第2話 こんにちははじめまして


『おはようございます、ルーリー。本日はどのようなご用ですか?』




 ひのりがヘッドセットの電源音を聞いてほんの数秒後。彼女の視界には宇宙のような空間が映っていた。


彼女に語り掛けているのは宇宙をバックにふわふわ浮いた青白い球体。VRデバイス付属のサポートAIだ。




AIが彼女を呼ぶ【ルーリー】というのはゲーム上でひのりが使うユーザーネーム。


毎度名前を考えるのは面倒だと思っているひのりは、全てのゲームをこの名前で統一している。




「おはよう。ダウンロードリストからペンタグラムストーリーオンラインを起動して」




 球体AIに向かって腕を伸ばして指示を出す。その腕は人の物ではなく動物の毛皮に覆われている。


ルーリーとしてのVR空間上でのコミュニケーションアバター。


デフォルメされた二足歩行のオレンジのウサギの物だ。




『了承。……現在このタイトルはプレイロックがかかっています。解除まで残り時間1分32秒』


「じゃあロックが外れたらすぐ起動して」


『了承…………………………………………まもなく【ペンタグラム・ストーリー・オンライン】が起動します』


「ありがとう。ウェイクアップコールは今から三時間後に設定して」




 AIとの会話を打ち切り、ルーリーは立ったままゆっくりと腕を組んだ。


ヒュンと宇宙空間が揺らぎ、まばゆい光がルーリーに降り注ぐ。




 一瞬で消え去った宇宙空間。


その闇を消し去った光の中から現れたのは青白い肌に大きなコウモリ羽のスレンダーな大人の女性。


露出は多くないが体にぴったり張り付く服を着ている彼女はルーリーへとにこやかに手を振っている。




『ようこそ!ペンタグラム・ストーリー・オンラインへ! 私はお客様のサポートを担当します【デモンズ】【エストーレ】と申します』


「こちらこそよろしくお願いします! エストーレさん」




(デモンズってなんだっけ)


ルーリーの疑問にヘルプ機能が反応し、彼女の目の前にデモンズについての解説文が書かれたボードが現れる。


「デモンズ、ぺんたすで人気の悪魔系人間族。……エストーレさんはシリーズでも人気なNPCか。エロいから? なるほど?」




(それにしても、やっぱりフルダイブで見るキャラってすごいよなあ。ぺんたすの熱烈なファンなんてこれキャラ見てるだけでテスト期間おわっちゃうんじゃない)




 ヘルプ機能を閉じ、エストーレの姿を眺めるルーリー。


群青色の肌にやたらとテカテカした黒色のタイトな服装。


ルーリーは彼女の服装が気になった。もう少し観察しようとエストーレの背中側に回ってみる。


翼の根元部分には切れ込みはなく、肩甲骨付近が完全に空いていた。




「なるほどね。首元で服を留めてるんだ。リアルではよっぽどの自身がなきゃこんな服装できないなあ」


『あの……お客様? 少し恥ずかしいのですが』


「あっごめんごめん。お姉さん、エストーレさん? がキレイでつい」


『ふふっありがとうございます。そろそろ貴女の事を聞かせてちょうだい?』




 エストーレが可愛くウィンクすると、ルーリーの目の前にキャラクター作成チュートリアルと書かれた画面が現れる。


【このままキャラクター作成画面へ進みますか?】


【はい・いいえ】の選択肢。ルーリーの中にエストーレの姿をもう少し眺めたいという気持ちも無いわけではない。


だがそれはあくまで、脇道的欲求でしかない。一度うなずき、ルーリーは選択肢を選ぶ。




「はい」




 再び、ヒュンとルーリーの視界が揺らぐ。


次の場所は青いだけの空間。エストーレもいない。


ルーリーの目の前にはヘッドセットに記憶されたひのりとしてのデータ。


その身長体重体型などのデータをもとに目鼻口のない、バルーン人形のような人型が作られた。




「最初に決めるのは種族から……まあこれはドラゴノイドっと」




 テスト版に実装された5種の種族群。その中の爬虫類系人類である【レプティリアン】。


更にその中の小カテゴリから、恐竜の特徴を持った人間で人間にはない堅い甲殻と長い尻尾がある【ドラゴノイド】を。


更に更に、メインの属性を選んでクラス選択。




 ぺんたすにおけるクラスとは、職業ではなく生まれ持った性質のこと。


力が強い人や足が速い人などのちょっとした優劣を表す。




【アース・ドラゴノイド】


防御重視の部族。モデルはアンキロサウルスなどの盾のような体を持つ恐竜。


両手両足、肘から先と膝から下は甲殻に覆われ、見た目の威圧感も大きい。その甲殻は打撃武器のように使うことができる。


初期装備はゴツゴツとしたワンピース。器用さの求められる武器は装備不可。




【シャープネス・ドラゴノイド】


攻撃重視の部族。モデルは集団で狩りをするラプター系恐竜


手の甲、足の甲から大きな爪が生えている。爪を移動手段に使うこともできる。


初期装備は急所のみを覆ったビキニ。重たい防具は装備不可。




【タイクン・ドラゴノイド】


体格と力重視の部族。モデルは一人で戦い抜ける大型の肉食恐竜。


鎧武者のように恐竜の皮膚が全身を覆っている。


初期装備は無し。防具の装備不可。武器や盾は装備可能




選ぶことのできるクラスはこの三種。


ルーリーはゆっくりと一つずつ確認していく。


「クラスごとの成長タイプはまだテストプレイだしどれでもいいか。それより見た目だよなあ。


シャープは露出が気になるからパス。アースかタイクン……」




自分のキャラクターをアース、タイクンと交互に表示させ、ルーリーは軽く悩む。


(防具装備不可は流石にプレイの幅を狭めすぎるか?)


数分考え、ルーリーはアースを選択した。




 キャラの大元を固めたルーリーは次に細かなデザインを決めていく。


身長は現実世界より少し大きめ。髪は腰より上程度のロング。


足を少し伸ばし、武器として使える前腕を太く。腕や足についた竜の甲殻は夕焼けに近いオレンジ色に。


彼女は一度設定を自分に反映させ少し体を動かす。




 現実とのズレもあまり気にならず、腕も足もしなやかに反応する。


体の設定に満足し、最後に顔。アニメ調に置き換えられたルーリーの現実での顔。


上手く二次元に落とし込まれたそれをルーリーはあまり弄る必要がないと思った。


だから、ほんの少し目を大きくし、体についてる甲殻と同じ色のシャドウを塗る程度で済ませた。




「よしっ! OK!」


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