第3話 王女は、目覚める

「寝心地はどうだ? お姫様」


「最高ね。こんなに穏やかな朝を迎えたのは久しぶりだわ。まさかいきなり意識を刈り取られるとは思わなかったけど。しかも、ご丁寧に自決用の毒まで回収してくれちゃって」


「悪りぃ、時間がなかったんだ。姫さんが気絶してくれてりゃオレが一気に運べるから。申し訳ないけど眠って貰った。安全な薬だから残る事もないぜ。不眠症の時とかにも使うんだ。最近、眠れてなかったから丁度いいと思って。あと、毒は回収するに決まってんだろ。せっかく攫ったのに、死なれちゃ困るんだ。世の中には、楽しい事がいっぱいあるんだぜ」


「そう……分かったわ。もう一度だけ人を信じてみる。だから、裏切るときはちゃんとわたくしを殺して頂戴。ところで、どうしてわたくしが眠れていないと知ってるの?」


「オレ、姫さんの影だから」


「影……、わたくしにそんな貴重な人材を付ける訳ないわ」


影とは、王族につく護衛である。その名の通り、常に影から王族を守り、決して表に出ない。故に、影と呼ばれている。


影は、優秀な人物でないとなれない。優秀な騎士と隠密の能力が必要だからだ。現在王家が抱えている影は、王族1人につき3名から5名程。常に守ると考えると、決して多い数ではない。そして、クリステルの知る限り、クリステルに影は付いてなかった。


「オレさ、王妃から姫さんの監視をしろって言われたんだ。だから、国王んとこ行って、姫さんの影にしてもらった。王妃には国王を騙して影になったから、堂々と監視できるって言ったら、騙されてくれたぜ。影として国王と会えるから、そん時王妃に漏らしてもいい姫さんの情報を調整してた。嘘は報告してねぇから、王妃も信じてると思う。そうそう、オレは姫さんの暗殺犯として捕まって秘密裏に処刑されるんだ。王妃は僅かな期間だけ、自分の思い通りになったと思って幸せを謳歌してるだろ」


「僅かな期間……ってどういう事?」


「親父と兄貴は、城に影として仕えてるから、影が最も優先しなきゃいけねぇのは国王だ。けど、親父も兄貴も一族の掟だと王妃を優先する。国王はそれを分かってたけど、目立ったミスのない俺たち一家は見逃されてきた。けど、今回オレが姫さんを殺したってなると話は変わる。姫さんの母上は証拠がなかったけど、今回は証拠がある。あの王妃、暗殺頼む時に依頼書を書くんだぜ。筆跡はバッチリ王妃のもの。兄貴達は依頼書なんて求めねぇけど、オレは頭の悪いフリをしていつも暗殺の依頼書を求めてきたんだ。暗殺が済んだら王妃に渡してたし、王妃はオレを信用してたから、今回もいつもの通り依頼書を書いてくれた。オレが捕まる前に兄貴達に回収させるつもりだったみてぇだけど、依頼書は既に国王に渡してある。偽物をオレの机に置いてあるから、兄貴達はそれを燃やして安心するだろう。今まで暗殺の依頼書はいつも机に置いてたからおかしいとも思われないと思う。親父たちは自分たちに火の粉が来ないように、オレが姫さんに横恋慕して、断られて激昂して殺したとかストーリー作るんじゃねぇかな? けど、本物の依頼書は国王が持ってる。あんだけ分かりやすい証拠があれば……いくら王妃でも、タダじゃすまねぇ。王妃の実家の権力が大きくてなかなか手出し出来なかったらしいけど、悪事の証拠を握り潰せる程じゃねぇ。しかも、姫さんは王家の血筋だ。王家に入った王妃や姫さんの母上よりも、姫さんを暗殺する方が罪は重い。姫さんの喪が明ければ、王妃は終わりだよ」


「そんな作戦を実行したら、貴方のお父様やお兄様も危険じゃない!」


「知らねぇよ! あんな奴ら! ……悪い、怒鳴っちまって。オレ、拾われっ子なんだ。だから、幼い頃からあんま大事にされてなかった。あん時も、親父はオレを殺すつもりだったんだ。姫さんに助けられたから、いっそスパイとして仲良くなれって言われた時は、親父に殺意が湧いた。けど、せっかく姫さんが助けてくれたのに死ぬ訳にいかねぇから、我慢して親父の言う事を聞いてきた。何人も殺したぜ。なぁ? オレが怖いか?」


「今更ね。暗殺者について来た時点で貴方が誰も殺してないなんて思ってないわ」

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