4−6

べきべきばきばき。


木を薙ぎ倒しつつ爆走するカバの上でユウヒがふー、とため息をついた。


「びっくりした」


通過してきた山小屋は、山を越えたり山で作業する人が使うための小屋だ。

そこに船を沈めた荒っぽい連中がいる時点で真っ当な使われ方をしていないだろうと容易に推測はできる。

ただ、ユウヒからすれば住んでいる街の領地ではない上に、運び屋のお仕事とは関係ない。

見なかったことにして先を急いだ。


ユウヒにとって先を急ぐということは、最短距離をいくということである。

バキバキと木を薙ぎ倒しながら進んでいると、改めて街道に出た。

配達先の街にかなり近い場所である。


しかし、ユウヒは配達先の街には何回かきたことがあるが、カバで襲撃したことはない。


「怒られちゃうね。ヒポ、ありがとう」


呟いて、カバに礼を言いつつ降りる。

ぶもっとテンション高めに応えるカバの召喚を解除するユウヒ。


『召喚解除』


いくらユウヒとはいえ、このままカバで行ったら問題になることくらいはわかっている。

カバが魔法陣に消えて行ったのを確認してテクテクと配達先の街の城壁にある門に向かって歩いていった。



20分ほど歩くと、ユウヒの目に隣町の門が見えてきた。


領地争いしていると言っても、現在は戦闘行為を行っていない両街。

基本、両街の門は開けられており、この時も例外ではなかった。

住人や商人も門を通過して街に入っており、至って平穏な雰囲気だ。


とは言っても完全素通しというわけではなく門で警備する衛兵が一応目的を聞く程度の確認をしている。


「目的は?」

「商売、領主様にお届け物」


門を通って街中に入ろうとするユウヒに尋ねる衛兵。

いつもであればこのやり取りで問題なく通過できる。

領主への届け物は無数にあるため、このやりとりが怪しまれることはまずない。


ただ、この日は衛兵がもう一言加えた。


「商売か。それなら流行病に効く薬を持っているか?」

「今日は配達物しか持ってきてないよ?なんで?」


ユウヒは素直にとぼけた。

嘘はついていない。

衛兵はそうか、と頷きつつ続ける。


「領主様からのお触れでな。流行病の薬について尋ねることになっている」

「へー。持ってたら?」

「領主様に報告することになる。報奨金を払っていただけるぞ」

「そうなんだ、もし手に入ったら領主様に届けてみるね」

「ああ、そうするといい。通ってよし」


衛兵は問題ないと判断した様子でユウヒの通行許可を出して、次の通行者チェックに移っていく。

別の商人が通行者チェックを受けているのを見ながら、ユウヒは門を通過した。


門を抜けると、大きな通りに出る。

そして、配達先の領主邸宅は遠目に視認できるほどの広さであり近さだ。

この町が初めてでも迷いようがないほどわかりやすい道のりなのである。


忍び込むつもりならまた色々考えなければいけないが、この日の目的は正面からの配達。

そのためユウヒは、人通りの多いわかりやすい道を辿ってテクテクと配達先に向かう。


もう少しで目的地に到着するというところで唐突に後ろから声をかけられた。


「そこのお嬢さん」

「ボク?」

「はい、お嬢さん。先ほど門を抜けてましたよね」


門でユウヒの次にチェックを受けていた商人である。

ただ、ユウヒは次の通行者に興味を全く持っていなかった。

そのため、知らない人、と判断を下す。


「どちらさま?」

「先ほど、街の門でお見かけしましてね。領主様にお届け物とか。どちらから?」

「門で見かけた、ってことはボクは知らなくて良い人だね。よかった」


会話を成立させなくて問題ない相手だと理解して胸を撫で下ろすユウヒ。

そして何事もなかったかのように、領主邸へ向けてさっさと歩み始めた。

一方話しかけてきた商人は困った表情を浮かべて追いかけながら話を続ける。


「いえ、私も領主様のお屋敷に届け物でしてね。よければご一緒しませんか?」

「この道まっすぐいくだけだよ?」

「それでも商人は情報も扱いますので、お話しできる機会は貴重なのですよ」

「ボクは役に立つことなんか話せないよ。それにもう着くしね」


ユウヒは足を止めずに歩いたため、領主邸宅の門がもう目の前になっていた。

もう話しながら歩くほどの時間はない。

諦めたように商人はユウヒに告げた。


「残念ですが、また今度」

「はーい。じゃあ、ボクはあっちの門番さんにお話しにいくね」

「はい、では私はあちらの門番に話に行くことにします。それではまた。」


2人は別々の門番に用件を告げにいった。

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