第5話 王女は父の愛に気付く
「お父様は、わたくしを気にかけて下さってはいたみたいだけど、わたくしとの会話はゼロに近かったのよ? 大事にされてる訳ないわ。よくお金なんて預けてくれたわね。居場所を報告しろとか言われなかった? そのうち、またどこかに嫁がせるつもりなのかも……」
「気持ちは分かるが、国王は姫さんをめちゃくちゃ大事にしてるぜ。大事だったから、姫さんと話さなかったんだ。国王が姫さんを冷遇してれば、王妃は姫さんに手を出す事はない。だから、影も付けなかった。けど、信用出来る自分の影にちょくちょく様子を見に行かせてたらしいぜ。幼い頃に、池に落ちた時すぐ助けて貰えたり、食事が足りねぇ時にいつの間にか食事があったり、しなかったか?」
「したわ……あれ、お父様だったの?」
「王妃にバレねぇように、さりげなくだったみたいだけどな。国王は言わねぇけど、クリスがオレを助けてくれた時にも手助けしてくれたんじゃねぇかな? 手当、完璧だったし。使用人に味方を作るのは無理だったらしくて、影に頼むしかないって言ってた。いつもすげぇ心配してたぜ」
「……そっか……わたくし……要らない子じゃなかったのね……」
クリステルは、涙が溢れて止まらなかった。ジルは、クリステルにハンカチを差し出して涙が止まるまで優しく付き添った。
クリステルの涙が落ち着いたのを見計らって、ジルは手紙を取り出した。
「これ、国王からだ。万が一の事もあるから、読んだら燃やせって言ってた。オレはなんか飲み物でも貰って来るから、ゆっくり読んでくれ。この宿は安全だ。なんせ、国王のお忍び用の部屋だからな。従業員の口も硬いし、存在を知ってるのは国王が信用した奴だけだ。もちろん王妃は知らない。念のため1日休んだらもっと遠くへ逃げる。でも、今日はゆっくり休んでくれ」
そう言って、ジルは部屋を出て行った。
クリステルは、恐る恐る手紙を開いた。そこには、公務で見る父の字が書かれていた。ところどころに、涙の跡がある。
父がどんな気持ちでこの手紙を書いたのか、クリステルには痛いほど分かった。
涙を何度も拭いながら、手紙を読み進めた。
手紙には、国王の謝罪が書かれていた。それから、ジルの仕事ぶりや、国王が信用した理由も書かれてあった。最後に、幸せになれと滲んだ文字で書かれていた。
クリステルは、手紙を抱きしめ声を上げて泣いた。
手紙は、誰にも見られる訳にはいかない。本音は、何度も読み返せるように取っておきたかったが、それは許されない。手紙の内容は自分と父しか知ってはいけないとクリステルは分かっていた。
何度も躊躇して、ようやく手紙を暖炉に放り込んだ。全てが灰になった事を確認したクリステルは、しばらくぼんやりと暖炉を見つめ続けた。
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