69 小腸、またしてもざくろ、そして真奈子のうた

ぎろぎろと小腸巻いてあるトルソ


割鐘に散るたび増えて花柘榴


群衆がざくろの夢と散る政変


部屋部屋にマントを渡す梅雨の昼


梅雨雲の上の飛行機音白し


さまよひて紫陽花の待つ四時の部屋


滅亡の世にまた咲けり百合の花


百合昂然としているが故踏みにじる


気に入らぬことあり執拗に蚊を追ふ


(無意味のために)

嬉しくて砂丘を埋め尽くす入れ歯


(フランシス・ベーコン)

首を絞め眼球舐めよ愛なくば


笛の音やたそがれの野に姿なし


足跡の稲より多き田植かな


図らずも雨音高き梅雨ばいうかな


立葵浅くなることなきわだち


紫陽花や仕出しに集う疑似家族


返信なくてリップクリームばかり塗る


誰も寝てはならぬと夢の中で聞く



「真奈子のうた9句」


兄上の汗に陶酔して真奈子


真奈子けふは青蛙など愛でませう


伯父様のくちに真奈子の紅のあと


斜視で見る真奈子の顔や青苺


五月雨に打たれて真奈子だけの恋


真奈子真奈子乗りて漕ぎ出すうつろ舟


たそがれに眉を剃り落として真奈子


真奈子転生して紫陽花に成体乃なりたいの


真奈子昇天すいつぞやの梅雨の夜

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