54 たんぽぽ

春愁が睫毛にひつかゝつてゐる


残酷の字の影もなしライラック


音もせずすべて焼け落つ日永かな


鬼百合やかおの裏にもかおがある


春の野に電池が切れてゐる人間


目路めじの涯うつゝを眠る春の土


たんぽぽの首刎ね無表情な茎


まだ人類は終はらぬらしくリラが咲く


極東の先に陸なしリラが咲く


ライラック咲き無時間の道となる


色薄き山吹のある黒奴こくど


落涙を見てゐる都忘れかな


傍らに鈴蘭のある棺かな


土崩瓦解覆滅砂塵野路菫


指に息吐いて春にも雪が降る


春の空見上げて御覧ミサイルだ


違約十遍全ての指のない男


たんぽぽが日に日に増えて金の橋


廃墟より音信おとありけふからたんぽぽです


瓦解のままに定着してたんぽぽ


月の崩れてゆく夜と散る桐の花

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