第8話 暗殺者と王女は今後の計画を立てる
「もちろんそのつもりよ。物は要らないわ。元々、そんなに与えられていないし」
「お姫様なんだから、贅沢できるはずなんだけどなぁ」
「王族が贅沢できるのは、その分の責務を担ってるからよ。わたくしは、もう王族には戻らないわ。王族の責務を放棄したんだもの。一生懸命やる理由がもうないわ。わたくしが頑張れば命が狙われるなんて、割に合わないもの」
「そうだな。多分、明日くらいには街に噂が広がり始めて、2〜3日中に姫さんが死んだって発表されると思う。すぐ街を出ようと思ってたけど、姫さんの死が発表されるのを確かめてからの方が良いか?」
「すぐ出ましょう。王都から離れれば、とりあえず一安心だと思うわ」
「分かった。クリスはどんなところで暮らしたい?」
会話をしながら、ジルはクリスの髪を整えていく。髪の色を変える染料は、月に1回染めれば良く、普段の洗髪では色は落ちない。様々な染料を混ぜて染められるので、クリスの希望通りジルと同じ髪色に染めていく。
「わたくし城から出たことがないの。だから、どこが良いのか分からないのが本音ね。生活費を稼ぐ必要があるでしょう? どうするの?」
「国王からの金で普通に生活するにはだいぶ保つんだが、仕事してねぇとなにかと目立つからな……定住も怖いし……クリスが良いなら、行商でもやるか? それなら街から街へ移動できるし、初期費用はそんなにかからない。移動するから見たことない街もたくさん見られるし、オレが仕事でクリスと離れなくてもいい。それに、定住しないから正体がバレるリスクも少ない。行商に許可なんて要らねぇし、自由だぜ。その分、失敗したら終わりだけど。ま、俺達は国王からの金があるから、リスクはほとんどねぇな」
「いろんな街に行けるの?! 素敵! わたしく城から出たことないから、嬉しいわ!」
「クリスは結構、好奇心旺盛だよな。お姫様してた時より楽しい暮らしを約束するよ。庶民の飯は美味いんだぜ。クリスの食事、社交の時以外はすっげぇ質素だったもんなぁ。味なんてついてねぇし、キツかったろ。あれ、使用人がガメてたからあんな質素だったんだぜ。今頃、国王にバレてクビになってんじゃね? 国王はクリスを守るために我慢してたけど、もう我慢する必要は無いって言ってたからな。あん時の国王は怖かった」
「そうなの?! 嬉しいような怖いような……でも、もう城のことはお父様にお任せしましょう。わたくし達が見つかる方がお父様のご迷惑になるわ」
「国王は、クリスが幸せになれば満足だろうからな」
「ええ、手紙にそう書いてあったわ。行商は楽しそう! やりたいわ! ねぇ、何を売るの?!」
「人気なのは食料だけど……腐ると困るんだよな。王都にある安価で日持ちする食料を中心に仕入れるつもりだ」
「それなら、調味料が良いわ」
「調味料?」
「ええ、物によっては日持ちするし、地方では味付けは塩が中心だもの。売れるんじゃないかしら?」
「そりゃいいな。じゃぁ、商品を仕入れに行くか。あと、馬車の手配も必要だな。クリスはここで休んでな。ここなら安心だから」
「いや!」
「へ?」
「ジルと離れたくないの。疲れてなんかいないわ。今までで一番体調が良いもの。だから、一緒に行っても良い?」
「もちろん構わないぜ。オレもクリスと離れたくないし。じゃぁ、今日は休むか? 今すぐ、出かけるか?」
「ジルが疲れていないなら、今すぐ行きたいわ!」
「了解。ほら、髪も変わったぜ。これなら姫さんには見えないだろう? どうだ?」
ジルに促され鏡を確認したクリスは驚いた。鏡に映る自分は、別人のように生き生きしていたのだ。
「これ……わたくし?」
「可愛く仕上がったな。どっか気になるとこあるか?」
「……ないわ」
「そうか、そんなら着替えはこれだ。庶民の服だし一人で着れると思う」
「わたくし、普段も一人で着替えてるわ」
「そうなのか? 着替える時は音だけ気にしてて覗いてないからな。メイドが居なかったから、一人でやってんのかとは思ってたけど、マジで一人で着替えてたんだな。よくあんなドレス着れるよなぁ。んじゃ、オレは部屋を出てるから。もう染料が布に付くことはないと思うけど、強くこすると取れるかもしれないから気をつけろよ」
そう言って、ジルは部屋を出ていった。クリステルは、鏡をみつめて呟いた。
「わたくし、こんなに楽しそうな顔が出来たのね……。いつも、つまらないって言われてたのに。ジルと居ると楽しくて仕方ないわ。なんて不思議な人なのかしら」
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