第42話 電話と猫と宇宙船

24年1月16日より、Ver.1を削除してVer.2への更新を行っております。

現在発売中の書籍版第01巻の続きはVer.2準拠で更新していきます。

書籍には書き下ろしが沢山載っておりますので、どうかよろしくお願い致します。






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翌日、俺は結局大学にいた。


辞めたっていいと思った大学だったが「まだバレるとは限らないから」と姫に言われ、卒業に必要な必修の授業を受けに来たのだ。


今のところうちの家にも会社にも警察は踏み込んでおらず、自衛隊からも問い合わせは来ていない。


姫曰く、俺達が撤収した後にカラオケ店には調査が入ったらしいのだが、三人でカラオケを歌っている監視カメラの捏造映像を見て引き下がったそうだ。


アリバイ様々だ。


俺が大学卒業を諦めてまで助けた子供も、あの後無事に保護されて親元へと引き渡されたようで一安心だった。


あの子が「しゅりょーありがとー」とカメラに向かって言ってしまった事でワイドショーでは物議を醸しているらしいが、まぁ恐らく大丈夫だろう。


俺は大学の中庭のベンチにだらんと座り込み、パックのジュースを飲む。


俺はもう、ヘトヘトだった。


身体はそうでもないが、心の方が疲れていた。


俺が一人で背負うには、故郷も会社も重すぎる荷物だった。


社長でも、戦闘ロボのパイロットでもなく……行き交う学生の中の一人、誰でもない一人になりたかったのだ。



「見た? 昨日のアレ」


「ガン○ムだろ? マジで凄ぇよな」


「あれやっぱ自衛隊じゃないよな? 異世界の兵器かもってマジかな?」


「掲示板とかでは川島総合通商じゃね? って言われてるけど、ネットで調べてもふりかけの画像しか出てこないんだよな」



ブッ! と、パックのジュースを吹き出した。


周りを歩いていた学生たちが一瞬チラッとこちらを見て、すぐに視線を戻して歩き去っていった。


どういう事だよ! なんでうちの会社が疑われてんだ!?


俺はカフェオレ塗れになった服を拭うのもほどほどに、スマホでそれっぽいまとめサイトを検索した。


たしかに、それっぽい書き込みがいくつかあるようだ。



『あのロボ、パワードスーツの川島のじゃね?』


『川島総合通商ならリアルガ○ダム持っててもおかしくないかも』


『川島は異世界の紐付きだから』



……ひとまずホッとした。


好き勝手に書かれているようだが、核心に迫るような書き込みはないようだ。


うちのパワードスーツの動画なんかも貼られているみたいだが、同時に「こんなのとガン○ムを一緒にするな」という否定意見も出ている。


それを見て少し気が楽になった俺は、駅前でケーキを買って家へと帰った。


昨日、危険な事に突き合わせてしまった二人への、せめてものお詫びの印だった。






その夜、夕食を食べ終えた川島家の食卓で、俺達はスマホをじっと見つめていた。



「じゃあ、かけるよ?」


「トンボ、練習した通り、余計な事言わないようにね」


「わからなくなったらこっち見てよ、ちゃんと指示出すから」



そう言いながら、姫は小さな顔の隣に掲げた宇宙製のタブレット端末を指でトントンと叩く。


俺はそれに頷きを返し、スマホの画面に表示された『金頭龍ゴールデンヘッドドラゴン商会 ティタ』という連絡先のコールボタンを押す。


ワンコールも待たせる事なく、相手は電話に出た。



『これは川島様、川島翔坊トンボ様、貴方様からのご連絡を一日千秋の思いでお待ちしておりました』


「あのー……」


『皆までおっしゃらなくともわかっておりますとも。蛇の頭と、宇宙船との交換のお話でございましょう』


「あ、そうです」


『我々の技術部門からも、早く解析させてくれ、早く解析させてくれと矢のような催促が届いております。どうです? あの蛇の頭三本と、大気圏突破機能を持つ宇宙船との交換という事でいかがでしょうか?』


「あ……」


「待った、その宇宙船はすぐにぶっ壊れるボロ船じゃないだろうね」


『おやこれは、曹長ポプテ様。いえ、死亡認定が出ておりますので、曹長ポプテ様。どうも我々を誤解していらっしゃるようで、悲しい限りでございます……後ろ暗い所がない証拠としてスペックシートをお送り致しましょう。どうぞ、十分に納得されてからご契約くださいませ』



電話の向こうのティタがそう言うと……机の上に置いていたスマホに、俺には読めない文字のデータがビーッと送られてきた。


同時に姫が顔の横のタブレットをちょんちょんと指差す。



『確認するから、何も言わずに離れてて』



俺は姫に頷きを返して、そろそろとコタツから離れた。



「出力、推進力、ステルス機能、居住区、いいね。船のサイズは小さいけど」


「なんでこんな武装とかステルス機能が充実してんの?」


『現在川島様御一家は孤立無援の状態。でしたらば必要になるのは、外敵から身を守る機能……そう愚考し、この船を選別した次第でございます。ミズ』


「うん、機能は問題ない。建造年も新しいから、汎用品や消耗品も今の世代のがそのまま使えると思う」



姫とマーズが、こちらに向かって頷いた。



「ティナさん……蛇の頭と宇宙船、交換します」


『グッド、商談成立ですね』



十秒ほど無言が続き、俺達三人はその間もじっとスマホを見つめ続けた。



『お待たせ致しました。異能をご確認ください』



俺がジャンクヤードを確認すると、そこには見慣れない矢印のような形のものが増えていた。


交換されないようにKEEP設定を行い、説明文を見ると『圧縮済み』とだけ書かれている。



『その宇宙船は圧縮されております、異能から取り出して百秒後に元の大きさに戻りますので……今取り出すのはお勧め致しかねます』


「わかりました」


『それでは川島様、川島翔坊トンボ様、今後も良き取り引きを。ご連絡をくだされば、あなたの・・・・ティタが誠心誠意ご対応致します』



プッと電話が切れた。同時に緊張の糸も切れ、俺は床にゴロンと転がった。


寝転がったままぐっと両手を上にあげ、ゆっくりと息を吐いた俺の顔に、バサリと布のような何かがかけられた。



「え、何?」



上体を起こして見てみると、それは俺の外出用のジャケットだった。



「トンボ、行くよ」


「え? どこに?」


「会社。あそこの駐車場ならギリギリ宇宙船が取り出せるから」


「今から行くの?」


「昼間に出したら即バレるっしょ? 大丈夫、あそこは借りた当初から迷彩アンカー仕込んであるから、すぐ使えるよ」


「最悪蛇退治がバレたら宇宙船で逃げるんだから、使えるかどうかはさっさと確かめとかなきゃまずいんだよ」



マーズにそう言われ、俺はバッと立ち上がった。


たしかにそりゃそうだ、すぐにやらなきゃな。


俺達三人はすぐにタクシーに飛び乗り、川島総合通商の本社兼工場へと向かったのだった。

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