第5話 あと1歩
クリスマスの翌日の昼、私は待ち合わせ場所の駅前で翠君を待っている。普段のカジュアルメイクではなくしっかりと時間をかけてメイクをし、髪も普段は使わないアイロンなんかを使いばっちり決めた。服装も買ってほとんど履かなかったロングスカートにヒールブーツ、ニットにコートとまるでデートのためのコーデだ。
浮かれているのはわかっている。昨日の夜、翠君に誘われてからドキドキしすぎて夜も眠れず、今も待ち合わせ時間30分前に来てしまっているのだから。
「朝陽さん。お待たせしました。すみません待たせてしまって。」
改札から出てきた翠君が私に気づいて、走ってやってきた。いつものようなラフな私服ではなくジャケットを着てきれい目に決めた翠君を見て、見とれてしまった。
「大丈夫だよ。私が早く来ちゃっただけだし、翠君も早かったね。」
「俺から誘ったのに朝陽さんを待たせるわけにはいきませんからね。それじゃあ行きましょうか。」
「うん。」
私たちは予定通りに今話題の恋愛映画を見るために映画館へと向かった。映画館はクリスマスの翌日というのもあってかなり空いており希望通りの席をとることができた。
「空いていてよかったですね。おかげでかなりいい席が取れました。」
「クリスマスの次の日だものね。みんなゆっくりしたいのよ。」
その後、上映時間まで少し時間があったため私たちは近くのカフェに行くことにした。お互いに注文を済ませ、世間話に花を咲かせた。
「ちゃんと勉強してる?何気に大学の勉強って大変でしょ。」
「はい、何とかついて行ってます。まぁでも、高校とかとは違って自分の好きなジャンルの勉強しかしないので楽しいですね。」
「確かにそうね。あの頃みたいに6時間受けるのなんてもう無理だもんね。」
「今思うとすごいことしてましたもんね。」
いつの間にか時間が過ぎ、上映時間が近づいていた。お会計を済ませ、映画館へ向かい席に着いた。映画のクライマックス、翠君の方を見ると、大粒の涙を流しながら 食い入るように見ていた。私はそっとハンカチを渡して映画を楽しんだ。
「いやー感動したね。翠君泣いてたし。」
「すいません、どうもこういう展開に弱くて泣いてしまうんですよ。」
「いいことなんじゃない。感受性が豊かで、私はあまり表情が変わらないからね。うらやましいよ。」
「そうですか?朝陽さん結構わかりやすいですよ。」
「うそ、私会社で表情かわらないよねってよく言われるんだけど。」
「喫茶店いるときの朝陽さんは結構コロコロ表情かわりますよ。映画の時も変わってましたよかなり。」
今まであまり表情に出てなかったと思っていたのに、初めてそんなこと言われて恥ずかしくなった。
「次の場所行きましょうか。まだ時間はありますから。」
「そうね。」
それから私たちは、少し離れた食べ歩きができる商店街へ向かい食べ歩きを楽しんだ。あっとういう間に時間は過ぎていき、気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。
「もうこんな時間ですね。それでは行きましょう。」
「?どこに行くの。」
「この後、お店を予約してあるんです。行きましょう。」
翠君が予約してくれたお店に向かうと、そこはかなりおしゃれな内装でウイスキーやリキュールなどのお酒の瓶がたくさん並んでいた。
「予約していた胡蝶です。」
「胡蝶様ですね。お待ちしておりましたこちらのお席へどうぞ。」
店員さんに個室の案内され、あまりにおしゃれな空間に呆気に取られていた。
「このお店、かなりリーズナブルでたくさんのお酒が楽しめるって有名なお店なんですよ。かなり人気だったんで予約出来てよかったです。」
「すごいね。かなりおしゃれだし場違いじゃないかな。」
「大丈夫ですよ。ここドレスコードなんてないですし、そんな緊張しそうなところ俺も嫌ですし。」
「そう、ならよかった。」
それぞれお酒を注文したお酒が届き、乾杯をした。
「今日は誘ってくれてありがとうね。いつもこの時期は家で寝てるしかなったからこうして出かけて楽しかったよ。」
「そういってもらってよかったです。無理しない程度でお酒楽しんでください。」
そこそこ飲んできもち酔ってきたころ、私は疑問に思っていたことを聞いてみた。
「翠君なんで私を誘ってくれたの?しかも、先輩の誘いを断ってまで。」
「・・きだからです。」
翠君はグラスに入ったお酒を飲み干し、何か言っていたが声が聞こえなず何を言っているのかわからなかった。
「ごめんなんて言った?」
「いえ、それはマスターからクリスマスに向けて朝陽さんが忙しいって聞いてたので労うのとクリスマスの代わりの思い出になったらと思って。」
「!ありがとう。」
翠君の答えに不意にドキッとしてしまったが悟られないように必死に笑顔を貫いた。2時間近く飲んだ後、解散ということで翠君が家に近くまで送ってくれた。
「今日はありがとう、ここまでで大丈夫だよ。もうすぐ近くだから。また喫茶店でね。」
「楽しんでいただけて良かったです。ご来店お待ちしてますね。」
翠君は別れた後、私が見えなくなるまで手を振っていた。家に帰りついた私は今まで我慢していた分、にやけが止まらなかった。
「はぁ、俺の意気地なし。」
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