第35話 届いた知らせ

結婚式の後、いくつか依頼をこなしながらジルとクリステルは相変わらず宿屋暮らしをしていた。馬は街に着くと売ってしまったので、今の2人の財産は僅かな荷物だけだ。


真面目で依頼を確実にこなす2人の評判はとても良い。護衛依頼を受けてくれないのが残念だとよく言われるが、ジルは頑として護衛依頼は受けなかった。自分達だけで処理できる採取と討伐依頼しか受け付けない2人は、護衛依頼さえ受ければすぐにでも冒険者ランクが上がるだろうと言われている。


冒険者ランクは、ゴールド、シルバー、ブロンズの3段階あるが、新人はランクなしだ。ジルとクリステルはつい先日ブロンズランクになった。新人としては異例の早さだが、1件でも護衛依頼を受ければシルバーにすると提案されたくらい2人は評価されている。


シルバーランクは、レミィ達のような中堅パーティーでないと認められない。ゴールドはさらに少ない。それをまだ冒険者になりたての2人に与えるというのだから異例だが、それでも護衛依頼だけは駄目だと断り、結局2人はブロンズランクになった。


ジルは、訓練所や依頼の最中などにクリステルに様々な事を叩き込んだ。元々素直な努力家であるクリステルはジルの指示通り訓練を行い、めきめきと力をつけていた。


今日は、ジルが認める動きを出来たご褒美だと購入したケーキを宿で食べていた。ジルは見事な手つきで用意した紅茶をクリステルにサーブしてから、自らも席に着いた。


「なんだかんだで、クリスを攫ってからもう3ヶ月か」


「攫ったって……私が勝手についてきたのよ」


「あの時オレの手を取らなかったらそのまま攫うつもりだったぜ。気を失わせて抱えてくつもりだった」


「あら、そうなの?」


「ああ、オレが城から連れ出さなきゃ、すぐにでも兄貴がクリスを殺しに来るだろうと思ってたから手段を選ぶつもりはなかったぜ。まぁ、あっさりクリスはオレの手を取ってくれたから良かったけど……改めて聞くけど、なんでオレについてきたんだ? 自分で言うのもなんだけど、オレ、結構怪しかったよな?」


「怪しかったなんて自分で言う? あの時は何もかもどうでも良かったの。本気で死んでも良いって思ってた。けど、ジルが助けてくれるって言ったから。誰も要らない私を欲しいって言うからもう一度だけ人を信じようと思ったの。ジルを信じて良かったわ。ありがとう。私と結婚してくれて」


そう言って寄り添うクリステルを愛でながら、ジルは一通の封書を取り出した。


「なぁに? それ」


「マリアさんからの手紙らしい。アーテルさんの奥さんだ。冒険者ギルドを介して秘密の手紙をやりとり出来る。ゴールドランクの人だけが使える特典らしいから、オレ達は使えない。確実に本人の手に渡るんだが、時間がかかるのが難点みたいだ」


「ずいぶん傷んでるわよね? もしかして私達があちこち移動する度に手紙も移動してたのかしら?」


「だろうな。これは重要書類扱いらしくて、絶対本人に渡すんだと。オレ達があちこち移動するもんだから、やっと渡せたって受付で安堵されたぜ」


「そんなに移動してたって……出した日付はいつなの?」


「やっべぇ……1ヶ月以上前だ……」


「いくら国外でも届くのにかかりすぎね。急いで読んだ方が良いんじゃないかしら」


「だよなぁ……、なんか見るのが怖ぇぜ。受け取ったって知らせは自動的にマリアさんに行くらしいけど、見るのが遅すぎるって怒られそうだ」


「そうなの?」


「アーテルさんもマリアさんには頭が上がらないらしいからな。オレもいつも訓練して貰ってたけど、すっげぇ強いぜ。勝てた事ねぇもん。クリスに教えた事も、ほとんどマリアさんとアーテルさんに教わった。あの2人とクリスが居たから、オレは道具から人になれたんだ。ありがとな、クリス」


「ジルは、道具なんかじゃないわ。私の大事な旦那様よ」


「そうだな。クリスも、オレの大事な妻だ。さて、これ、読んでみるか」


「何て書いてあるの?」


封書を開けたジルは、真っ青な顔で手紙を取り落とした。


「ジル?! どうしたの?!」


「アーテル……さんが……嘘だろ……」


書かれたマリアからの手紙には、ジルの父と兄を始末しようとしてアーテルが瀕死の重症を負ったと書かれていた。


そして、父は始末できたが兄は取り逃したので、注意するようにと記載されていた。


ジルは険しい表情で手紙を握りつぶし、クリステルを抱きしめた。

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