第12話 ……任命ですわ!

「ふ、不健全ですわ!? 恋人でもありませんのに!?」


 朝と言うには遅い――午前10時過ぎ。


 例の引きこもりが療養中の病室に。


 突入ですわー!


 けれども。


 玉村たまむらさんとベッドで就寝中。


 しかも、互いに手、手を握りながら!?


「お! は! よ! う! ですわー!」

「!?」


 わたくしの発声に。


 体を一瞬びくっとさせて反応したのは。


 真紅のキャミソールを着ている彼女の方。


「その寝巻き、セクシー過ぎでは? ポロリは許しませんよ!」

「!?」


 とある事情から。声を失ってしまったので。


 意思疏通が難しいですわね。


 これでは、ますます困惑させていますわ。


「今日は相談事が……そちらのニートさんに!?」

「たま姉、たまんねぇ! ぐふふふ!……むにゃむにゃ」


 下劣な寝言を言いながら。まだ、起きないですわ!?


「寝過ごしは自堕落の象徴です! 起きなさい!」

「……うーん、おもちをこねるのは大変。むにゃ?」


 誰がもちもち野郎ですって!?


 何たる屈辱!


 仕方ありません、実力行使ですわ!


「では、リクエストに答えて……必殺! もっちープレスですわー!」

「ふんぎゃあ!? 上から鏡餅かがみもちが!? 重たいよお!?」


 おーほほほ! 貧弱な体ですわー!


 のしかかっただけで、この威力!


 お疲れちゃんですわー!


「……一体、何しに来たんだ? もっちり姫。たま姉とのラブリーな生活を壊さないで!」

「昼ドラですの!?……ちょっとした、世間話がありますの」





「……あのさあ。話をする相手が違うと思うけど?」

「がるるる! ばうばう!」


 響愛きょうあい学園での騒動を一通り説明しましたけど。


 見事に撃沈。


「だって、その赤羽あかばね君が黙秘もくひしてるのが原因だろ!? そっちを説得するべきだよね!?」


 同意を求めつつ。


 玉村たまむらさんに泣きついている。


 いえ、相変わらず密着していますわ!


「で! す! か! ら! そちらが難しいので相談してますの!」

「解決する気が無いんだから。放置で良いじゃん? そもそも、事件が起きた時点で皆、敗者。解決なんか……出来るものでもないけど」


 出ましたわね。


 常套句じょうとうくの悲観主義が。


「事情を聞いて知らぬ存ぜずな態度は、わたくしの矜持きょうじが許しませんの!」

「……もっちー、面倒めんどうくさいなあ」


 わ、わ、わたくしに向かって!? 


 面倒めんどうくさい女!?


「嘘ですわ!? 身なりには気をつけています!? 確認の為、くんかくんかして下さいませ!」

「体臭じゃねーよ!? 時々、ポンコツ令嬢れいじょうみたいにならないでよお!?」


 おかしいですわね?


 そうは言いつつ。


 警察犬みたいに現場の空気を吸い込んでいるのは。


 気のせいでしょうか?


「いたひよ? たまれえ?」

「…………」


 玉村たまむらさんが不届き者に対して。


 両頬りょうほほをつねっている。


 同棲どうせい生活の影響で。


 彼の取り扱いも様になっている。


「それで? 本題は?」

「短期間学園に連絡役として……任命ですわ!」


 決定事項を素直に伝えましょう。


 回りくどいと不快でしょうから。


「何言ってるの? この人? もっちりなの? もっちりだよね?」

「もちのろんで正気ですわー! 引き受けてもらえますの! ありがとちゃん!」


 話がまとまって安心ですわ。


「他の人材を派遣しろよ! 女子の学園に男性は駄目だろうが!」

月夜野つきよの家の使いですので。問題無しですわ?」


 些細ささいな事を気にしてますのね?


 あら? 乗り気では、ありませんの?


「それに! 玉村たまむら君を一人きりにさせるのは――」

「当然、玉村たまむらさんも一緒ですわよ?」


 療養中のお二方のサポートも忘れていません!


「学園の施設も豪華ですし。快適な環境も保証ですわ!」

が強い場所に行くなんて嫌だね!」


 結界? 中二病みたいな語録ごろくで理解出来ませんわ!


 


 

 


 










 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る