第53話 会議と姫と迅速配達

前話ちょっとだけ改稿しました。詳細は前話のあとがきに書いてます。






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「ポイントの価値が高まってるんですか?」


「そうとしか思えないんですよ」



アステロイド事業部立ち上げと同時に定期開催が決まった、川島総合通商の全体会議。


二、三十人は入りそうなでっかい会議室に、たった七人だけが集まったその席で、パンツスーツの上にボア付きフライトジャケットを着込んだ飯田さんは、俺の問いにそう答えた。


この会議には川島総合通商の役職者及び有識者として、川島家の面子と元冒険者組が参加していた。


経営者側は俺、マーズ、シエラ、リモート参加で姫。


従業員側からは部長の飯田さんと課長の吉川さん、そして新設されたアステロイド事業部からは阿武隈さんと雁木さんだ。


最近始まったドローン配達買い取りシステムも、この会議で詳細が詰められたものだった。



『という事は、買い取り依頼が増えてるって事?』


「それはもちろんそうなんですけど、その時に円とのレートを聞かれたりするようになったんですよ」


『あー、円とポイントを交換したい人がいるって事ね』


「ちなみに、それに関しては予定ないですか? 副社長」


『ないない、ポイントはあくまで魔物の素材を集めるためのものだから』



飯田さんは俺の頭を飛び越えて副社長と話しているが、別にそれはこの場にいる誰一人として気にしない。


全員が姫こそが実務の頭にして、この会社の要だと認識しているからだ。



「そういえば社長は以前川島ポイント経済圏という計画を仰ってましたが……」


「あ、いや飯田部長……それはあくまで将来的なプランにと考えていたというか……」


『今その計画を伸ばすには人も物も足りないから、一旦忘れて』


「あ、はい」



なんかすいません……


川島ポイント経済圏、それは川島ポイントを現金の代わりとして、商品との交換、旅行や通信、果ては決済までを賄うという壮大な独自通貨構想だ。


なーんて言えば聞こえはいいが、結局それを行うには今の川島総合通商では図体が小さすぎる。


最低でも全国規模の組織になる必要があるという、まさに夢物語なわけだ。


しかしまさか、そういう事を真剣に考え始める前に、にわかにポイントの価値だけがはね上がるとは思っていなかったわけだが、まぁ何事もそういうものなのだろう。


俺だって、マーズと出会ってからの一年でちょっとは成長したつもりだ。


今できる事と、できない事の区別ぐらいはできる。



『とにかく現状維持で。あくまでドローン配達システムは冒険者のためのサービスだから』


「かしこまりました。それと冒険者の方からは、もっと買い取り品目を増やしてほしいとの要望もありますが……」


『それもなし、それの捌き先を考える事でまた仕事が増えちゃうし』


「ほんとに需要が高まってるんだなぁ」


「まーねー、なんかこう言っちゃあれだけど……ドローン配達システム、便利すぎるんだろうねぇ」



川島アステロイドの長に就任してからというもの、なんだかまた少し目の下の隈が戻ってきたような気がする阿武隈さんが、ぽつりとそんな事を言った。



「まぁたしかにねぇ。もし今活動してたら、恵比寿うちでも対象の魔物素材は最優先でポイントに変えてたもんなぁ。やっぱ現役の冒険者はそういうとこに敏感だったって事かな」


「だよね」


「やっぱそうですか?」



俺が問うと、阿武隈さんと飯田さんの元冒険者コンビは深く頷いた。



「こっちがそこを狙ったってとこもあるけど、川島ポイントとスマホがあるだけでさ、いざって時の生存率がめちゃくちゃ上がるわけでしょ?」



阿武隈さんが川島ポイントのスマホアプリをいじりながらそう言うと、飯田さんが横から補足する。



「もしダンジョンの奥で骨折したり滑落したりしても、食料や薬を持ってきてくれて、危険な状態なら管理組合に連絡までしてくれるわけですから。あっちからすれば命綱が一本増えたようなもんですね」


「なるほど」


「そういやうちも昔、探索中に久美子が急性虫垂炎起こしてさぁ……もうみんなで必死に担いでベースまで戻った事あったよね」


「あったあった……あの時ちょうど痛み止めを使い切っちゃってて、魔物に見つからないようにって猿轡して運んだっけ」


「あの時は私ほんとに死にかけたなぁ」



なんか、やっぱ冒険者ってのは本当に大変な仕事なんだなぁ……



『なんかめちゃくちゃ納品してくれてるパーティーもあるんだっけ?』


「そうなんですよ。明らかにポイント狙いで、ドローン買い取りも使って一週間ぐらい潜ってた人達がいましたね」


「ダンジョンに一週間? よく平気だなぁ」



信じられないといった様子でマーズが言うが、阿武隈さんたちの感覚は違うようだ。



「企業からの依頼とかだと、二週間とか普通に潜るよ」


「そうそう、依頼品が揃わないと帰れないので。だから日持ちしない素材だと難易度が高くて、依頼金も高くなるんですよね」


「二週間は嫌だなぁ。僕、空が見えないとこ駄目なんだよね」



まぁマーズは宇宙の船乗りだからな。


とはいえ俺もダンジョンに泊まれと言われたら普通に嫌だ。


今だって、日帰りだからなんとかやれているのだ。



『とりあえず、ポイントに関しては上手くいってる以上現状維持かな? こうなると心配なのが不正利用だけど……一応ポイントは本人以外が使えませんって利用規約に書いてあるから』


「やっぱり不正利用されますかね?」


『されるされる。とりあえずドローンが飛んでった先で、本人以外が受け取ろうとしたら引き渡さないようにプログラム組んでるけど、それが連続したら利用停止BANだね』


「普通のサービスの利用停止とは重さが違うなぁ……」


『二、三人見せしめで利用停止BANにして、その噂が広まるまではアカウントの売買ぐらいはあるだろうけど、そのクレームが来た場合の対応は任せていい?』


「もちろんです」



飯田さんは事もなげにそう言うが、さすがに元冒険者は頼もしい。


俺ならごつい冒険者に凄まれたら、ビビって何も言えなくなりそうだ。



『じゃあまあ、今日はこんなところ?』


「だね」


「部長、サンプルサンプル」


「あ、そっか。ちょっと待って」



姫が定例会を締めようとしたところで、雁木さんに肘でつつかれた阿武隈さんから待ったがかかった。



「トンボ君、これ前に言われてたやつ」



彼女はそう言って、スーツのポケットから取り出したチャック付きのポリ袋を三つほど、俺の前に置いた。



「それ、納品された魔鋼素材のサンプル。渡しとくからね」


「ああ、ありがとうございます」



魔物の素材が集まりだしたということで、魔鋼素材制作会社からようやく鋼材が届き始めたらしい。


宇宙船に使えるほど貯まるにはまだ時間がかかるだろうが、とにかく実物が目の前にあるという事は実際大切だ。



「魔鋼って凄い高いんだね、請求書見てびっくりしたよ」


「いやまぁ、宇宙船はクルーの命を乗せるものでもありますし……」



俺はそんな事を言いながら、とりあえず魔鋼をジャンクヤードに収納した。


おっと、忘れないようにKEEPしておこう。


姫が解析にかけるって言ってたしな。



「じゃあまあ、今度こそ締めで。他何かありますか?」


「大丈夫です」


「大丈夫だよ」


「だいじょう……」



そう言いかけた瞬間、サイレントにしていたはずのスマホから、爆音で音楽が鳴り響いた。



宇宙のうっちゅうっのどこでもどっこでっも 迅速じっんそっく配達はっいたっつ


「え?」



そしてその音楽は、途中でブツリと途切れた。



『……トンボ、スマホには触らずにまっすぐ帰ってきて』


「マジかよ……」


「どしたの? トンボ君」


「いや、なんでもないです……」


「大丈夫大丈夫」



俺とマーズと姫は、その音楽に聴き覚えがあった。


それは川島家おれたちとは因縁浅からぬ仲である、宇宙の超最悪商会……


ゴールデンヘッドドラゴンからの呼び出し音だった。

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