第36話 2人の兄
「クリス、方針を変えようと思う」
しばらく呆然としていたジルだったが、手紙を読み返すと何かを決意したように宣言した。
「どうするの?」
「護衛依頼は変な依頼人だと困るから受けてなかったけど、受けよう。受けて、シルバーランクになっておこう。出来れば、ゴールドを目指す。そうすれば、必要な人材としてギルドが守ってくれる。アーテルさんが瀕死の重症なら、多分マリアさんも看病にかかりきりだ。手紙には生きてるし大丈夫だって……容態が変わったらすぐ暗号で知らせるって書いてあった。マリアさんから手紙以外に連絡はない。正直言うと気になるけど、クリスを守りたいなら絶対帰ってくるなって書いてあったから、オレ達は自分達が出来る事をやろう。今から冒険者ギルドに行って、マリアさんにメッセージを託してからランクアップの為に依頼を受ける。マリアさんはゴールドランクだから、必ず本人にしかメッセージを伝えない筈だし、念のため暗号を使う。オレ達がシルバーになれば、メッセージを送る優先順位が上がるし、伝わったか知らせて貰える。ブロンズじゃそこまでして貰えない。ゴールド同士なら最速で情報伝達出来るらしいから、早めにゴールドを目指そう」
「つまり、ジルはいずれ私達が王妃様に見つかると思ってるのね。見つかっても、対処出来る様にする方に重きを置くのね」
「ああ、見つかる前提で動く。もうガウスを介して連絡するなんてまどろっこしい事はしない。アイツらが危険だ。連絡を頼んだのは一回だけだし、今後はオレ達の情報は全部言えって伝えておく。生き残ったのが親父なら、王妃の実家に保護されて終わりだから今のままで良かった。王妃は、クリスが城に戻らなければ放っておいてくれると思う。髪まで切ったからな。けど……」
ジルは言いにくそうに顔を歪めた。
「言って。わたくしはジルが居てくれるならなんでも受け止める。教えて。私はちゃんと自分の身を守ってみせる。ジルには敵わないけど、もう私はジルのお荷物じゃない。それくらいの自信はあるわ」
ジルを真っ直ぐ見つめるクリステルの目は、覚悟を決めていた。
「そうだな。クリスは強くなった。弓の腕はゴールドランクのレベルまで上がったし、魔物と戦う時もクリスを頼る事が増えた。いつまでもクリスをお姫様扱いしちゃ駄目だよな。分かった。オレの知ってる事を全部言うよ」
「ありがとう! ジル!」
ジルは、知ってる事を全部言うと言った時に僅かにクリステルが目を伏せたのを見逃さなかった。すぐに切り替えていつものクリステルに戻っていたが、彼女が何か自分に隠し事がある事はすぐに察した。
(まぁいい。いつか言ってくれるだろうし、言いたくなきゃ一生黙ってれば良い。もう結婚したんだ。絶対クリスを手放すもんか。その為には、とにかく守りを固めるしかない。やりたくねぇが、護衛依頼を受けてランクを上げよう。日数が少なめの、さっさと終わるやつにしよう。それより……ヒュー様の事をどう伝えれば良いんだ……?)
ジルは、恐る恐る口を開いた。
「……クリスを殺したがってたのは、王妃だけじゃねぇ」
「……お兄様ね」
「気付いてたか」
「アーテル様ともお兄様の話をしていたじゃない」
「けどそんな決定的な事は言ってないだろ? なぁ、クリスはヒュー様をどう思う?」
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