外伝9話~安田記念《前編》~

東京競馬場第11R:安田記念 <GI>(芝・良・左・1600m)


【馬番】

①ダノンフェイルド

②ナベリウス

③パフィオペディルム

④サレグス

⑤クレイデュース

⑥ステイファートム

⑦イクイゼロス

⑧ポインセチア

⑨スタコラサッサ

⑩ミドルオブドリーム

⑪ジャックテイル

⑫カーテンコール

⑬ペルツォフカ

⑭ルージュエルナ

⑮ペニーフォルト

⑯イチバンソトカラ

⑰シャドーフェイス



《春の府中に選ばれし17頭が集結しました。今年はなんと、G1馬が史上最大頭数となる11頭も参戦となりました。それまでの最大頭数は2020年と2023年の10頭でしたが、今年はそれを超える超豪華な一戦となりましたね細田さん》


《そうですね明智さん。他も重賞馬や話題性抜群の子達も参戦。まさにドリームレースと呼ばれるのも相応しい1戦です》


《そんな中で最も注目を集めているのはやはり、史上初、3兄弟によるGI参戦でしょう。皆さんご存知、凱旋門賞を制した日本ナンバーワンホースのステイファートム。その全妹であり海外含むマイルGI3勝のカーテンコール。さらにその全弟であり、未だ4戦無敗のGI2勝馬ポインセチア》


《世界を制した日本最強馬が、初のマイルへの挑戦。それを阻むのは既に実績十分なその妹と弟だった。テンション爆上がりですね》


《えぇ。それだけではなく昨年引退したGI7勝のタガノフェイルドを全兄にもつダノンフェイルド。同じくGI7勝のロードクレイアスを全兄にもつクレイデュース。そして一昨年引退したGI4勝ディープゼロスを全兄にもつイクイゼロスもステイファートム達に挑みます》


《とても縁のある血統のそろい踏み。結果がどうであれ、語り継がれることは間違いない世紀の1戦です!》


《という訳でそのまま本馬場入場も行われますので行きます。まず現れました1枠①ダノンフェイルド。全兄があのタガノフェイルドという良血です。今回はGIIIダービー卿チャレンジトロフィーを勝っての参戦。鞍上は和多竜二!


続いて出たのは②ナベリウス。2年前の覇者が久しぶりの復活勝利を目指して参戦です。去年2着の雪辱を、鞍上辛英明と共に


中距離からの殴り込み。去年の皐月に今年の大阪杯。2度のGI戴冠。4歳世代のミスター2000m③パフィオペディルムには逆井流星が跨ります


去年の最優秀スプリンターがマイル路線に殴り込み。今年は海外短距離ダート重賞を制した脚が春の府中で炸裂する。6歳世代の④サレグスには梅山弘平


父はドウデュース。兄はあのロードクレイアス。前走はGⅡ読売マイラーズCを勝っての参戦。⑤クレイデュースにはお馴染みのレジェンド竹豊です


現れましたこの大歓声お聞きください! 去年の宝塚記念以来の凱旋です。牡馬二頭目のGⅠ8勝に向けて弟妹へ殴り込み。今回は挑戦者としてこの舞台に立ちます。三階級制覇の偉業なるか。凱旋門賞馬⑥ステイファートムには不動のパートナー横川勤の姿です


続いて登場したのは歴代最強馬にも名前があがるイクイノックス産駒であり名マイラー、ディープゼロスの弟です。GⅡ京王杯SCを勝っての参戦⑦イクイゼロスと福長祐一


そしてステイファートムの隣にいるのが4戦4勝の無敗馬⑧ポインセチアです。世代を代表する馬として、古馬の初対決に河田将雅が乗り替わりで挑みます。


今日も今日とてすたこらさっさとパンサラッサ産駒の⑨スタコラサッサ。兄セブンシーズとの兄弟制覇に期待がかかります。鞍上善田豊とのタッグです


昨年3着、秋は待望のGⅠ2勝目をあげた五歳馬がリベンジ誓っての参戦です。この距離ならば最強世代に土をつけられるか。夢はまだ終わらない⑩ミドルオブドリームと鞍上ラフランス・デットールです


GIII東京新聞杯勝ちからの直行。ジャックドール産駒の期待の星⑪ジャックテイルには鞍上藤沢康太が手綱を取ります


桜舞台に香港、2度のGI制覇に充実期の4歳世代牝馬。兄からの挑戦状受け取ったり! ステイファートム全妹⑫カーテンコールにはクリストファー・ルモールが乗り替わっての参戦です


5歳世代のオークス馬が堂々見参。今年はヴィクトリアマイル2着からの連戦です。10ヶ月ぶりの勝利をこの手に⑬ペルツォフカと鞍上磐田康成が挑みます


こちらは5歳世代の桜花賞馬が久しぶりのマイルに参戦。この距離で再びあの輝きを取り戻せるか。⑭ルージュエルナにはメルコ・デムーロが手綱を握ります


こちらは去年の秋華賞馬。牝馬GIウィナーの4頭目が現れました。並み居る牡馬を交えて府中マイル舞台にその脚が炸裂するのか。⑮ペニーフォルトと鞍上は舟内祐次です


4歳世代。大一番のこの舞台は胸を借りるつもりで波乱を起こせるか、父セリフォスが勝てなかったレース、⑯イチバンソトカラ。初のGI挑戦には213回目の挑戦ミュラー・コーセーがいきます


そして最後、史上初の3階級制覇を達成し今年は高松宮記念初制覇、スプリント王として連覇に挑みます。6歳世代の快速馬⑰シャドーフェイスには沼添謙一しかありえません!


以上、選ばれし精鋭、そして積み上げられた28個のグレードワンの冠を与えられし馬達の本馬場入場です》



 さてさてさーて、今回のメンツは……おぉ、やっぱ距離が違うからか知らないメンツが多いな。知ってるのはサレグス、ポインセチア、ミドルオブドリーム、ジャックテイル、カーテンコール、ペルツォフカ、ルージュエルナ、シャドーフェイス。


 サレグスの奴はサウジアラビアでも一緒になったな。勝ってたし、未だに成長もしているようだ。ジャックテイルも日本ダービーとかで一緒になったが、この場にいるってことはそうなんだろう。



『お、久しぶりだなおっさん。でも、この距離でも勝てると思ったら大間違いだぞ?』


『ミドルオブドリームか。久しぶり。あぁ、今回は俺も挑戦者として挑ませてもらうつもりだ。だが……勝つぞ、絶対にな』



 一個下の2歳王者で、タガノフェイルドに敗れたことから俺の事もライバル視しているミドルオブドリームとの久々な軽口を交わす。



『うひゃひゃ! おまえぇ! 久しぶりだなぁ!!! 俺様のスピードに着いてこれるか? ああぁ!?』


『シャドーフェイス!? いや、お前の逃げは中距離だとただの自殺行為だろ。確か大阪杯で3着には残っていたが』


『2000mもこなした俺にもはや隙はなぁぁぁい! そしてこの舞台を俺は去年勝っているぅ! こいよ、3頭目の怪物! 俺がひねり潰してやるよぉぉぉ!』



 強烈な印象のあったが会話は初めてしたシャトーフェイスの奴がそう話しかけてくる。こいつ、中距離の壁を克服したのか。


 あの馬鹿みたいな逃げのスピードを維持されれば、マイルの距離だと俺も追いつけるか怪しいぞ? こりゃ強敵だな。



『ふん! 元気そうね。まぁ、生きてるなら何よりよ。今日のレースは私が勝つわ!』


『ペルツォフカちゃ……ペルツォフカ。久しぶりだな。悪いがこれ以上負けられないんだ、勝つのは俺さ』


『っ……ふーん、あんた負けたんだ。あれだけ息巻いといて情けないわね。腑抜けた面してるようだったらシバいてたわよ。まぁ、私が言えた義理はないけど』



 ペルツォフカは俺も勝った事のある去年のGII札幌記念以降、勝利をあげられていないらしい。まぁGIでも2着が2回あったりと現実に走れているとは聞いた。


 だからまぁ、安定してはいるよな。落ち込んだりはしてないようで何より……と思ったら向こうの方が何やら騒がしい。なんだなんだ……?



『どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!』


『どけ! 僕は弟だぞ!』



 何やってんだアイツら……いや、普通に恥ずかしいんだが? あれ止めなきゃいけないの?



『あー、2人とも落ち着いて』


『『うるさ──あ、ごめんねお兄ちゃん(兄さん)。ちょっとこいつ黙らせてすぐお話するから。ん! 真似すんな! してない!』』



 やっぱ仲良いだろこいつら。俺が見てる限りはお互いを意識して喧嘩ばっかしてるようだけど、実は俺居ない時は平和なんじゃないか? え、こうなったの俺が原因ですか?



『これあんたの妹弟達だったの。なんか変に拗らせてない?』


『さぁ、なんでこうなったのやら……』


『あーうん、あんた自覚無さそうだからもういいわ』


『『ちょっとお兄ちゃん(兄さん)! その女誰!?』』



 よく分からないがハモリながらペルツォフカの事を問いただしてきた。やっぱ実は仲良いだろこの2人。



『あ! よく見たらこの前のGIレースで私に負けた馬! 私にも勝てないのにお兄ちゃんの隣とかずるい!』


『僕だって負けたことないんだぞ! せめて勝ってから隣にいてくれ! もしそうなら姉さんの方が100倍マシだ!』



 共通の敵が現れれば人は争いを止める。争いは無くならないがな。コールとセチアが一致団結してまずはペルツォフカを標的に移した。


 落ち着けペルツォフカ。同じ元人間の君なら理解できるだろう。この生まれて数年しか経ってない馬達の安い煽りに乗るなんてありえないよな。



『あは、あははは。ファートム、あんたがまともに教育できてないなら私が代わりにしてあげるわ。ぶっ殺すわよこの畜生共!』


『落ち着けペルツォフカ! 昔は違うが君も今は畜生だしブーメンが刺さってる! て言うか妹弟に殺すなんて発言は止めてくれ!』



 頭まで馬になってしまったのか、それとも元から短気なのかは知らんが同じレベルの争いが起こってしまった。はぁ、仕方ない。俺が止めるか。



『3人とも……言いたいことはレースで語れよ、その脚でな』


『『『っ』』』



 特に大したセリフではなかったはずたが、冷静になるには十分だったようだ。何を言ったかじゃない。誰が言ったかが重要なんだろう。


 後はそれぞれが己で考えて、自然と争いは消滅した。ふぅ、まぁ終わり良ければ全て良しだな!



『あー、お疲れ様なの。大変そうなの。エルナに甘えてもいいの』



 サウジCの時に出会った年下牝馬(どうやらペルツォフカと同じ世代の桜花賞馬らしい)に慰められる終わりとなった。


 という訳で他の奴らもさくっと見てくか。逆に知らないのはダノンフェイルド、ナベリウス、パフィオペディルム、クレイデュース、イクイゼロス、スタコラサッサ、ペニーフォルト、イチバンソトカラ。


 ダノンフェイルド、それにクレイデュースとイクイゼロス。この3頭には妙な縁を感じやがる。タガノフェイルド……フェイやロードクレイアス、ディープゼロスにも似た雰囲気だ。


 ただそれとは別に、強さは感じねぇ。不思議な感覚だな。うん、普通にこいつは強い! って言い着れるやつがいねぇな。


 お、パフィオペディルムは中々だが……俺も目が肥えてしまったのか? 以前なら強そうだと感じていたレベルの相手なのに、今じゃそれほど脅威を感じねぇ。


 ナベリウス、こいつも普通だ。ペニーフォルトも……GI級ではあるが、怖いほどではない。スタコラサッサとイチバンソトカラの2頭もどうでもいい存在だな。


 やっぱりこの中でもやべぇのは……妹のカーテンコール、弟のポインセチアだな。シャドーフェイス辺りも同じぐらい脅威だが。


 カーテンコールはこの距離では実力も実績もヤベぇ。ポインセチアも同じく、そして何より斤量って重りが3歳だからクソ軽い。これが効いてくるんだよな。


 実力と実績ならシャドーフェイスの奴が1番なんだが……なんでかしょぼく感じちゃうのはなぁぜなぁぜ? ……あのキャラだからか。納得。


 そんな感じでGIレース、春のマイル王者を決める一戦、安田記念の幕が開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る