第38話 護衛依頼

「やった! 護衛以来受けてくれるんですね! さっきちょうど依頼が来たんですけど、難しい人だったから困ってたんです。ジルさんとクリスさんなら、態度は丁寧だし強いし、安心して紹介出来ます!」


「クリスに手を出さないなら、ちゃんとした態度を取るから安心してくれ」


「あー……護衛対象は男性なので、大丈夫だと思いますけど忠告しておきます。でも、いくら腹が立ってもジルさんから手を出したらダメですよ。会ってみて無理そうなら穏便に依頼を断って下さい」


げんなりした顔で現れたギルドの支部長にジル達が依頼を受けてくれると話すと大喜びされた。


「ありがとう! 念のためクリスに手出しをしないように忠告して来る。説明を聞いたら、すぐ待合室に来てくれ! 受けてくれるならシルバーランクにするし、ゴールドの試験を受ける資格も与えるから、出来たら依頼を受けてくれ」


ゴールドランクは、試験に受かった者だけに与えられる。受験資格を得るには、ギルドへの貢献度の他に、各支部の支部長の許可が要る。


「良いのか? オレ達はまだ冒険者になって日が浅いぞ」


「依頼達成率は今のところ100%だし、こなした依頼の数も多い。強さも申し分ない。今回の依頼人は、以前に何度か依頼失敗している相手なんだ。態度も酷いし、これくらいのメリットがないと受ける人が居ない。空いている冒険者は居るが噂が広まって誰も受けたがらないんだ。いちゃもんつけて依頼料を渋る事も多い。それでも……邪険に出来ない相手なんだよ。受けてくれるなら今すぐシルバーランクにするし、無事依頼を達成すればゴールドランクの試験を受ける許可を出す。頼む、依頼を受けて貰えないか?」


「どうする? クリス?」


「受けましょうか。難しい人みたいだけど、期間も3日と短いし、なんとかなるでしょ」


「そうだな、今すぐシルバーランクにしてくれるなら少しくらい我慢しよう。クリスにさえ手を出さなければ我慢するぞ」


「簡単に手を出させたりしないから安心して」


「すげぇ夫婦だな。頼もしいぜ。シルバーランクの手続きをしたらすぐ来てくれるか?」


「分かった。なんとか頑張ってみるが、失敗になったらすまん」


「受けてくれるだけでありがたい。ああ、依頼人の説明もしておいてくれ」


そう言って、支部長は去って行った。


「ふぅ、助かりました。シルバーランクの手続きはこれで完了です。新しい資格証です。ブロンズの資格証は回収しますね。こんなに早くランクアップする人は異例ですよ。おめでとうございます」


「ありがとう! これからも頑張るわ!」


クリステルがそう言って笑うと、受付嬢の表情が緩む。


「ジルさんが警戒するのも分かります。クリスさんは、魅力的過ぎますね」


「そうだろ?」


2人に褒められて、照れているクリスに場の空気が柔らかくなる。


「依頼人は1人です。以前はすっごい女たらしだったんですけど、今はどんな美女が言い寄っても相手にしないらしいから大丈夫だと思います。そもそも、訓練を全くしていない人ですからクリスさんに手出しは出来ないと思います。徒歩で3日程度なので護衛としては短期間ですが、キッチリ護衛して貰わないといけないので下手な冒険者を紹介出来ないんですよ。文句ばっかり言うから、冒険者と揉めた事があるんです。ホントに助かりました。それにしても、あまりランクに興味なさそうだったのに、急にランクアップしたいなんてどうしたんですか?」


「メッセージのやりとりにかかる金を抑えたくなっただけだ。依頼人が偉そうなくらいなら我慢できるからこの依頼が終わったら試験を受けさせてくれ」


「もちろんです。確かにブロンズだとゴールドの人に連絡取るのは高いですもんね。ゴールド同士なら無料で最速になりますから、ぜひ狙ってみてください。ゴールドの試験は受験資格を得られれば、何度でもチャレンジ可能です。受験料はその度にかかりますけどね」


「そうか、なら頑張ってみるよ」


「はい! では依頼人が待合室に居るので行って下さい。あの、結構傲慢な人なんで気をつけて下さいね。さっき来て、空いてる冒険者居ないのにすぐ護衛を用意しろとか無茶なこと言うし、正直困ってたんです。来るまで待つって言うから仕方なく待合室に入れたけど、さっさと帰って欲しかったんですよね。高貴な方、いや……元高貴な方なんで面倒でしょうけど出来るだけ敬語でお願いします。今回は無事を確認しないといけないので、向こうの支部まで必ず送り届けて下さい」


「元高貴って……貴族かなんかか?」


「似たようなものですね。廃嫡された王族です。もう平民だから、あまり失礼がないようにして欲しいですけど、無茶な要求には答えなくて良いです。支部長からも、あくまで依頼は護衛で冒険者は使用人じゃないって言ってあります。元々偉い人だったからか、以前に冒険者を使用人扱いして揉めたんですよ。だから誰もやりたがらなくて」


「王族だと?」


「王族が冒険者に護衛依頼ですか?」


「廃嫡されましたから」


冷たく言う受付嬢の様子から、面倒な相手だと気が付いたジル達だが、ランクアップの為にも依頼は受ける事にした。


だが、ジルは依頼人を見た瞬間に依頼を受けた事を心から後悔した。

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