4−2
領主邸宅を出た商人の女性は、その足で商業ギルドに向かう。
彼女からすれば久しぶりの街ではあるが、さすがに自分の所属するギルドまでの道は迷わない。
間も無くギルドに到着し、ドアを開けた。
ギルドのロビーでは、ばらばらと商談をしている商人たちの姿がある。
女性もこのギルド所属しているため、顔見知りの商人達と久しぶりの挨拶や情報交換をして、受付に向かった。
「いらっしゃいませ。お久しぶりです」
「久しぶりだね、元気だった?」
「はい、元気ですよ。薬草の件ご苦労様でした」
受付嬢も顔見知りの様子で、旧交を温める2人。
しばらく他愛ない雑談をして、女性は切り出した。
「ところで、今日は仕事の依頼なんだけど」
「はい、どんな依頼ですか?」
「運び屋『兎』に仕事を頼みたいの」
受付嬢は予想していた様子で応える。
「やっぱりですか。費用も結構高いですけど、ご存知ですよね」
「領主様の依頼だし大丈夫じゃないかしらね」
「もう、あの子大丈夫かしら……」
女性が出した領主様という言葉は、高報酬と同時に仕事の重要度や危険度を保証するこの上ない言葉である。
受付嬢からすると、時に危うく、時に危険なユウヒに任せる仕事のハードルがどんどん上がっているのが心配で仕方ないのだった。
しかし、借金返済するために働いているユウヒの事情も知っているため、稼ぎ時を邪魔するわけにもいかない。
すぐに気を取り直して女性に答えた。
「失礼しました、兎を呼んで来ますね」
「あ、私直接いくわよ?どこにいるのかしら」
「じゃあ、裏庭に行ってみてください。まだいると思います」
「裏庭?何でそんなところに?」
「日向ぼっこしてると思いますよ」
「日向ぼっこ?」
「行けばわかります」
笑う受付嬢に見送られ、首を傾げながら女性は裏庭に向かった。
「清く正しく日向ぼっこね」
裏庭に到着した女性の目に映ったのは、まさに日向ぼっこだった。
暖かい日差しの下、時々欠伸をしながら動かない亀。
その亀にもたれかかって、口を半開きで寝ているユウヒ。
そのユウヒのすぐ側で、へそ天して寝ているウサギ。
「……起こしていいのかしら」
ここまで気持ちよく全開で日向ぼっこしているとは思わなかった女性はどうしたもんかと悩む。
ただ、彼女も仕事の依頼できているので、このまま待っているわけにもいかない。
亀にもたれかかるユウヒの側に行く女性。
むにゃむにゃと寝言を言う爆睡っぷりのユウヒを起こそうかと手を伸ばすと、亀の甲羅が一瞬光ってユウヒとウサギの周りを結界が覆った。
「起こすなってこと?」
亀の甲羅がまた一瞬光るのをみて、ため息をつく女性。
「また立派なナイトに守られているのね。でも、ほんと気持ちよさそうに寝てるわね」
亀の甲羅がまた一瞬光る。そして大きく欠伸した。
爆睡中の面々を見て女性も次第に眠くなってくる。
「私も休めてないのよね……。一緒に昼寝させてもらってもいいかしら」
女性が亀に話しかけると、亀はまた甲羅を光らせて結界を解除した。
「亀さん、ありがとう」
女性は亀の反対側の甲羅にもたれかかって座る。
暖かい日差し、溜まった疲れ、のどかな雰囲気という条件を満たした睡魔は、一瞬にして女性を眠らせたのであった。
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