もしも世界から私だけ消えたとしても

深海魚

プロローグ


 私は髪がショートカットで太ももが太いから運動部ってよく聞かれるけど、実はただの帰宅部。太ももが太いのは私にとってコンプレックスでしかない。

 勉強も運動もやる気ない。好きなことは友達と遊ぶこと。おしゃれにはそれなりに気を使う。友達の輪の中にいて、目立ちすぎず、目立たなすぎず、そういうバランス感覚が一番だいじだと思っている。

 君と初めて話したとき、君は僕と違う世界に生きてるって君に言われた。確かに、君と話すようになる前、私自身、自分をリア充だと思い込んでいた。

 君には友達がいなかった。でも、物欲しそうな顔はしてなかった。どちらかといえば、すべての欲望を断ち切った人のように見えた。

 私の場合、友達なんてほしいと思わなくても、気がついたらLINEでつながってる子が百人を超えていた。友達が連れてきた子と一度どこかで遊んだらもうその子とも友達になっていた。もとから友達はたくさんいたけど、私たちにとって友達の友達は友達と同じ意味だった。

 恋人だってほしいと言えばすぐに友達が紹介してくれた。

 これは運がよかっただけだけど、家がまあまあ裕福だったから、ほしいものがあると言えばたいてい買ってもらえたし、お金がほしいと言えば、

 「大事に使いなさいよ」

 くらいは言われるけど、必ずお願いしただけのお金をもらえた。

 怖いもの知らずだった。

 でも君と話すようになって気づいた。かつての私はいらないものを求めていただけだって。本当に大事なものが何か知らなかったし、知らなかったからそれを大事にすることもできなかった。

 私は君と話すようになって初めて本当のリア充になれた。いや違うな。違うといっても、今の私がリア充じゃないと言いたいんじゃない。

 だって私は、まだ一度も君と話したことがないのだから。まだ一度も君の声を聞いたことがないのだから――

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