第41話 期待の配信開始 ※天川有加里視点

 配信の予定、1分前。準備もバッチリで、あとは配信開始のボタンを押せばすぐにスタートする。このカメラで撮影している映像が、ネット上に送信されていく。


 待機人数が、すでに5千人を超えていた。今まで見たことない、とんでもない数の人達が配信の開始を待ち構えていた。チャット欄も動き続けていた。


チャット欄▼

:まだかなぁ

:ワクワク

:間に合った!

:まだ始まってなかったか

:もうすぐ始まる?

:予定時間まで、あとわずか

:遅れそうだな

:もう5千人も集まってるじゃん!

:すごい数だ


 少し離れた場所に座っている、直人くんに目を向ける。配信の様子をチェックしてもらうモニターと、マイクが置いてある。彼と目が合う。そして、彼は頷いた。準備万端という感じだった。私も、彼と同じ気持ちだ。


 彼と気持ちが通じ合ったような気がして、テンションが上がる。いつもとは違う、配信前の緊張と高揚感があった。これから彼と、配信をするのか。楽しみだ。


 予定の時間になった。私は、配信開始のボタンを押す。


チャット欄▼

:始まった?

:映像が来た

:本当に始まった

:彼は実在するのか。配信に出演してくれるのか。期待している。

:こんにちは!

:待ってました!


「お待たせしました、皆様。ミルキーです」


チャット欄▼

:なんか、いつもと違う?

:緊張してる?

:服装も違うな

:気合が入っている


 配信をスタートして視聴者に挨拶すると、いきなり指摘されてしまった。そんなにわかりやすく、私は緊張しているのだろうか。


「えーっと、声は聞こえてますか?」


チャット欄▼

:バッチリ!

:聞こえてるよ

:早く! 彼を出して!

:オッケー! さっさと挨拶を終わらせて、次に進めよう

:早く早く早く!

:問題ありません

:音量調整は大事だからね


「ありがとうございます! それじゃあ早速、皆さんも待ち望んでいる彼の紹介から始めましょうか」


チャット欄▼

:待ってました!

:本当に出てくるの?

:なんだかドキドキしてきた

:声だけ出演なんだよね?

:顔が見たい

:どんな声かな。期待しちゃうな

:早く!


 一気にメッセージの流れが激しくなった。次々と流れていく大量のメッセージは、全て読んでいくのは難しいぐらい。


 なんとか読めたメッセージからは、多くの人達が彼の登場を待ち望んでいることが分かる。これ以上焦らしてしまうと、大変なことになりそうだ。


 だから、今すぐ彼に登場してもらう。チラッと彼の様子を確認する。配信開始前と同じように、コクリと頷いてくれた。大丈夫そうなので、私は合図を送った。そして彼が、口を開く。


「どうも皆様、初めまして。ミルキーちゃんの友人です」


 初めて私の配信に、男性の声が乗った瞬間。チャット欄が一瞬だけ止まったような感じがした。そして、一気にチャット欄が動き始める。さっきと比べて何倍も早く、目が追いつかないほどの猛スピードで。


チャット欄▼

:うおぉぉぉぉ!

:あぁぁぁぁぁ!

:わぁぁぁぁぁ!

:ヤバ!

:友人! 男の子!

:まじで!

:聞こえた!

:本当やん!

:すごい!

:可愛い声!

:これは若い子だ

:本物の男の子!

:告知通りだった

:信じて良かった!

:ヤバすぎ!

:本当だった!

:疑ってたら本当だった!

:マジですごい!

:これが、話に聞いていた彼か!

:もっと声を聞かせて!

:音声データを保存しました!

:疑っててゴメンナサイ!

:神回!

:本当に男の子の声が聞こえてきた

:やばぁ!

:信じられないよ


 たった一言で、ものすごい数の反応が返ってきた。直人くんは目の前に置いてある配信確認用のモニタを見て、ニコッと笑っていた。視聴者の反応を見て、楽しんでくれていたら嬉しいな。


「今日は来てくれて、本当にありがとう!」

「いえいえ、こちらこそ呼んでもらって嬉しいな」


チャット欄▼

:二人が会話してる!

:とても良い子だね

:私達、こんな会話を聞けて幸せすぎるよ……

:ミルキーちゃんの配信で男の声を聞ける日が来るなんて

:こんな幸せなことがあっていいのか

:もう死んでもいい

:生きててよかった

:生きてるって素晴らしい

:ありがたや、ありがたや

:もう悔いはない

:私も混ざりたい

:これは永久保存確定


「視聴者の皆。まだ、配信は始まったばかりだよ」

「そうですよ。これからよろしくお願いしますね」


 直人くんは、そう言ってペコリと頭を下げて視聴者の皆に挨拶してくれた。だが、その姿はカメラに映っていない。私だけに見えている。優越感があった。


チャット欄▼

:彼は、カメラの奥の右側に座ってるのか

:よろしくお願いします!

:一緒に盛り上がっていこう

:最高じゃないか!

:これから毎日配信に来てください

:声だけ出演は寂しい。顔が見たい!


「うえっ!?」


 私は驚きの声を上げた。直人くんが急に席から立ち上がって、カメラの前まで移動してきたから。それ以上前に出てきたら、カメラに映ってしまう。配信に姿が出てしまうような位置。どうすればいいのか分からず、私は硬直してしまった。


チャット欄▼

:どうした?

:トラブル?

:何があった?

:いきなりトラブルなの?

:まだ配信は終わらないで!


「姿は出せないから、これで勘弁してー」

「わっ! だ、大丈夫!?」


 彼はしゃがみ込んで、カメラの下から手だけを出した。そして、左右にブンブンと振っている。突然の予定にない行動。


チャット欄▼

:え?

:え?

:えっ!?

:手だ

:間違いなく男の手

:嘘だろ

:まじ?

:本物?

:これが友人君の手?

:まじで実在してるの?

:ミルキーちゃんも驚いてるけど

:詳しく説明してくれ

:とんでもないサービス!

:ヤバすぎるでしょ

:画像も保存した

:もっと激しく振って!


 そして、彼は自分の席に戻っていった。多分、カメラには彼の手しか映っていないはず。反射するような物も置いてないから、大丈夫なはずだけど。


「ごめんなさい急に。これぐらいなら大丈夫かな、って」

「え、あ、うん。そ、そうだね!」


 心臓に悪いよ、まったく。私はドキドキしながら、なんとか平静を装う。そして、配信を続けた。


「じゃ、じゃあ早速! 二人で、フリーで雑談しましょう」

「はーい」


 彼は、無邪気に元気よく返事をした。

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