第74話~GI凱旋門賞その3~

ロンシャン競馬場第4R:凱旋門賞<GI>(芝・重・右・2400m)



《全ての競馬ファンが注目する一戦。それが世界最高峰の舞台で行われるこの凱旋門賞です。スピードシンボリから50年以上続く高い高い壁


去年挑んだ最強世代の日本ダービー馬ロードクレイアス、最強ステイヤーのゼッフィルドは2着と5着と掲示板の大健闘は見せつつも、シャルルゲートの前に敗れ去りました


そんな壁に、今年は日本で最も強く、最も人気のあるスーパーホース、ステイファートムと横川勤の名コンビが挑みます


全てのホースマンがそこを勝ち、最高の栄誉を求める世界最強を決めるGI、凱旋門賞。そう、皆さん待ちに待った凱旋門賞です


世界の名だたる名馬たちの頂点がここで決まります。


さぁ細田さん、ついにこの時間がやって来ました! 凱旋門賞です!》


《はい! はい! 前走フォア賞の走りで競馬ファンのみならず世界を魅了させたステイファートムが日本の悲願を叶えるのか、非常に楽しみです!》


《ステイファートムは1週間前追い切りでも欧州の馬場ながら自己ベストタイの1ハロン10.7を叩き出していますし、前走の走りで馬場も問題ない事は証明済みです


そんなステイファートムの活躍を見ようと現地には約1万人の日本人も訪れているようです! これは物凄い記録ですよ! 函館競馬場の来場者数の歴代最高が2万人台なんですよ!》


《えぇぇぇ!? 日本の重賞開催日の歴代1位の半数に迫る記録なんですっ!? めちゃくちゃ凄いじゃないですか!?》


《そんな訳で現地オッズもご覧の通りステイファートム1.1倍となっております! これはディープインパクトも叩き出したことのあるすごい数字なんですよ!》


《おぉぉ! 所で明智さん、さっきの本馬場入場をご覧になりましたか?》


《もちろんですよ! 父父ゴールドシップを思い出して笑いが止まりませんでした! 細田さんにとっても思い出深い名馬に影を重ねたんじゃないです?》


《あははは、あの悲鳴のせいで降板か!? みたいな事もあったんですよね~実は》


《そんな話題に事欠かないステイファートムを手がけた荻野調教師からコメントを頂いております。『フォア賞の疲れはありません。オーソレミオ、シャルルゲートを筆頭にGI馬13頭。重賞馬2頭。相手にとって不足はありません。最高の仕上がりです。負けるビジョンが見えない。もしファートムが勝てないならば、未来永劫日本馬で勝てる馬は居ないでしょう。人生を賭けた私達の大勝負、見てて下さい』との事です!》


《すっごい自信ですね。いえもちろんそう口に出来るだけの強さと実績もあって分かりますが……》


《あ、そろそろゲート入りが始まりそうですね。ステイファートムは落ち着いています。フォア賞の時のテンションの高さはありません》


《不安視されているのはゲートの出遅れですね。ただしこれも荻野調教師から万全の準備をした。日本とは違い合図となる言葉が無い事を覚えたようで一切の隙は無いとの事です》


《賢いとは聞いてましたが覚えたとは……ただし、ゴールドシップとは別のシップは同様に太鼓判を押された2012年有馬記念の舞台で盛大なやらかしをしています。競馬に絶対はありませんよぉ!》


《ルーラーシップ、懐かしいですねぇ。あ、ゲート入りが始まりましたよ明智さん!》


《はい。それでは実況は私、明智が担当させて頂きます


新世代の台頭、そして秋競馬の到来を告げるGIシリーズが日本でも開幕し、今フランスの最高峰の舞台で日本最強馬が、世界最強へ旅立とうとしています


今年は世界最強馬オーソレミオの1強。それに昨年の覇者シャルルゲート、日本最強馬ステイファートムの2頭が続く形となってりおります


他にも欧州最強牝馬と呼び声の高いリリーオブザインカにアメリカから参戦してきたジョイフォーリーフ。各国のダービー馬らを含めたGI馬14頭


100回を超える凱旋門賞の中でも歴代最高クラスと呼び声の高い、非常にハイレベルな1戦です。さぁゲート入りは始まっています》



JRAオッズ

ステイファートム1.1倍

オーソレミオ3.7倍

シャルルゲート8.9倍



ブックメーカーオッズ

オーソレミオ2.8倍

ステイファートム7.4倍

シャルルゲート8.0倍



現地オッズ

ステイファートム1.2倍

オーソレミオ6.4倍

シャルルゲート9.2倍



***



「よしよーし、ファートム、落ち着いたか?」



 落ち着け……そうだ、深呼吸だ。……ありがとう横川さん。ちょっと頭に来てたわ。皆の思いを乗せて来た分、変な力が入ってたのかね?


 ちょっと冷静じゃなかった。残り2回しか無いんだ。海外はこれが最後かもしれない。……一つ一つを噛み締めて、今まで以上に真剣に行こう。



「にしてもファーとあそこまで相性の悪い馬がいるなんてなぁ」



 ん? そら居るよ。俺がボスになる前なら喧嘩したりもするし、めちゃ追いかけて来る牝馬も苦手よ???



「ふふっ、喧嘩は相手からで仕方なく買ってる感じだし、牝馬も邪険にはしてないじゃないか。わざわざ嫌がらせとかしてないだろ?」



 なんで言いたいこと分かるのかねー。さっきのリンゴのやり取りは一体なんだったのかって言うぐらい察しが良くて助かります。



「ん。ゲート入り始まったよ。ちゃんと出ないと僕も怒るからね?」



 わ、分かってるよ。黒歴史掘り返すのやめい!!!



「はは、やっぱやらかした事は覚えてるんだ。あと君の黒歴史はいつもの変顔だよ?」



 俺のキメ顔を変顔って言うのやめてくれませんかねぇ!? ……っと、そろそろか。暴れてる馬は居ないな、よし。


 ……シュトルム、マカモアおじさん、ゼッフィルド……そしてクレイアス。皆が行っていた世界最高峰の舞台に俺は立っているよ。そして見ててくれ、タマモクラウン。お前が倒した漢が頂点に立つ姿を!



《最後、シュタインウェイが収まりまして……スタートしました! 好スタートを決めたぞステイファートム! まずは第1関門突破です!


前に行くのはやはり、2年連続で先頭を走ったマーニュ。その後ろに白毛馬、ステイファートムと同着のレンテンローズがいて、芦毛の馬体グレイファントムGI4勝馬が並んでいきます!》



「最高!」



 横川さんの声が耳に届く。上手いスタート。でもその前には既に3頭いるな。マーニュ……知らねぇ馬だ。でもジェミニリストと似た雰囲気を感じる。逃げ馬か。


 その隣にはレンテンローズとグレイファントム。ローズは前走と変わらず逃げの一手か。んでグレイファントム、こっちのおじさんは中々強いと評判だったな。


 ただそう評したシャルルゲートに対してオーソレミオの奴は雑魚扱いしていた。どう見てもオーラはマカモアおじさんやシュトルムのおっさんに近しいが……このおじさんが完敗したなんて信じられねぇよ。



《そして今年唯一の日本勢、ステイファートムはその後ろに付けました! 2馬身切れてアクセルナンバー、ゼンドレースが居て、1番内に潜り込む形でシャルルゲート、前年度覇者はこの位置です!》



 後ろには2頭いる。んでそのちょっと後ろに居るのは見えているぞシャルルゲート! 少し囲まれているな。でも全く気にした様子は無い……へっ、その程度のマークは日常茶飯事ってか?



『ふっ、我は我の走りをするだけさ』


『当たり前の事呟く暇あるならオーソレミオにタックルでもしてこい』


『反則じゃないかそれ!?』



《大外にはGI5勝の欧州最強牝馬リリーオブザインカがいて少しポジションを上げました! 既に凱旋門賞としては縦長となっております。先行勢から中段を見ていきましょう》



『へぇ……うん、行っくわよォ!』



 リリーオブザインカ……リリーは前と後ろを確かめて少しポジションを上げてきた。俺より後ろの様子が分かる利点を選び、そして活用しているな。


 前の方は逃げ馬がズラリと逃げている事さえ分かれば十分ってか? まぁ、前も前で後続勢が追いつくのに苦労するって利点はあるけど。



《ジョイフォーリーフとマーシャルアーツ。アメリカ勢2頭はこの位置ですオンエアー、アメリカの伝説の名馬セクレタリアトの血を引いています


ベールドルーヴ、今年の英ダービー馬はこの位置。牝馬のバギーメイジにローゼンクランツ、大外シュタインウェイの後方、オーソレミオ世界最強馬はなんとなんと最後方に位置しています


前残りそしてステイファートム、シャルルゲートをマークする陣営にオーソレミオをマークする陣営。綺麗に別れたことで珍しい縦長の隊列が形成されています》



 リリーが動いたことで馬群が大まかに2つに分けられたな。前にいる俺とシャルル、んで後ろのオーソレミオをマークしている馬達が多い。


 そう表現したは良いが、若干俺の方は手薄だ。舐められている? ……まぁ、日本馬が勝ったことの無い舞台だとは聞いているが……。



『ただ、気に食わねぇな』



 日本じゃいつも1番注目されていた自信しか無いが、今のマークはシャルルゲートのついでで俺の後ろに控えているだけの2頭……ぬる過ぎるぞ世界最高峰の舞台!



『サザンプール1頭の方が何倍も面倒くさかったぞ? ……っと』



 日本を懐かしみながら今のレース状況を分析していると、後ろにいた2頭が俺を囲むように上がってきた。……ん、いや、騎手の指示じゃないぞコイツら。



『やべぇ、後ろはやべぇ』



 馬自身の暴走か。ん、後ろ……? おい、後ろで何が起こってるんだ!?



《さぁ先頭集団は既に高低差10メートルの長い坂に差し掛かりました。この上がり坂の後に下り坂。そして偽りの直線フォルスストレートを超えて最後の直線があります


日本馬が苦しめられてきた馬場を、坂を全く苦にすることなくステイファートムは走っています。少しポジションを上げたアクセルナンバー、ゼンドレースが内外、ステイファートムを挟むように位置取りました


そしておっとここで後方グループに動きがあった。これは……オーソレミオが、オーソレミオの道がありません! 5頭、並ぶように隊列が形成されました!》



 先頭集団が凱旋門賞開始から800m地点を通過。坂の上りの途中で欧州勢が世界最強を阻む動きを見せ始めた。



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予定なら最終話までこれ含めて残り5話。追い込みたいが、テストが近いので寧ろ更新頻度遅れるかも?頑張る

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