第63話~GI宝塚記念《前編》~

阪神競馬場第11R:宝塚記念<GI>(芝・稍重・右・2200m)



《さぁ今年の上半期を締めくくるに相応しい豪華なメンバーが揃いました。第××回、サマーグランプリGI宝塚記念です》


《今年はGI馬9頭、重賞馬6頭の全15頭が顔を揃えました。フルゲートにはなりませんでしたがグランプリの名に恥じない魅力的な馬ばかりです》


《白馬が見えました。それでは早速行きましょう。宝塚記念の本馬場入場です


まず現れたのは1枠1番。古馬戦線に乗り込んだ有馬記念と海外のドバイでは2着と3着。これ以上の敗北は許されない。三冠馬としての意地がある。打倒、最強5歳世代! ①ドゥラスチェソーレとメルコ・デムーロ!


2枠2番。悔しい思いをした春の盾から2ヶ月。ミラクルの起きた2003年、そして同じ仁川の舞台でキセキを起こそう。②キセキノアシと鞍上は永遠の主戦騎手和多竜二!


次に現れたのは4歳世代の2歳王者です。マイル路線に切った春クラシック。そして古馬戦線に飛び込んだ秋。共に歯がゆい思いをした去年の雪辱を。ヴェルトライゼンデ産駒③ミドルオブドリームと鞍上はラフランス・デートール!


牝馬限定戦の重賞勝利数は5勝。5歳世代の一線級牝馬が牡馬相手に名乗り上げ。前走ヴィクトリアマイル4着から巻き返しを狙う④メリッサと鞍上は辛英明!


こちらは牡馬の一線級。天皇賞・春でも惜しい3着。あと一歩届かないもどかしさ。しかし父タイトルホルダーの庭だった阪神を舞台に悲願のGI初制覇を狙う、⑤ドゥラブレイズと鞍上は横川和生!


去年の3歳女王がグランプリに殴り込み。今年復帰戦のヴィクトリアマイルでは3着。得意の中距離なら負けられない。オークス馬⑥ペルツォフカと鞍上磐田康誠!


新世代の台頭。揉まれながらも二冠馬として意地を見せろ! GI3勝の実績を胸に6歳馬⑦ネオエイジと鞍上は不動のパートナー、オリブエ・ぺリオッ!


7歳馬の古豪が放つのは4年前の日本ダービーで見せた栄光の輝き。復活待たれる老兵⑧ライジングウェーブと藤沢康太!


大歓声です。さぁ現れました。凱旋門賞でも2年連続の好走。ドバイに香港でも勝ち星をあげ、世界に覇を唱えた最強世代のダービー馬。連覇がかかる今年、狙いは1頭、国内に覇を唱えた年度代表馬だけ。⑨ロードクレイアスと鞍上はダービー8勝目を上げたレジェンド竹豊ッ!


大阪杯を回避して挑んだ今年初戦の香港国際GIレース。クイーンエリザベス二世カップでは2着。同期の三冠馬へ一矢報いる事は、そしてGI制覇は! ⑩ワナビアヒーローと鞍上は都崎圭太!


宝塚記念に3歳馬が久々の参戦です。過去に挑んだ2頭のダービー馬は善戦止まり。古馬の牙城をいち早く打ち崩すのは世代の王に相応しい! 本レース4頭目のダービー馬⑪パスオブグローリーと鞍上はクリストファー・ルモールに乗り替わっています


最強5歳世代の2冠牝馬。宝塚記念と同じ距離である去年のエリザベス女王杯を勝ち、今年は金鯱賞を勝っての参戦です。最強牝馬から、最強の女王へ。⑫キャンディボールと鞍上は福長祐一


4歳世代の代表格がここでも参戦。ダノン冠として異例のステイヤーが中距離への挑戦。⑬ダノンマカヒキッドと鞍上は逆井流星!


父オルフェーヴルも制覇したこのレース。暴れん坊将軍として、重賞馬として挑むは悲願のGI制覇へ。⑭バーストインパクトとグランプリ男、沼添謙一!


おおっとぉぉぉ! 来ました来ました! 久しぶりのテイオーステップ! 競馬場の観客全てを虜にするその脚が、今日もターフで発揮されます


改めまして、先程以上の大歓声。競馬史に残るロマン血統が、史上初の春古馬三冠へ向け旅立ち残る冠は1つ。阻む障害も1頭のみ。世界に覇を唱えた最強世代のダービー馬を穿つは年度代表馬しかいない。さぁ、現役最強を決めよう。GI5連勝の国内最強ホース⑮ステイファートムと女房役の横川勤!


以上、15頭の本馬場入場です》



【馬番】

①ドゥラスチェソーレ

②キセキノアシ

③ミドルオブドリーム

④メリッサ

⑤ドゥラブレイズ

⑥ペルツォフカ

⑦ネオエイジ

⑧ライジングウェーブ

⑨ロードクレイアス

⑩ワナビアヒーロー

⑪パスオブグローリー

⑫キャンディボール

⑬ダノンマカヒキッド

⑭バーストインパクト

⑮ステイファートム



***



 ヒャッハァァァァァ!!! 来ました来ました! 俺様の登場です! この盛り上がりよう! 間違いなくGIレースだ! ここ最近は本気で調子良いしこのまま6連勝を決めてやるぜっ!


 オラオラオラァ! 喜べ俺のファン! 帝王ステップだぞ! 横川さんも荻野さんもなんか気合い入ってるっぽいし、全力全開だァ!!!


 さーて今日の被害者共の面でも拝みますかー! …………な、なんか1頭やべぇ馬がいる!? む、無視だ! とりあえず無視しとこう! あ、あっちの方で騎手を振り落としてるバーストインパクトって奴じゃないからな?


 えっと知らない名前の奴は……あ、1頭居たわ。パスオブグローリーって奴か。うん? でも……幼くね? アイツ本当に古馬か? 別に小さくても強い馬はいるが、身体の大きさじゃなくてなんかこう、雰囲気的にな。


 まぁ幼いながらも強そうな雰囲気は出てるな。いずれはタマモクラウンやドゥラブレイズ辺りと似た良い好敵手にもなれるだろう。



『ねぇおじさん』


『ミドルオブドリームか』


『なんで毎回俺と同じレースにいるの? もしかしてストーカーなの? 俺のGI制覇に邪魔だから消えてくんない?』


『よし潰す』


『大人気ないおじさんだなぁ』



 ミドルオブドリームの奴が話しかけてくる。確かに長距離以外ならどこでも見かけるなこいつ。確かフェイルドとも走ってたしマイル路線に向かうかどうかで迷子になってないか?



『……貴方、また強くなっていそうね』


『ペルツォフカちゃ……ペルツォフカか。おひさ~、元気してた?』


『は? うざいし。私の事をちゃん付けしていいのはタマ兄だけ。同類だからって勘違いしないでよね?』


『元気そうで何より。そんだけ元気ならタマモクラウンの奴も喜ぶと思うぞ』


『……っさいわね、この馬鹿』



 ペルツォフカの奴が目を逸らしながら悪態をつく。酷いぞ。



『ねぇファー君、あなたの隣の女の子は一体誰? 浮気?』


『待て落ち着けそもそもキャンディボール、君とは付き合ってすらいないはずでは?』



 その様子を見ていたキャンディボールがにこやかに、しかし背後に般若のオーラを発しながら問いかけてくる。



『ファー君あなた、また強くなってない? ……良いわ、強い男は好きだし、そんなあなたを倒してこそ私の価値も上がるというものだもの』


『なるほど。一緒に頑張ろうぜ!』


『うん。……で、こっちの女は? しかも年下だし。ファー君ってロリコンなの? あぁ、だからカレンニサキホコル先輩に目もくれなかったんだ。そうなんだ?』



 いやぁぁぁぁ!!! 怖いぃぃぃぃぃ!!!



『貴方、そうだったの?』


『お前も乗るなよ!? こっち側だろ!?』


『……まぁ良いわ。精々年下に現を抜かしておきなさい。強さだけでレースを勝てるほど、GIは甘くないもの』



 キャンディボールは少し頬を膨らましながら去っていく。



『……ちょっと、貴方って元人間なのに女心は全く分からないのね』


『それを言われると痛いな……』


『ふん。タマ兄は分からなくても無自覚にちゃんとやるわよ』


『アイツに負けるのはなんか嫌だな。またフォローしておく』


『……ふん。まぁ頑張る事ね』



 ペルツォフカも去っていく。牝馬ってあんまり会話しないしノリも通じないから苦手なんだよなー。コールは妹だから普通に話せるんだけど。



『ファートムさん』


『ん? っておぉ、ドゥラスチェソーレじゃないか。どしたん話聞こか?』


『そのセリフなんか嫌いなんで止めて貰えます?』


『了解。んで、なんだ?』



 ん? コイツいつの間にか俺をさん付けで呼ぶように!? まぁ良いか。俺も同じ歳にはアスクマカヒキモアの事をマカモアおじさん呼ばわりしてたし……え、俺ももう、おじさんってこと!?



『……今日は三冠馬として、宣言します。貴方に……貴方達に勝つと』


『……へぇ。そりゃ楽しみにしてやるよ。でも……ただな、俺だけに注目してると脚をすくわれるぞ?』


『分かっています……ロードクレイアスさん、ですね?』


『知ってるのか』


『えぇ。……負けましたから』


『……マジ? そうかそうか! ……ロードクレイアスの奴、お前に勝ったんだな。まぁそうだよな! 俺の知ってる馬の中で、1番強いと言っても過言じゃないからな!』



 まぁ、日本ダービーでクレイアスには完敗だったからな。菊花賞で負けたゼッフィルドには天皇賞・春で、タマモクラウンはそれまでの戦績や着差を考えても、ロードクレイアスが1番強かった。



『1番? ……あぁ、ファートムさんは知らないんですね』


『ん?』


『彼、完敗してますよ?』


『は? ……あぁいや! 知ってるぞ! シャルルゲートだろ? 海外のレースで戦って負けたって聞いた。でもあれは相手のホームだった事を考慮したら十分過ぎる結果だと思うぞ?』



 シャルルゲート曰く、自分の国と芝が全然違うらしい。確かに芝とダートも全然違うもんな。しかもシャルルゲートほとの相手なら、仕方ないだろ。あとダートは別に走れるけど、もちろんどっちが得意かと聞かれたら……あれ? 割とどっちだろ?



『あぁ、そっちでも負けてたんですね』


『は? ……どういう事だ?』


『……ドバイって国? で走ったレース、俺は3着でした』


『おい……1頭はクレイアスだよな? なら、もう1頭は? しかもさっきまでの物言い……クレイアスが、2着だったのか?』


『えぇ。2馬身ほど離されての、完敗だったように思えます』


『2馬、身……!?』



 俺を倒したダービーでは、確か1馬身ちょいだったはず。……い、いやいや、きっと走りにくい馬場だったんだろ! それにあいつ、後ろから一気に来るタイプだから前壁されてどこにも出れなかったとか、そんな感じのはずだ。



『クレイアス!』


『……ファートムか。強くなったようだね』


『お前もな!』


『……強いか。確かに、別れた頃よりはね。でも、上には上がいる』


『負けたってことはさっきドゥラスチェソーレから聞いた。でも本場とは違う舞台だろ? それにお前の事だ。アホみたいにマークされて実力を八割も発揮できたかどうか』


『違う!』



 ずーっとやべぇ雰囲気を纏っていたロードクレイアスに話しかけたが、相変わらず暗い雰囲気だったな。でもそれ以上に……怖い。それに負けた事もまぁ理由が分かるって感じで話しかけたが、大きな声で否定してきやがった。



『あの場所は、あんま変わらない。……普通に走れた。マークもキツかったけど、いつもと変わり無かったし……それなのに、負けた。……走りにくそうにしていたアイツに……完敗だった』


『走りやすかった? ……本気を出して、勝てなかったのか?』


『そうだよ……今まで戦ってきた中で、多分アイツが1番強い』



 クレイアスをここまで痛めつけた奴が、世界にはいる。シャルルゲート以外にも、化け物がいるのか……。



『はっ、腑抜けやがって! お前は……ロードクレイアスだろ!? 俺に勝った! 俺より強い馬だろ!?』


『世界に出たことも無いやつに何がわかる!』


『俺はシャルルゲートに勝ったぞ! 日本でだけどな』


『っ……』


『はぁ、今のお前に勝った所でなんの勲章にもならない。ダービーの時言ってたよな? 負けたらその分強くなるって。ゼロスの奴はあの後に俺にも負けた、その後に連勝してた! お前がそんなんでどうすんだよ! ……世界進出が、こんな形で思い留まるなんて思いもしなかった』


『……俺にも勝ってない癖に、うるさいよ。そこまで言うなら勝って見せろ! この俺に! 俺にも勝てないお前を、世界になんて行かせない!』


『あぁ! 勝つ! お前に勝って俺は発つ。世界へ! 旅立って見せる!』



 阪神競馬場の観客から発される熱にも負けないほどの熱意が、2頭から発される。宝塚記念出走はもう目の前だった。



『また俺、省かれてる。同期なのに……』



 その外で1頭、ドゥラブレイズが悲しげにそう呟いたが誰の耳にも入らなかった。



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またしても怪物の遺伝子から怪物が生まれるのを見た

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