愚者は踊る
弥生
第1話 愚者は踊る
弓の名手と呼ばれた彼が、反旗を翻したのはいつの頃だっただろう。
正規軍に所属する私は、その知らせを聞いたときに耳を疑った。
彼は確かに、昔から腐った上流階級に良い印象は持っていなかった。
いつだって、その
義賊として貴族の馬車を襲っては、その財を貧しき人に分け与えていたと伝え聞く。
系譜による楔にて、私は王宮騎士団に所属することになったが、道が分かたれた私に迷惑はかけまいと、彼が義賊として名をはせるようになった頃に、決別の手紙を一方的に送り付けられた。
彼は小規模な義賊を率いてはいたが、正式に国に反旗を翻すことはなかったはずだ。
処刑台に上る彼を、爪が食い込み血が流れ出るほど拳を握りしめながら見つめる。
「どうやら、世のため人のためと、弟に誑かされたか」
「殿下」
皮肉げに嗤うのは、密やかに世を憂い、父王の死去を待ちわびている第一皇子。
一斉に腐った者たちを粛清すべく、準備を慎重に進めていた最中……だった。
「父の首や私の首を取れたら御の字だったのだろう。弟の甘い言葉にまんまと引っ掛かりおって」
……。
今回の首謀者は義賊の彼。
弟殿下は彼を使い捨ての駒にしたのだろう。
「反逆の闇、ですね……」
処刑台に昇る彼は、身を改められている。
武器になるものはすべて取り上げられ、ポケットに入っているごみのような玩具は、害がないと判断され、そのままにされたようだ。
処刑を好む王が一番良い席でギロチンから転がり落ちる首を見ようと、処刑台から近い席にすわった。
首が固定される、その瞬間………何かが光った。
ガラクタと見過ごされたパチンコによって、王の額に向かって鈍色の玉が撃ち放たれた光だった。
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