第11話 国王の粛清
「クリステルが暗殺された」
国王は、淡々と皆の前で告げた。
既に王女として実績を積み始めており、隣国に嫁ぐ予定だった王女の暗殺は、すぐに公表された。
「クリステルは、本日婚約破棄の申し入れがあった」
それを聞いた貴族たちは、ざわざわと騒ぎ始めた。クリステルは国に残るほうが良いのでは。自分たちがそう言ったせいで彼女は婚約破棄されたのかもしれない。
罪悪感を覚える貴族も多かった。
「先程、隣国の国王にもクリステルが暗殺された事をお伝えした。婚約破棄を申し入れたのはあちらだ。クリステルは落ち込んだ様子だったので気になって様子を見に行ったら、既に殺されていた。遺体は損傷が酷かったので、すぐに火葬して埋葬した。あんな姿は……見ていられなかった……」
国王の憔悴した様子に、貴族たちは哀れみを覚えた。
「葬儀は明後日だ。これより、王家は喪に服す。期間は3ヶ月だ」
王妃も、ヒューも喪服を着て俯いていたが、内心は笑いが止まらなかった。
「暗殺犯は既に処刑してある。クリステルの遺体の前に居るところを発見し、犯行を認めたのでその場で私が処刑した。なにか、質問はあるか?」
貴族は、恐る恐る国王に質問をした。
「あの……暗殺犯は誰だったのでしょうか」
「クリステルに付けていた影だ。既に処刑し、燃やし、打ち捨てた」
ざわめきが、一層大きくなった。影と言えば、王家に忠実な配下。王家に牙を向くなどありえないからだ。
「正式な影ではない。クリステルに影を付ける余裕がなかったので気になっていたところに、王妃からの紹介だと現れてな」
貴族たちが、一斉に王妃を見た。王妃は、あまりのことにを金切り声を上げた。
「知りません! わたくし何も知りませんわ!!!! あなた! わたくしを疑うの?! 証拠もないのに!!!!」
「疑ってなどおらぬ。ただの事実だ。ジルはそなたが実家から連れてきた影の息子であろう? だから、信用した。だが、間違いだったようだな。クリステルが死んだのは、彼を信じた私のせいだ。私が発見した時には、クリステルの遺体はほとんど燃えていた。クリステルの顔に……火が……。消化したが間に合わず、残ったのは私が掴んだこの髪だけだ」
憔悴した様子の国王が見せた髪の毛は、僅かであったが、確かにクリステルのものだった。
「それは……クリステルの髪……」
「銀髪は珍しい。城ではクリステルとクリステルの母だけだった。どちらも、居なくなってしまったが……」
そう言って国王は、顔を俯けた。貴族の中には、哀れに思いすすり泣く声もする。重苦しい空気の中、王妃が口を開いた。
「クリステルの事はかわいそうに思います。でも、わたくしは何もしていませんわ」
「私は王妃を疑ってなどおらぬ。証拠があれば別だがな。だが、何故クリステルが死んだのかは知りたい。ジルの家族から話を聞きたい」
「かしこまりました。この後すぐに手配しますわ」
「本日はこれで解散する。3ヶ月は必要最低限の謁見しか受け付けぬ。皆もクリステルを悼んでくれると嬉しい」
いくら冷遇していた王女でも、自分の娘の殺害現場に居合わせた国王は哀れだ。貴族も、使用人もクリステルを悼んだ。
クリステルの世話をしていた使用人は全員調査され、クリステルの食事をメイドが奪っていたことも明るみに出た。それを知ったコックは、国王に懺悔し仕事を辞そうとした。
だが、国王は許した。コックは真面目にクリステルの食事を作っていたからだ。
それからコックは泣いて国王に忠誠を誓い、毎日クリステルの食事を作り、彼女の墓に届けるようになった。
しかし、コックのように許された者は僅かだった。クリステルを冷遇していた使用人は全員調査され、罪の度合いによるがほぼ全員クビになった。それでも、誰一人として王妃から命令されたとは言わなかった。
王妃の事を言えば殺す、言わなければ次の職場を斡旋すると王妃が言ったからだ。
クビになって城を出た使用人達は、全員王妃の実家に雇われた。だが、数ヶ月もしないうちに、全員が殺されたり、行方不明になった。その事を知る者は少ない。
何も知らない市民は、王女の暗殺を嘆いた。
婚約破棄をした隣国の王子は、婚約破棄をした事を自分の父に話していなかった。意気揚々と国に戻り、報告しようとしたらクリステルが暗殺されたと聞いた。
「何故、婚約破棄など申し入れた」
「そ……それは……」
「言えぬのか」
「いえ……その……王妃様から……クリステル様は普段はいい子のフリをしているが、様々な男と関係を持っていると……」
「あの王妃の言葉を信じるなと言ったであろう。クリステル様が亡くなったきっかけを作ったのは間違いなくお前の婚約破棄だ。お前のような者に王位はやれん。廃嫡する」
廃嫡された途端、今までチヤホヤされていた女性から相手にされなくなった王子は、絶望した。一生懸命自分に尽くすクリステルの笑顔を愛しく思っても、その笑顔を見る事は叶わなかった。
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