第11話 優先すべきは――

「うぇーい! 愛だね! ひゅー! よっ! ボブ子!」

「べ、別に。あの継子けいこ……さんに振り回されているだけです。それから、チャラい言葉であおるにゃ!?」


 しぶしぶ個人的な情報を開示かいじしたのに。


 この夏祭りの人が茶化ちゃかす始末。


 そのせいで。私は舌をんでしまった。


「えへへへ! 可愛いニャンコも居るです!」

「にゃあおーん! ふしゅー!」


 なかば、やけになりつつ。


 化け猫で抗議をする。


「お客様、ニャンコの入店は……あれ!? 居ない!?」

「店員さん、ちょうど良かったわ。アールグレイの紅茶を三人分お願い」


 女性の店員さんが不思議そうに周囲を確認しに来た。


 それを多華たか先生が追加注文として。


 たくみに誤魔化ごまかした。


「……すいません、多華たか先生。調子に乗って、騒いでしまって」


 弁明べんめいをしたい気持ちも……当然ある。


 けれど、どう言いつくろうと。


 弁護士の彼女に見透かされると思うので。


 素直に謝罪をべた。


「良いじゃない? 少しぐらい気がゆるんでも。ボブ子さん、日頃から真面目そうだから……なおさら、にゃ、にゃん!」


 唐突とうとつまねき猫のポーズを披露ひろうした!?


 は? 


 可愛いですけど! この弁護士さん!


 何故か私はキレ気味に。そう思ってしまった。


「ふおおおん! ニャンコな咲さん! ご利益りやくだから撮影さつえいしないと!」

「レーシングカーみたいな重低音!? 何それ怖い!?」

祀理まつりさん! さ、撮影しなくて良いから!?」


 口から異音を出しながら。スマホを連写してるし。


 ……ほんと、お祭り騒ぎな人です。


 ただ、不思議な事に。


 継子けいこ様関連で。


 もやもやしていた気分を。


 この時だけは、忘れ去ったみたいでした。




「結論としては、ボブ子ちゃんが後悔しない様に行動! だね!」

「……何の話ですか?」


 騒がしいお茶会の終盤。


 いきなりアドバイスみたいな事を言うのだから。


 流石の私も。聞き返す事しか出来なかった。


「事態の推移を見守って悪化するのが心配だよね? ボブ子ちゃんにとって、一番最悪な事は何かな?」


 どうやら、今回の事態に対するアドバイスらしい。


「……それは、継子けいこさんが殺される事です」

「それじゃあ、そうならない様に。『あの時、ああしていれば! 防げたのに!』とか。とりあえず、自分なりに悔いの無い様に対策しましょう!」


 ドヤ顔で占いみたいな曖昧あいまいな事を言われても!?


 でも、確かに。


 私にとっては学園の名誉や地位は。どうでも良い。


 優先すべきは――継子けいこさまの身の安全。


 なるほど。


 私にとって。


 何が一番重要なのか。


 その為だけを考えて、行動すれば。


 少しだけ、答えが出たかも?


「それ、誰かの受け売りですか? あなたを愛してる例の――変態さん?」

「は、はあ!? ち、ちげーもん!? このチゲなべ野郎!?」


 やっぱり、例の思い人らしい。


 でも、こんな事を言う人物は何者だろう?


 詐欺師や自称霊能力者のヤバい人?


 単に中二病の幼い人かな? 


 お祭り騒ぎの人の相手ですから。ええ。お幸せに。


「……

「咲先生? 何か言いました?」


 ぽつりと何かをつぶやいた気が。


 呪文みたいに。


「あ、あまり祀理まつりさんをからかっては駄目よ?」

「咲さん! やっぱりこのボブは悪いボブです!」

「ボブカットに善悪があるんですか!? ねえ!?」


 この奇妙な出会いが。


 後々の事象に関与するとは。


 全くもって。


 して無かった。





「やあ! お帰り! 僕の愛しいアゲハちょう!」

「ちっ……相変わらず頭の中も楽園ですね。継子けいこ様」


 学園に戻り、メイド服に着替え。


 療養中の迷惑な人を見舞ったけれども。


 無意識に舌打ちをする有り様ですね。はあ。


「なははは! 侮蔑ぶべつの表情もエクセレント!」

「……お変わり無い様で。さようなら」


 きびすを返して退出しようとする。


 この調子なら、刺されたわき腹も。経過は良好だろう。


「……今日は忙しかったのかな? 揚羽あげはさん?」


 足を止めて。


 あえて、振り返らない。


 探りを入れているのだろう。


 無かった事にした事件について――調べていないか等々。


「……気分転換に下界に行っただけですよ?」

「……ふーん。わざわざ、街にねえ。?」


 当たり障りの無い質問。


 少々、憎らしい。


 はっきりと聞かない所が。


 なので。


 それ相応に返答する。


「実は、女性二人にナンパされまして。喫茶店デートをしたぐらいですね!」

「……ちょ!? 冗談でしょ!? あげぽよ!?」


 せいぜい冗談か嘘か。


 悩まれる事ですね。


 部分的に真実である事には……気づけない残念な継子けいこ様。

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