3-6
「うわっ」
「おっと」
急に船が海中で出発したかのように動き出し、声を上げる女性とユウヒ。
ユウヒは船を魔力が覆っており、物体操作の魔法が発動したのを感じ取る。
「引き上げ始まったみたい」
「ああ、そう言うことなの?びっくりしたわ」
移動したさいに踏ん張り損ねて転がっていく兎を女性がキャッチしてユウヒに渡す。
受け取りながらユウヒは話した。
「この感じだと、もうすぐ陸に着きそうだね。領主様も来てそうだし」
「そうね。流石に領主様には連中も喧嘩売れないでしょう」
喋りながら女性は積荷が崩れないようにチェックしたり抑えたりしている。
ユウヒは船室の窓から外を見て陸側に引っ張られていることを確認した。
海底が浅くなっていき、海底の砂を船が擦り始める。
揺れが激しくなったかと思うと間も無くして砂浜の上に船が引っ張り出された。
船に溜まっていた海水があたりに漏れる。
一方、砂浜では領主とギルド長が引き上げられた船を見て顔を強張らせていた。
「領主様、これは」
「間違いないな、故意に沈められたか」
「船員が逃げ出して影も形も見えなくなっていることも含めて、確信犯ですね」
「……治療薬を作るのをそこまでして邪魔したいのか」
苦虫を噛みつぶした表情を浮かべる領主とギルド長。
魔法使い達による引き上げポイントにて衛兵達を引き連れて待機していた。
引き上げられた船の船側には大きな穴。
領主とギルド長が見据える船側の穴奥にはいまだ結界が展開されているのが見える。
壁は焦げており、自然にできるようなものでないのが一目瞭然だった。
船が停止すると、ユウヒが中から扉を開ける。
ギルド長の姿を見ると手を振り、中の女性に声をかけると結界が解除された。
ギルド長はユウヒの元に歩み寄り、声をかける。
「ユウヒ、大丈夫か?」
「うん、お仕事完了。お姉さんも無事だよ」
ユウヒが答えると、女性も中から顔を出す。
女性は領主を見ると、船の穴からなんとか外に出て報告する。
「領主様、ご依頼の薬草なんとか調達してきました」
「ご苦労。無事か?」
「はい、なんとか」
商人が怪我をしていないこと、積荷が無事そうであることを確認して少し表情を緩めた領主。
女性に確認しながら、衛兵達に積荷を領主邸に運ぶように指示を出す。
荷物が運び出されるのを確認すると、表情を引き締めて女性に謝罪した。
「すまんな、判断が甘かったようだ。ここまでやられるとはな」
「はい、私も予想できませんでした」
「報酬は追加させてもらう。ただ、取り急ぎこの後の流れについて話させてもらえるか?」
「わかりました、よろしくお願いいたします」
「馬車に乗ってくれ。領主邸で相談させてほしい」
促す領主にこたえて馬車に乗り込もうとする女性。
馬車に向かう直前、ユウヒに声をかける。
「ユウヒ、ありがとう。助かったわ」
「どういたしまして」
「さっき手伝いたいって言ってくれた件。後で連絡するわ」
「うん、わかった」
領主と共に馬車に去っていく女性を見送ったユウヒ。
鞄の中から一緒に見送った兎の頭を撫でつつ、ギルド長と一緒に街への帰路についたのだった。
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