1章 配達物:妹
1−1
「おねがいだ、妹をたすけてくれよ!」
街の入り口。
満身創痍という表現がふさわしい恰好の青年が、見張りをしている衛兵に呼びかけた。
「何があった?落ち着いて話してくれ」
「隣街からここに来る途中でゴブリンの群れに襲われたんだよ!」
「ゴブリン?どこでだ!」
気色ばむ衛兵たち。
ゴブリン単体では大した事ない強さだが、集団で連携して行動するため非常に厄介な存在だ。
彼らは知能が高く、衛兵で防衛されている街を襲撃することはほとんどない。
しかし、行商人や薬草採取している人間など、街から離れるタイミングを狙って襲撃することは時々あった。
「街道から少し山に入った山小屋だよ、頼む!」
「あの山小屋か」
途端に苦い顔をする衛兵たち。
表情の変化を気にする余裕もなく青年は続ける。
「なんとか小屋に逃げ込んで、結界石を使って籠ってたんだ」
「……」
「あいつら全然諦めなくて。結界石も1日しか持たないし。このままだとじり貧だから、何とか一人で抜け出して助けを呼びに来たんだ。お願いします!」
「あのな、言いにくいんだが」
そこまで話したところで、青年は衛兵たちの表情が曇っていることに気づいた。
「は、はい」
「その山小屋があるところは隣町の領地でな。領土侵犯になるから我々が向かうことはできないんだよ」
「……え?」
「すまんな。隣町にいって、そちらの衛兵に頼んでもらえるか」
呆然とする青年に対して、衛兵たちは申し訳なさそうな表情を浮かべつつはっきりと助けを拒絶した。
「いや、だって、あっちの街に戻ってそこからって、何日かかるかわからない!」
「すまん」
隣町の外壁、衛兵がいるところまでは馬車でも2日程度かかる。
馬でいったとしても1日くらいは必要だ。
青年の悲痛の叫びは届かず、衛兵たちにできることは謝罪だけだった。
「くそ、なんとか急いで助けに行く方法はないのかよ」
「……。ここからは独り言なんだが」
うなだれる青年をみて、そこまで無言だった年配の衛兵がつぶやく。
「?」
「この街に運び屋がいる」
「運び屋?」
「人でもなんでも、どこまでも届けてくれる。ただ」
顔をあげる青年からは視線をそらし、あくまでも独り言の体をとり続ける年配の衛兵。
「ただ?」
「かなり金額を吹っ掛けられる。そして、ちょっと荒い」
「だとしても!元の街に送ってくれるのであれば頼みたい!」
最速で隣町に向かわないと間に合わない。
青年の目に迷いはない。
年配の衛兵はそれを見て、続けてつぶやいた。
「この道をまっすぐ行ったところに商業ギルドがある。そこの受付で、兎に荷物を届けてほしい、と言ってみろ」
「兎?」
「兎に荷物を届けてほしい、だ。それで通じるはずだ」
「ありがとう!行ってみる」
「妹さんの無事を祈っている」
礼を述べ、指示された道を駆け出してく青年。
最初に声をかけられた衛兵は年配の衛兵に話しかける。
「隊長、兎紹介して大丈夫だったんですか」
「我々が助けられない以上、仕方ないだろう。彼らの無事を祈ろう」
それぞれの信じる神に祈りを捧げて、青年を見送った。
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