第31話 男だらけの酒場

「オメェは行かなくて良かったのか?」


ドリスは奢ってもらった酒を美味しそうに飲みながら問いかけた。


「ああ、女4人で食事をするのが楽しそうだからな。俺はたまにしか行かねぇ事にしてるんだ。俺が行けば、絶対ジーティルさんが来るんだけど、それだとレミィ達も気を遣うからな」


「なるほどな。オメェも大変だな。女ばっかりのパーティなんて面倒じゃねぇか?」


「良いんだよ。俺はアイツらを気に入ってるんだから」


「そうかぃ、まぁ、上手くいってるみてぇで良かったぜ。男は何人もレミィにクビにされてたからオメェもすぐクビだと思ったぜ」


「普通に接すれば良いんだよ。そうすりゃなんてことはねぇ」


「それが出来ねぇ男ばっかだったんだろうが」


「下心がありゃぁ駄目だ」


「あんな美人ばっかじゃ下心持つなって方が無理だぜ」


「ま、それも分かる。俺だって普通に出会ってたら下心くらい持つぜ。けど、レミィは俺の命の恩人だからな。俺はまだ恩を返しきれてねぇ。アイツらを守るためなら、下心くらい捨てるさ。男がパーティに居るだけで変な奴が寄りつかねぇからな」


「相変わらず義理堅いな。面倒なことも多いだろうになんでパーティを組んでるのかと思ってたら、そんな理由があったんだな」


「ああ、人に歴史ありって言うだろ? オメェだって生きてりゃ色々あんだろ」


「あるな。人に言える事も、言えない事もある」


「だよなぁ。言える事はたまに吐き出すのが健康的に生きるコツだぜ。言えない事が多すぎても、少しは吐き出すことを勧めますぜ。……ねぇ、ジーティルさん」


ガウスがそう言うと、今までなかった気配が現れた。闇に溶け込むように気配を消していたジルは、苦い顔をしていた。


「うぉ! 全然気が付かなかった!!!」


「さすがに1週間も寝食を共にしたら気配くらい覚えます。上手く隠してましたけどね」


「そうか、オレもまだまだか。もっと修行が要るな」


「これ以上強くなってどうすんだ!」


叫ぶドリスを無視して、ガウスはジルに話しかける。


「それで、なんか俺らに用ですか?」


「ああ、聞きたいことがあってな。話が落ち着いてから声をかけようと思ったんだが」


「出来れば最初から話しかけて下さいよ。俺らを監視してんのかと思ったじゃないですか」


「そんなつもりではなかったんだが……すまん」


「まぁいいっすよ。クリスさんは見守らなくて良いんですか?」


「レミィ達もオレの気配をはんとなく察知するんだ。だから、邪魔しないようにしてる。帰りは必ず宿まで送ってくれるから安心だしな」


「ちょっとは鳥籠から出すつもりがあったみたいっすね」


「……だが、冒険者ギルドで男どもがクリスに向ける視線を見たときは少し後悔した」


「すげぇ顔してますぜ。よく我慢しましたね」


「クリスは応援されて嬉しそうだったからな」


「一緒に冒険者になれば離れなくて良いですし、今後は問題ありませんよ。ジーティルさんの実力は知れ渡りましたから、ちょっかい出す奴も居ないでしょう。それに、クリスさんを狙ってたバカ共も今頃震えてるでしょうし」


「何かしてくれたんだよな?」


「俺はちょっと噂話をしただけですぜ」


「そうか、お礼を兼ねてここはオレが奢ろう」


「俺は奢ってもらう理由がねぇぞ!」


「さっき王都がきな臭いって言ってただろ? 詳しく教えてくれないか? 奢りの酒はこれで終わりだろ? この後はオレが奢る。つまみもどうだ?」


「そういうことならお安い御用だ。真ん中に座れよ」


「ありがとう。早速聞かせてくれ」


「おうよ。王都は、今姫さんが暗殺されたからって慎ましく過ごしてんだけど、姫さんが死んだ後から、バタバタ死んでた貴族が死ななくなったんだ。だから、姫さんが暗殺してたんだってもっぱらの噂だぜ。そもそも姫さんは側室のお子らしくて、あんまり良い扱いを受けてなかったららしい。しかも、隣国の王子に婚約破棄されちまったんだろ? 婚約破棄されるなんてなんか問題があったに決まってるってよ。だから、姫さんが死んでよかったって言ってる市民が少しずつ増えてきてる」


「なるほどな……」


険しい表情をしているジルに、ドリスは自らの見解を小声で述べた。


「けど、なんかきなくせぇんだよな。噂の広がり方が、自然じゃねぇんだ。俺は姫さんは悪くねぇと思うぜ。だって、姫さんは冷遇されてたんだろ? 暗殺なんて、余程権力がねぇと指示出来ねぇもん。姫さんに心酔してる暗殺者でもいれば別だけどよ。姫さんが暗殺を指示してたんじゃなくて、姫さんが死んだから暗殺をする必要がなくなったんじゃねぇかな」


「なるほど。そう思ってる市民も居るのか?」


「俺らみてぇに、ひねくれた奴らだけだけどな。そんな奴らは、この国に見切りをつけてる。国外に出るなら早めに出た方が良いかもしれねぇぜ」


「俺らも国外に出ようかな……けどよぉ、なかなか獲物が出ねぇんだよな」


「あれは2年かったパーティも居るんだ。たかが1ヶ月で手に入るかよ。ガウスがまだ街に居るなら、俺は少しの間この国を出るぜ」


「ドリスも義理堅いよな。俺はレミィ達と相談して、国を出るか決めるよ。ジーティルさんは、国外ですか?」


「ああ、明日には発つ」


「そうですか。レミィ達が残念がりますけど……そうだ。冒険者カード見せて下さいよ。書かれてる番号宛にメッセージを預けられるんで」


「そうなのか?」


「はい。ギルドは独自の情報網がありますからね。メッセージは職員に見られるから、暗号でも決めますか?」


「そうか。なら何かあった時に頼む」


盗賊達は、暗号を使うのにも慣れている。あっという間に話し合いはまとまり、ジルは男達に頼み事のお礼に高価な酒を奢った。

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