第12話 国王の取り調べ

「ジルが、クリステルを殺した。その事について申し開きはあるか?」


取り調べは、王妃の立ち合いの元行われた。ジルの父と兄の前でゆっくりと言葉を紡ぐ。


普段の国王とは違う、暗く、重い声は王妃すら聞いた事がなかった。


「申し開きはあるかと訊いておる。返事すら出来ぬのか?」


決して逆らえない。威厳のある声に王妃は怯えていた。もし、自分がクリステルを暗殺した事が分かれば、王妃である自分もタダでは済まない。それは、先程からの国王の態度で痛いほど分かった。


王妃はジルが見つかっても、依頼書さえ処分すれば良いと思っていた。だが、国王の剣幕にクリステルを暗殺した事を後悔し始めていた。まだ依頼書を回収出来ていない王妃は、かなり焦っており正常な判断能力を失っていた。


ジルの父と兄は、帰ってすぐに国王に呼び出され状況を把握できていなかった。ジルが王妃の指令でクリステルを暗殺した事は推察できても、どう答えるのが王妃の為になるか分からなかった。


しかし、国王の圧が凄まじく答えない訳にはいかない。よって2人は、無関係を貫く事にした。


「「も……申し訳ありません……我々が城に居ない時に起きた事ですので……」」


その答えは、国王の逆鱗に触れた。


「何故、王妃とヒューの影であるお前達が揃って外出しておるのだ。確かに他にも影は居る。だが、勤務予定では本日は護衛任務が入っていた筈だ。影はバラバラに任務をこなしお互いどこに潜むか言わぬから、仕事をサボっても分からぬと思ったか。国王である私は影の全てを把握しておる。護衛対象を放っておいてどこへ行っていた」


王妃から依頼された暗殺をこなしていたとは言えず、口籠もる2人に国王は更に畳み掛けた。


「王妃が、クリステルの死の直前に庭師とコソコソ話していたという報告も上がっておる。その庭師を調べたが、見つからなかった。王妃よ、其方が話していた庭師は誰だ」


王妃が会話をした庭師は、暗殺依頼を受けたジルだった。王妃は焦り、なんとか誤魔化そうと口を開いた。


「そ……それは知らないわ! お花が綺麗だから部屋に運ぶように頼んだの!」


「そうか、本日王妃の部屋に飾られた花は、薔薇とガーベラだったな。指示したのはどっちの花だ?」


「薔薇よ……でも……なんで、そんなに細かくご存知なの……?」


「影とは本来そういうものだ。庭師は私の勘違いだったようだな。王妃よ、怯えさせてすまぬ。王家の血筋を引くクリステルを暗殺するなど、王家への反逆に他ならぬ。例え王妃であっても、調査しない訳にはいかぬからな。分かっておろう? 私と、ヒューと、クリステル。正当な王家の血筋を引くのは3人のみ。クリステルを殺す罪がどれほど重いか、知らぬ其方ではなかろうて」


王家の血に連なる者を殺す。それはたとえ同じ王族でも重罪だ。未遂でも証拠があれば即処刑。国王がクリステルの暗殺を計画すれば国王も処刑。王位を巡る暗殺が蔓延った過去があり、そのような法律が制定されている。王妃は王家の血に連なる者ではない。堂々とクリステルを虐げる事は許されない。だからこそ、使用人を使いこっそりとクリステルを虐げていたのだ。


王妃は、現実を突きつけられ焦った。


「は……はい……もちろん存じています……ですが……わたくしはクリステルの暗殺に無関係ですわ。確かに、クリステルを可愛がってはおりませんでしたが、それはアナタも同じでしょう?」


「そうだな」


そう国王が言うと、明らかに王妃はホッとしていた。だが、これも国王の証拠集めだった。王妃の部屋に本日飾られた花は、百合とガーベラ。薔薇園はメンテナンス中で、薔薇はあと数日は採取が出来ない。王妃は焦って自分の好きな花を伝えてしまった。それが、国王の罠とは知らずに……。


取り調べは、全て会話を記録する。記録は3名が記録し、内容を照らし合わせて正しさを証明するので正式な証拠として採用される。王妃は畳み掛けるように国王が話を進めるので、すっかり忘れており、どんどん国王の罠に嵌っていく。


「とにかく、影の仕事をしていない者を雇う事は出来ぬ。ジルがクリステルを襲った理由が分かればコックのように情状酌量があるかもしれぬが……でなければすぐに出て行け。王妃とヒューには別の影がきちんと付いておるから守りは問題ない。そもそも、お前達は仕事もせず城を出ておったようだしな。今後は、影を嫁ぎ先から連れてくる事は禁じる。貴族には全員通達を入れる。多少王妃の実家の立場が悪くなるかも知れぬが……自分達が連れて来た影が、王家の者を殺したのだ。これがどれほど問題であるか……分からぬとは言わせぬ」


「アナタ……待って……誤解なの……」


「何が誤解なのだ? これは決定事項だ。仕事をせぬ者は雇えぬ。影は私に絶対服従の筈だ。私に忠誠を誓わぬ影は要らぬ。更に王家の者を殺した男の家族など……どこに信じる要素があるのじゃ。ああ、共犯かもしれぬな。だからわざと不在にしたのか……衛兵、此奴らを捕らえて取り調べろ。拷問しても構わぬ。そうじゃ、ジルの部屋も調査する。案内せよ」


ジルが、いつも依頼書を机に置いているのを知っている3人は、震え上がった。なんとか依頼書だけは破棄しないと……、焦った3人は、国王一行の後ろに居たヒューが動いた事に気が付き安堵した。


ヒューは、そっとその場を去り、急いでジルの部屋に向かった。それも……国王の罠とは知らずに……。

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