朱に交われば
奈々野圭
第1話
私、
香苗は物心ついた時から、私の後を追いかけてくるような子だった。
私が親に「これが欲しい」と言うと、「私も」と言って同じものを欲しがる。私が「同じものを選んだら、どっちが自分のかわかんなくなるよ」と言ったら、「それでいいの。私、お姉ちゃんみたいになりたいもん」と返ってきた。
そういう感じで、読む本も、聴く音楽も、その時々で私が触れたものと同じものを手に取る。とにかく私と同じことをしたがったのだ。
ある時、私は香苗にこんなことを聞いたことがある。
「どうして、私の真似ばかりしたがるの」
すると香苗はこう答えた。
「だって……お姉ちゃんのこと好きだから」
きっと香苗にとって、自分の行動基準となるものが『姉の模倣』しかなかったんだと思う。
今ならそう考えられるのだが、如何せん、それを聞いたときの私は幼い。だから、香苗の言っていることが、さっぱり分からなかった。
私は、私の真似ばかりする香苗のことを「気味が悪い」と思わない、と言ったら嘘になる。
けれども、なんだかんだいって慕ってくれているわけで、そう考えると悪い気はしなかった。むしろ、可愛いとまで思えてくる。そういう気持ちになるのは「香苗は私の妹」だからだろうか。
香苗は小学校、中学校と学年が上がってきても、私の真似をし続けた。
私が高校生になり、時折メイクをするようになったときの話である。
香苗は「私もお姉ちゃんみたいになりたい」と言って私のコスメを使おうとしたのだ。これには、流石に我慢がならない。コスメというものは、直接肌に触れるものだ。いくら姉妹とはいえ、そういうものを使わせる気にはなれないのは当たり前だろう。
あと、香苗はまだ中学生だ。メイクをさせるとなると、親から何を言われるかわかったもんじゃない、というのもあるのだが。
このとき、私は「香苗はまだ中学生でしょ。メイクは高校生になってからにしなさい。あと、どうしてもっていうなら、自分で買ってきなさい」と言ったような気がする。
そんな香苗だったが、高校に入る頃になると、私よりも背が高くなっていた。
私は背が高い方ではない。スラッとしている香苗を見ると、羨ましく思うと同時に少し嫉妬したものだ。
香苗は高校生になっても、私のことを追っかけていた。
この歳になれば、わざわざ私の真似をする必要なんてないだろう。SNSにお手本が沢山あるというに。何故私の真似ばかりするのだろうか。
こんなことは言いたくないが、今の私は地味でパッとしない大学生だ。インスタ映えする要素など、微塵もない。服装だって無難だし、それにファストファッションだ。
見た目の話をすれば、香苗の方が人目に付く。背が高くて、スタイルがいいだけではない。香苗の方が、顔がいいのだ。もっとも、本人はその自覚がないようだが。
ファストファッションだって、私が着ると「金のないファストファッションを着ている女子大生」になる。それとひきかえ、香苗が着ると「ファストファッションを上手く取り入れる女子校生」になるのだ。まるで魔法でも使っているかのように。
あるとき、香苗に聞いたことがある。
「どうして、私の真似をするの?」
すると香苗はこう言った。
「だって……お姉ちゃんのこと好きだから」
またそれか。香苗はずっとそうなのだ。小さい時は、可愛げがあるからいい。しかし、今はそうではない。まだ未成年とはいえ、ある程度は分別があるだろうに。
オマケに地味な私と比べ、香苗は、美人ではないか。同じような服を着て、同じようなメイクをしても、私と香苗では、大分印象が異なる。
ここまで来ると、単なる当てつけだろう。何時まで経っても私の真似を止めない香苗に、私は苛立ちを覚えるようになった。
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