解凍令嬢

星光かける

第1話


 傷つけたことが不当なものであることは、終始承知していた。


 彼女が努力して学園の首席にいることはわかっているし、それを私が表だっていじめることで他の人が彼女に危害を加えないようにしているのも、全て計画のうちだ。


 ああけれど、いつ私の世界は色を失ってしまったのだろう。


 彼女をいじめることで、周囲から嘲笑われるようになってから?あるいは学園に入るずっと前から、私の世界に色なんてものはなかったのかもしれない。


 いじめることも、公爵令嬢として結婚することも、全て社会の望むままに生きてきた。


 婚約者の王太子は言っていた。


 『卒業後に聖女の名を授かる予定の彼女と結婚するために、学園では愚かに過ごせ』と。


 私の心なんてものは、とうの昔に消し去られた。


 そっか、私の世界に色がないのは、心がないからか。

 そっか……そっか……。


 息を吐く。

 冷えた空気に、暖かいかどうかもわからない白色の煙が生まれる。


 今さら心なんてものはどうでもいい。

 ただ一つ、色づく世界を見てみたかった。


 それすらも、きっと、叶わないのだろう。


 他人から嫌われ、社会に好かれようとする。そんな行動に何の意味があったのだろうか。


 いや、社会からも嫌われているのか。


 私は生きている意味があるのだろうか。この灰の世界の中で生きていて何の意味があるのだろうか。



 あの頃はそう思っていた。学園を卒業する目前、他国から王太子が訪問しに来た。同盟を結びに来たらしい。


 私は公爵令嬢。国がしようとしていたこともわかっていた。


 国は王太子を殺して隣国を奪おうとしていた。殺しの時は私がお見送りをする時。


 私は初めて社会に逆らおうとした。生きていても意味がないのなら誰かこの腐った国に関係のないを救って死のうと思った。


 私は結果的に王太子を守ることができた。伊達に公爵令嬢をやっているわけではないのだ。攻撃魔法などの実技は得意中の得意なのだ。それも彼女より……


 王太子は隙を見計らって私を自分の国に連れ帰った。死ぬはずだったのに。計画失敗だ。きっと拷問の後に殺されるのだろう。


 まぁ、最後に死ねるのなら良しとしよう。

 そう思った————



 だがそんな期待は裏切られた。


 私は丁重にもてなされた。

 王太子が私に惚れたらしい。(侍女談)


 私はあなたと釣り合うほど大層な人間じゃありません。

 そう言った。そう言ったはずだ。


 なのに王太子はそんな注告を無視して私と強引に結婚した。

 

 私がいた国はどうなったのか尋ねるともう滅んでいた。

 

 生まれた国とは言え、なんの未練もないあの腐った場所が滅んだと聞いてスッキリした気持ちになった。


 私は悪い人間だ。


 私が自分に嘆いていると、王太子が驚きの事実を教えてくれた。


 王太子は私がしたことやあの国の王太子に言われたことを知っていた。元々同盟を結んだ後攻め込むつもりで、諜報部隊を潜入させていたらしい。


 しかし、順調だった計画にイレギュラーが起きた。同盟を結びに行った時に殺されるとは思っていなく、油断していたらしい。


 だがそのイレギュラーを埋めたのが私。


 王太子は私のことを優しい人だと何度も言ってくれた。私の世界の色を戻してくれたのは隣国の王太子だった。


 これが私、ユグリナ・フォン・ロベリアが皇女になった経緯である。

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解凍令嬢 星光かける @kakeru_0512

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