わが句帖

佐伯 安奈

1 結氷期

むなしさのきはまり充ちて結氷期


逝く人の声の如くに秋の風


き貝をのぞく二月の海がある


時に岸なし雲の影さえゆらめかず


撲殺ののち薫風の清き朝


日々の死はざくろの中に埋もれけり


苧環おだまきの青に切なる思ひあり


薔薇朽ちて嬰児の顔の如き色


虚無僧花ちて見えない笛を吹く

(虚無僧花…「ヒメオドリコソウ」の名前の方が一般的。ホトケノザにやや似ているが、上から覆い被さるように茎の周囲に数枚の葉がつく点が特徴的。その閉鎖的な佇まいを虚無僧に見立てたのかもしれない。歳時記には載っていないと思われる。)


殲滅せんめつ、と書き終えるまでの鼓動かな


沈丁花「時には昔の話を」と


世はいつも散りし桜を追ふばかり


夜桜や彼岸から来る救急車


胸ひとつ挽歌やまざり桔梗咲く


曼珠沙華まんじゅしゃげ嫌悪は死してもなほ生きる


若き日は永遠とわになきもの椿朽つ


さくらさくら国敗れても開き散る


金縷梅まんさくの雨にうたれて転生す


ダビデ像あかぎれせずと胸を張る



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