もしや!」
「ええ、きっとおじいさんがお地蔵様に笠を被せてあげた御礼をしてくれたんですよ!」
お爺さん、お婆さんは遠くに見える6体の笠を被った人らしき影に手を合わせるのであった。
桃太郎一行はお地蔵様のところまで戻るとバレないように被っていた笠をお地蔵様に再び被せる。
「ちょっとサル君、あんたのせいで結構働くことになったわ! まあ、お爺さんとお婆さんが喜ぶならそれでいいけど!」
「まあ、かぐや姫、これであの老夫婦も無事にお正月を過ごせそうだし、よかったじゃないか」
「桃太郎は本当にお爺さん、お婆さんに甘いんだから!」
悪態をつくかぐや姫であったが、かぐや姫も良いことをしたせいか、いつもより清々しい顔をしていた。
こうして桃太郎一行は再び堺の港を目指して歩いていくのであった。
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