今日も僕は投げ銭を貰う
ゆれ
第1話 斯くして僕はvtuberになった
最初はただ不思議だった。
おかしな世界で僕は今日も生きている。でもそれは別におかしなことではなくて、おかしなことが当たり前になる。それがこの世界なのだ。
例えば手のひらに全身画面のかまぼこ板を乗せて、日々インターネットと隣り合わせの生活をするなんて二十年前の誰が想像しただろうか。
僕はしがない動画投稿者だった。
きっかけは特になく、大学生の頃何気なく唐突に始めた。再生回数は毎回三桁。調子が良くてようやく四桁に手が伸びる程度の若輩者。
やがて就職し、動画の投稿頻度は目に見えて減っていった。
世間ではちょうど"vtuber"という新たな動画が盛り上がり始めていた。やっていることと言えば、普通の動画投稿者と大差ない。敢えて違いを挙げるとすれば、そこにアバターがあるかないかの違いだけ。
アバターは自分の分身で、自分はアバターの魂となる。そんな奇奇怪怪。それがvtuberなのだ。正確には電脳世界で生きるもう一人の自分と言った方が正しいのかも知れないが、インターネットが拡充した現実でもそこまで電脳世界とは結びついてはいない。
あくまでコンセプトだ。一種のスタイルなのだ。
それがどうも爆発的に流行した。
流れ行く電脳世界の荒波。趣を変え、色を変え、vtuberという一種のスタイルでしかなかったものは、いつしかジャンルに変わっていた。
vtuberのメインコンテンツも動画からライブに変わっていった。
その頃の僕は現実世界でうだつの上がらない毎日を過ごしていた。考えられるだけの努力はしたし、常に周りに目を向けて、ずっと気を張り詰めていた。そこそこの結果が出ても、飛んでくるのは怒号のみ。毎日残業して血眼になりながら働いても月収二十万。
僕は働く意味がわからなくなって仕事を辞めた。
言わずもがな僕はvtuberにハマっていた。伸びてはいるが、まだまだシュウメイキ。僕は僕だけが知るvtuberにどっぷりハマっていた。
そんな時見つけたのがvtuber募集の広告だった。
身が乗らない転職活動の息抜きとして、遊び半分で僕は電話をかけていた。
翌日、すぐに面接が実施された。その後、同じような面接を二、三度繰り返した。
結果は合格。
軒並みお祈りメールが届いた転職活動とは打って変わり、こちらは随分あっさり通ってしまった。自分でも笑った。遊びで受けたつもりだった。実際に受かるとは思っていなかった。もしやこれは神様からの啓示なのかも知れないと、僕は長々しい契約書にサインした。
斯くして僕はvtuberになった。
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