楽士との旅――ヤーゲイ・ガナルの手紙

いときね そろ(旧:まつか松果)

第1話

親愛なる兄上様


 首尾よくザブルク楽士団の旅に同行することと成りました。

 私はハルリ城内の学生という肩書きを得ております。通行証の偽造は思ったより簡単でした。

 もちろん私が上界人カジュルクツであることは伏せてあります。

 彼ら穢れた地の者ウダーンノウツ――この呼び方は適切でないと個人的には思っております――が我らに悪感情を持っていることはご存じでしょう。

 余計な摩擦は避けるに限ります。


 そもそもなぜこの地が穢れた地と呼ばれているのか。言うまでもなく、これは我らの一方的な都合であります。

 我らカジュルクツの祖先は、罪を得て遠い星の界からこの地に堕とされたと伝承されています。この地の風に肌を焼かれ肺を焼かれた祖先たちは、自らを守るべくハルリ城に籠もったとも伝えられております。その罪ゆえか、カジュルクツのほとんどの者は『鎧』と呼ばれる外套膜で全身を覆わなければハルリ城外で生きられないとも。 私や兄上のように外套膜なしでも生きられる者は特異体質なのでしょうか、私たち兄弟の生まれ持った特質に何らかの意図を感じるのはうがち過ぎでしょうか。

 

 本題から逸れました。

 さて、兄上から依頼された調査の件です。

 ザブルクなる頭領が率いる楽士団が、通行税を払うことなく旅を続けているという噂はまことか否か。

 役人を出し抜いてそのような違法な旅をすることが、果たして可能なのか。

 結論から言えばまだ不明であります。

 彼らとて、旅で行き会ったばかりの若造に手の内を簡単に明かすことはしないでしょう。

 これから信頼関係を築きつつ、調査を続けます。


 まずは一報

 この便りを機翔虫マプーに託します。


 貴男の忠実なる弟 

 ヤーゲイ・ガナル 拝

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