第42話 盛り上がり続ける配信 ※天川有加里視点

「えーっと、それで。まず話しておきたいのは、私達の出会いから。前に私は配信で語ったけれど、一ヶ月ぐらい前かな」

「はい、そうですね。僕は、その配信も見てましたよ」

「そういえば、そうだったね。配信中にメッセージを送って、すぐに返してくれて。あの時は、ありがとう」

「いえいえ、そんな。配信、とっても面白かったです」


 なんとか話せているかな。いつもはカメラに向けている視線を彼の方に向けて話をする。楽しそうに笑って会話してくれる、彼の表情が見える。やっぱり、いつもとは違う配信の雰囲気。カメラじゃない場所を見て話すのは不思議な感覚だ。


チャット欄▼

:めちゃくちゃ楽しそうに話してるやん

:羨ましい

:その配信は見たよ

:アーカイブを何度も見直した

:あの話、本当だったのね

:視線の先に彼が座っているのか


「それで、私が道の真ん中で頭を抱えていて、君が声をかけてくれた」

「心配だったので。あんな所でしゃがみ込んでいて、急病なのかと心配しました」

「そうだった。あの時は心配させて、ごめんなさい!」

「ほんとですよ! でも、何事もなくて良かったです」


 あの時は、彼を心配させてしまい本当に申し訳ないと、今でも思っている。しかもその後に、悩みを聞いてもらって色々と解決までしてくれた。あれから、状況が良くなって、今では配信に出演までしてくれた。感謝してもしきれない恩人だった。


チャット欄▼

:心配かけるな

:前の配信でも思ったけど、危ないよ

:友人君は、ちゃんと気をつけて

:危ない女性には近づいたらダメだよ

:心優しいところが素敵

:私も心配されたい


 視聴者達は全員彼の味方のようで、心配するような言葉が次々とチャット欄に書き込まれていく。次々と流れていく視聴者のメッセージを横目で確認しながら、事前に用意していた台本に沿って話を続ける。この1ヶ月間を振り返って話す。


「それで、あの時に連絡先を交換して、メッセージのやり取りしたね」

「そうですね。WeTubeとか配信の事とか色々と教えてもらって、楽しかったです」

「そっかそっか。君は、配信とか見たことなかったんだよね」

「ペットの動画とか好きで見てるけれど、他は見たことないかなぁ。配信を見るのはミルキーちゃんのが初めてかな」

「あ、うん。み、ミルキーちゃん……」


チャット欄▼

:仲良し

:そんな気楽に男性と連絡できるなんて信じられない

:清楚な彼を配信の世界に引きずり込むなんてダメでしょ

:ペットの動画、いいよね

:動画は見てるんだ

:名前を呼ばれて、恥ずかしがってる


 彼に配信者としての名前で呼ばれた時に私は、少し恥ずかしさを感じてしまった。配信で本名を出さないように気をつけてくれて、ありがたい事なんだけれど。


 こんな事になるのなら、もっとちゃんと考えてから配信者名を決めるべきだった。かっこいい感じの名前で、活動をスタートするべきだったかな。


 ちょっとした後悔もありながら、次の話題へと進む。


「それで、私たちは2人で映画を見に行ったね」

「あれは、ミルキーちゃんの妄想デートが実際に楽しめるのかどうか、検証してみるというデートでした」

「結果は、色々と失敗があったけど」

「僕は、とても楽しかったですよ」

「そ、そう……?」


チャット欄▼

:恋愛映画の失敗

:チョイスミス

:その話も配信で聞いた

:事前の確認不足

:失敗した話を聞いて、私たちは失敗しないように気をつけられる

:一緒に見に行ってくれる相手が居ないけどね

:そんな事もあったみたいだね

:やっぱり優しい、友人君


「実は、あの後に何本か別の恋愛映画を見てみたんですよ。やっぱりどれも、僕には合わなくて。やっぱり、アクションやSF系のジャンルが好きです」

「そうなんだ!」


チャット欄▼

:やっぱり駄目だったか

:男性に恋愛映画は合わないのね

:面白いのに

:SF系も見るんだ。偉いね。

:あの作品は見た?

:おすすめの恋愛映画があるよ

:また挑戦してみて

:次見たら面白さが理解できるかも

:合わないって言ってるんだから、そんな作品をオススメするな


 2人で映画を見に行ったときのことを振り返る。彼は、あの後にも恋愛映画を見てみたらしい。そして、合わないことを改めて実感したようだ。次に彼と映画を見る時は必ず、アクション系の話題作を見るようにしよう。彼の好みを事前に調べておき、合わせることが大事なんだと学習済みだ。


 話題も次々と変わっていく。映画の好みの話から、今まで見てきた作品で面白いと思ったもの。そして、趣味の話に。


 私は配信することが好きで、今も活動を続けている。これで稼いでいるけれども、趣味みたいなものだ。


 彼は体を動かすことが好きらしく、スポーツが好きとのこと。他にも色々と多くの趣味を持っているそうだ。好きなことが多くて、凄いと思った。


チャット欄▼

:多趣味な男性って珍しいね

:私も、彼と一緒にスポーツを楽しみたい

:男性のスポーツしてる姿なんて、素敵だろうなぁー

:見てみたい

:私も好きだよ。一緒だね!

:ゲーム実況とか興味あるかな

:配信のチャンネルを開設したら人気になりそうだ


 そんなことを話しているうちに、あっという間に1時間が過ぎていた。体感だと、10分ぐらいに思うほど会話に集中してしまっていた。しっかり時間は経過していたようだ。


「あっと、もうそろそろ終了の時間かな」

「あ、もうそんな時間ですか」


チャット欄▼

:えー

:もう終わるの?

:早いよ

:まだ続けてほしい

:終わるな

:早すぎるよ

:予定していた時間を伸ばそう

:続けて続けて

:まだお話聞きたいよ


 視聴者の多くが引き留めようとしてくれている。それは嬉しいこと。でも今回は、予定の時間になったら絶対に配信を終わらせるつもりだ。


「彼は、今回が初めての配信だから。あんまり長く続けると疲れちゃうから、ね」

「気を使ってくれて、ありがとうございます」

「そんなの当然よ」


チャット欄▼

:それなら仕方ない

:早く配信を終わらせよう

:予定の時間を超えないように気をつけて

:次の配信を楽しみにしてるよ!

:疲れたら休まないとね

:無理はしないで

:友人君、今日は頑張ったね

:出演してくれてありがとう!

:声が聞けて良かった


 視聴者全員が手のひらを返して、配信を終了することを納得してくれた。ということで配信を終わらせる。


「今日は、配信で君とお話できて楽しかった」

「僕もです。また機会があれば、出演したいです」

「本当に!? それは良かった。またぜひ。ということで、最後は二人で」

「「バイバイ」」


 最後に私たちは声を合わせて、視聴者と挨拶。こうして今回の配信は終了した。

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