ぐっばい、ハッシャバイ。
@sidly
第1話 この国に生まれてよかった。
ハッシャバイが生まれたのは、東アジアに位置する経済の豊かな国で、なおかつ気候も温暖な、太平洋の広がる小さな都市の郊外だった。
ハッシャバイは人間に似ているが、人間ではない。
生きる術を切除された状態で生かされている、都合のいい存在だった。
遺伝子組み換えを行い、生殖器は取り除いた。人類との会話を邪魔するために、脳の言語野の機能をあらかじめショートさせられていた。
美形と呼ばれる要素はすべて潰された。他の生物と交雑することが決して無いように。
人工子宮の中でたくさんの“愛のシャワー”を注ぎ込まれた彼は、つながりは希薄だけれど、同じようなたくさんの仲間を持った。けれども、社会的、物理的につながることはなく、自由を許されなかった。
人手が足りない業界、特に建設、製造、介護といった3kのそろった場所に低賃金で補充された。
海を越えた国々において、仲間たちは暴行を受けた。目をくりぬいて、足を折られたりした。
精神がおかしくなり、自害のような形で死を選ぶものもいた。時にはプロレスラーの相手としてサンドバックみたいに扱われた。
彼の働く工場の従業員や周りの人々は、こうした悲惨なニュースを手にするたびに、必ず以下のような文言を、“洗脳する”みたいに謳うのだった。
「よかったね。この場所に生まれて。あそこに生まれていたら、今頃、紙切れみたいに扱われるところだったね。」
ハッシャバイは胸に手を当てて、こう思う。
「この国に生まれてよかった」と。
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