2. 剣の精霊様?

2. 剣の精霊様?




 私は没落した貴族令嬢のサーシャ=グレイスに買って貰い、晴れて自由の身になった。とは言っても壺の中から出ただけで特に何か変わった訳ではないけど。


 かつて世界を救った大賢者の私も今はただの『アイアンソード』。ずいぶん落ちぶれたわね……。


「この場所でいいかな?」


 サーシャはそう言うと、野営の準備を始めるみたい。私は大木に立て掛けられたので、その様子を見守ることにする。


 どうやら焚き火用の薪を集めるために行くようね。あぁ~私を置いてかないでぇ~!なんかあったら大変よ!そう思っているとサーシャは思い出したかのように走って私を取りに戻って来る。


「危ない危ない。忘れちゃダメだよね。せっかく全財産で買った私の相棒なんだもん!」


 全財産……。そうかそこまでの覚悟で私を買ってくれたのか。サーシャが私を大事にしようとしてくれているのが嬉しい。でも少し悲しいなぁ……。だって私はただの『アイアンソード』だから……。サーシャとの意志疎通が図れない。


「じゃあ薪集めに行こうかな」


 サーシャは私を持ち上げると腰に差して歩き出す。しばらく歩くと、森の奥の方へ進んでいく。そして森の中から一本の大木を見つけて、それを切ろうとするけどなかなか切れない。まぁ仕方ないわよね、ついこの間まで貴族令嬢だったんだから。剣どころか重いものすら持ったことなさそうだし。


「うーん。硬い木だなぁ……」


 サーシャは困り顔で言う。この木を切りたいのね?それなら任せておいて。私もお手伝いするわよ!こういう時のために『大賢者』の私がいるんだから!私はサーシャが剣を振り抜く瞬間に風魔法のウインドカッターを詠唱する。すると剣先から風の刃が飛び出し、見事に切断できた。


「えぇ!?なんで!?どうして!?」


 サーシャはとても驚いている。それはそうだろう。剣で切るつもりが魔法で切られてしまったんだもの。しかも硬いはずの大木を簡単に。


「もしかして……このアイアンソードには剣の精霊様が宿ってるのかな……。それなら神様が困っている私のために……ありがとうございます!!」


 サーシャは嬉しそうに叫ぶ。神様なんてのはいないんだけどね。それなら、かつてこの世界を救った私をただの『アイアンソード』に転生させるのは酷すぎでしょ。


 それにしても剣の精霊か……これならいけるかもしれないわね。サーシャと一緒に戦えるかも。私は心の中であることを思い付く。というか心の中である必要は無いんだけどね。どうせサーシャには何も聞こえないだろうし。


「うん。薪は集まったからあとは火を起こすだけなんだけど……どうしようかな……」


 サーシャは集めた薪を地面に置くが、どうしたら良いか分からないようだった。火打石がなければ火を起こせないわ。でもサーシャは持ってないわよね、きっと。魔法が使えれば楽だけどサーシャは使えないし。


 この世界の人間は誰しも魔力を持つ。しかし「魔法」というものは修練しなければ使うことが出来ない。せめてサーシャが私を握ってくれれば……。そんなことを考えていた時、サーシャは私を見て言う。


「……よく物語で魔法使いが使う、ファイアボールとか唱えたら火が出たりして?」


 あら意外と鋭いじゃない。確かにその通りよ。世界を救った大賢者様に任せなさい!炎属性魔法は苦手だけど、ファイアボールくらいなら使えるわよ?


「うーん。さっきも大木が切れたし、本当に剣の精霊様が宿っているなら……やって見るしかないかな……」


 サーシャは私を握りしめると目を瞑る。そして精神統一しているのか、静かになる。そして私を振り抜きながら


「……ファイアボール!」


 サーシャが一言呟く。それに合わせて私は詠唱する……しかし何も起こらない。もしかしたら……さっきのウインドカッターでサーシャの魔力と体力を消耗しちゃったかしら……?


「やっぱりさっきのは偶然だったのかなぁ……はぁ残念。お腹……空いたなぁ」


 サーシャは諦めかけたように俯く。あぁ~ん。できるんだけど今は出来ないのよぉ~!ごめんなさいサーシャ……。


 結局サーシャは火起こしが出来ずそのまま寝てしまうのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る