第61話~GI天皇賞・春~
京都競馬場第11R:天皇賞・春<GI>(芝・良・右・3200m)
《日本競馬の中でも屈指の歴史を誇る世界最高峰の長距離レース。それがこのGI天皇賞・春です。今年はGI馬4頭と例年に比べて非常に豪華なメンバーが揃いました
それでは白馬に導かれて、本馬場入場です》
ふははは! 我、参上なり! という訳でまたレースです! やってやりますよぉ! 俺このところ調子良いからな! だってGI4連勝ですよ? 4連勝!!!
こりゃもう俺に勝てるやつ居ないんじゃない? かー、強すぎるって罪ですわ! ……さぁて、メンツはどうだ? 前回のレースはストーカーことサザンプールが予想以上に成長してて強かったが、今回は……。
お、ドゥラブレイズの奴がいるじゃん。いつメンいつメン! 相変わらず強そうだねー。あいつが居るってことは、今日のレースもレベルが高いことが保証されてるようなもんか。
んで他には……お、メイショウザクロスにキセキノアシもいる。同期達じゃん。それにグランジェクトとライムライトも。あいつらの途中仕掛けをこなす体力だけは尊敬だわマジで。
あとは……ネオエイジ!? ネオエイジおじさんじゃないか!? マカモアおじさんとカレンニサキホコルお姉さんは引退してたけどまだ居たのか。てっきり同じタイミングで引退したのかと。
確か俺が人間だった時も高齢者なのに働いてた人大勢いた気がするな。て言うか競馬関係者自体年寄りが多い気が……せ、世知辛い!? 馬も高齢化の波に飲まれたのか!?
そして……アサヒメイキッド!? あの人何歳だ!? 7歳か!? それにテンニモノボル、レーゼドラマ、ホゲットミーノット、インマイハートと今までにも出会った事のある年上勢も多数だな。
他は見た事ないな。年下勢も少しだがいる。めぼしいのは……お、1頭いた。ダノンマカヒキッドか……またマカヒキかァァァァ!?!?!? お前なんやねん!?
『あれ、久しぶりじゃん。……こっち見なよぉ』
『……あ? ぶち殺すぞ』
『だからこっち見なってぇ』
『お前には負けん。大差付けてやるよ』
『こっち見てから言いなよ。ビビってるのぉ?』
『よし殺すー』
ゼッフィルドの奴が居たが無視した。でもそこまで言われたらこっちも出すもん出すぜ! ……と思ったけど客観的に見たら俺の方が暴言吐きまくってて草。
『ねぇ、もしかして俺の事嫌いなのぉ? 俺は好きだよぉ? 馬鹿で操りやすいからね~』
『消えろ消えろ消えろぉぉぉ!』
『君、歳取ってなんで精神年齢退化してるのさぁ。レースでも劣化してて負けた時の言い訳作りぃ? なら頭の方は成長してるねぇ』
『よーし、レース頑張るぞー』
『ありゃりゃ、口で勝てないから無視ですかぁ? レースでも負けないようにねぇ』
『もうシンプルにしねぇぇぇ!』
『え? 普通に傷つくわ』
『え? ……あ、さすがに言い過ぎたわ。ごめ──』
『まぁ嘘だけどぉ。やっぱ君操りやすいわぁ。レースでもその調子で頼むよファーくん~』
『しねぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
『所で君は順調かい?』
『あ? まぁ、お前よりは絶対に最高だな!』
『そうなんだぁ……これでも俺も好走はしてるんだよぉ。ロードクレイアスって化け物みたいな奴はいたけどねぇ』
『クレイアス!? ……へぇ、あいつ、お前に勝ったんだな』
『まぁねぇ。俺に負けた君なんか手も足も出ないと思うよぉ?』
『舐めるなよ。今日勝って見せてやるよ。俺の今の力を、どれだけ成長したかを』
『ふぅん。まぁ、楽しみにしてるよぉ。……今日は、絶対に勝ちたいから』
そう言ってゼッフィルドは去っていく。残ったのはこっちに混ざりたそうにしていたドゥラブレイズだけだ。おーい、こっち来いよー。
『な、なんかアイツ、雰囲気違った』
『あ? そうなのか?』
『あぁ……ちょっと、鬼気迫るものがあった』
『へぇ、このレースに賭けてるってことかね? まぁ、俺も全力だ。負けねぇぞ』
『……俺も、勝つ。今度こそ』
そんな感じでドゥラブレイズとも別れる。え、ゼッフィルドに比べて雑だって? そ、そんな事ないよ……?
オッズ
1番人気ステイファートム2.0倍
2番人気ゼッフィルド2.4倍
3番人気ドゥラブレイズ8.2倍
4番人気ダノンマカヒキッド16.7倍
《さぁ枠入りは順調です。おっと、ゼッフィルドが立ち止まりました……今入りました。少し躊躇いが見られましたがなんともないようです
そしてステイファートムとドゥラブレイズも落ち着いています。最後に菊花賞2着馬のダノンマカヒキッドが収まります。伝統ある天皇賞・春。最強ステイヤーの名誉は年度代表馬か前年度覇者か、はたまた悲願か! スタートしました!
グランジェクトとライムライトが少し後ろに下げました。先頭は、上手く出たステイファートム。それにキセキノアシも行きます
ゼッフィルドとドゥラブレイズは後方寄り。日本最長距離のGIレースはこういった形で始まりました》
今回のレースは長距離。最後に走った長いレースはゼッフィルドに負けた菊花賞が1番新しいな。次に長かったのは有馬記念だっけ?
スタミナは自信あるが……言い間違えた。スタミナも、だな。俺に自信の無い所なんて無い! まぁさすがに菊花賞の時はスタミナが切れてしまったからけど。成長したとはいえ、どこまでやれるか。あまり無駄な体力は使わないようにしないと。
比較的穏やかだ。いつも通り前目のポジションにも簡単に付けることが出来た。でもまだこっからだ。長距離な分、ポジションを奪う時間も、集中力や判断力が鈍る可能性も高くなる。
そもそも俺にこんな序盤から競りかけてくるような奴なんて普通居ないしな。え、前走? サザンプール? ストーカー? し、知らねぇなぁ!?!?
そんな予想はピタリと当たる。いつものレースよりゆったりとしたペースだ。1周目のホームストレッチは終わり、第1コーナーから第2コーナーへと先頭集団は向かっていく。
《最初の1000mは61.5。ゆったりとしたペースを作っているのはキセキノアシと和多竜二。その後ろにレーゼドラマが付けています
1馬身切れて2番目に居ました。去年の年度代表馬、GI4連勝で挑むはかつて敗れた菊の舞台を超えた未知の領域。3200mという過酷なレース
折り合いも馬場も問題ない。スタミナさえ持てばこの馬は負けない。そう横川勤は言っていました。熱き想いを胸に、ステイファートムが盾を目指します
3番手にインマイハートとホゲットミーノット。逃げ馬2頭はなんとこの位置で待機! そしてメイショウザクロスがいて
おっとここで、グランジェクトが3頭ほど抜いていきます。ライムライトも動いた。ここで動いた!》
ふぅ、少しずつペースが乱れ始めてきたな。後ろの方で何かが動いた。前は変わらないから俺のペースは変わらんが、ごちゃついてる事は間違いない。
《さぁ後ろを見ていきましょう。ここに居ましたドゥラブレイズ3番人気。GII日経賞連覇で重賞5勝目を飾った未完の大器がここで花開くのか
その後ろにダノンマカヒキッド。菊花賞2着からGIII、ダイヤモンドSを5馬身差で千切っての参戦です。GI初制覇をGIで、この得意の舞台で飾れるのか非常に注目です
そしてその後ろに、居ました。GII阪神大賞典は9馬身差の圧勝劇。この距離なら負けられない。国内最強ステイヤーの意地がある
前年度覇者ゼッフィルドとその背に股がるルモール騎手はそう言っています。グランジェクト、ライムライトの大外捲りも意に返さず、己のペースを刻んでいます
そして最後方、アサヒメイキッドとネオエイジ。菊花賞馬の2頭はこの位置。3頭の菊花賞馬が揃った珍しい1戦。ネオエイジが上がっていきます
6歳勢と侮るなかれ。GI3勝馬が虎視眈々とゼッフィルドを躱して行った! さぁここでゼッフィルドにも動きがありました!》
さて、ドゥラブレイズとゼッフィルドは来るだろう。ネオエイジのおっさんも侮れない。それにダノンマカヒキッドも中々な雰囲気を纏っていた。
今は第3コーナー。そして勝負の第4コーナーにもうすぐ辿り着く。来てる、来てる……外から来てる馬が沢山いる。この長丁場のレースでも、バテずに頑張って1着を狙おうとしている馬達が迫ってきている!
横川さん、まだだね。分かった、俺はいつでも行ける。その鞭さえ飛ばしてくれれば、俺はぶっぱなせる。あ、でもそう言えば前走ノーステッキだったわ!? と、ともかく! 仕掛け所は間違えないからな!
《さぁ先頭レーゼドラマ。並んでキセキノアシ、追っていく和多竜二の、闘魂注入ムチが飛ぶ! 2番手ステイファートム!
外から後方勢も攻めてきた。馬群がギューッと詰まって団子状態! そこから抜けてくるのはやっぱりキタキタ!
ゼッフィルドが真ん中から割ってくる! ドゥラブレイズも内から差し脚を伸ばしてきた! ダノンマカヒキッドも大外に回したぞ!
先頭キセキノアシ! ステイファートムが一気に先頭に並びかける! 外からネオエイジ! 復活なるかネオエイジ!
しかし先頭はステイファートムだ! 真ん中ゼッフィルド! 内からドゥラブレイズ! やはり3強! やはり3強!》
『あれぇ? もう見えてるじゃん。そんな少ないリードで足りるのかなぁ?』
『捕、まえる!』
『出来るもんならやってみろや!』
京都の平坦な直線、第3コーナーの坂を降って勢いのついた後続勢が一気に猛追してきやがる。後ろからやっぱり来たな。
なぁ、ゼッフィルドにドゥラブレイズ、っぱお前ら最高だよ! さぁ、やろうぜ! ここからが勝負だ! タマモクラウンの奴は居ないが……菊花賞のリベンジ果たしてやるよゴラァ!
《残り200m! 先頭ステイファートム! ゼッフィルドが迫る! ドゥラブレイズも迫る! 3馬身切れてネオエイジとダノンマカヒキッドは4着争い!
ステイファートム先頭! ステイファートム先頭! 外からゼッフィルド! 前年度覇者の脚! 菊の再現なるかどうか!
頑張っているが3着確保が精一杯のドゥラブレイズ! さぁ2頭に絞られた! 残り100m! 先頭ステイファートム! 2番手ゼッフィルド!
しかし前までは2馬身ある! 届くかどうか!》
ゴール板が見える。あと少しだ。なぁゼッフィルド……お前とのリベンジマッチだ。最後の最後まで俺は手を緩めないぜ?
『ぶっちぎる!』
『……はっ、羨ましいねぇ。丈夫な奴ってのは』
ゼッフィルドが何かを呟いたが、その意味までは正直分からなかった。ただ、あいつとの距離が離れていったのは事実だった。
《いや届かない! ステイファートムがまた加速する! 千切った千切った千切ったァ! 強い強い強い!
本当に強い! 4馬身離して今、完勝だァァァ!!! GI5連勝で春の盾を手にしました! ガッツポーズ、横川勤ゥゥゥ!!!
勝ちタイムはなんと、3:12.3っ!!! キタサンブラックが叩き出したJRAレコード更新! あのミドルペースからこのレコードタイムッ!
そして2着はゼッフィルドと最後に伸びたドゥラブレイズの争い。4着争いはネオエイジとダノンマカヒキッドとなっております
終わってみれば3強がそのままワンツースリー決着。そして大阪杯は4着まで、天皇賞・春は3着までを独占。まさに最強世代との呼び声に相応しい5歳世代です!
そしてステイファートム、GI5連勝の偉業を持って上半期を締めくくるサマーグランプリ、GI宝塚記念に向かいます
待ち受けているのは世界を蹂躙して同じくGI5勝、そしてディフェンディングチャンピオンであるロードクレイアス。この馬ももちろん出走を表明しています
日本ダービー以来の対決に向けて今から楽しみで仕方ありません》
はぁ、はぁ……勝った。勝ったぞ! ゼッフィルドの奴とは一戦一敗で負け越しだったからな! でもこれで引き分けには、いいや勝ち方的には俺に有利のはず!
見たかよゼッフィルド! 菊花賞で煽られて切れちまったスタミナ、今回はちゃんと持ったぞ。菊花賞よりも長いのにな。どうだゼッフィル……ド?
《離れた2着には今ゼッフィルドの馬番が表示されました。おや? どうしたんでしょう? ゼッフィルドの鞍上ルモール騎手が今下馬しています!?》
『おい! どうした!』
『あ? ……別にいつもの事でしょ~? 本気出したら、やっぱりこうなるよねぇ。菊花賞の時もそうだったしぃ。そうだ、海外のレース、凱旋門賞? って奴も疲労がヤバかったなぁ』
『折れたのか!? 靭帯でも切れたのか!?』
『落ち着きなって。死にはしないよぉ?』
『タマモクラウンも似たようなこと言って帰ってこなかった!!!』
『っ……そう、なんだぁ。今回は、うん、骨じゃないね。凄く痛いけど、これは多分筋肉? かなぁ?』
自らの脚を一瞥したゼッフィルドは自信なさげに呟く。
『……本気、だったのか? 今回のレースは』
『嫌なこと聞くなよなぁ。……本気だったさ。当たり前だろぉ? 本気を出して……このザマだ。全く羨ましいねぇ。強い身体、強靭な脚。あぁクソ、俺も……欲しかったなぁ』
本気だった。その分、勝てなかった悔しさ、苦しさも大きい。……お前でも、そんな顔するんだな。
『お前は……お前は、帰ってくるよな!? 帰ってくるよな!?』
『知らないよぉ。……どうなるのかは分からない。治るのかどうかもね。ただ……しばらく再戦はお預けだ』
『……クソっ!』
『はっ、こんな俺を心配するなんて、君って本当に馬鹿で本当に操りやすいよ』
『お前、こんな時に何を──』
『だからっ……君に託したい。ロードクレイアスに、勝ってくれ。そして……世界を見てこい。俺が負けた、そしてクレイアスも勝てなかった舞台に、挑んでくれ……!』
今まで1度も聞いた事のない気迫のゼッフィルドが俺に、この俺に、そんな頼み事をしてくる。
『お前らが、勝てなかった舞台に……世界、に……?』
『なに? 怖気付いたのかなぁ? ……俺の夢、託したからな? ……まぁ精々、健闘を祈るよ。俺の操り人形君』
減らず口を叩く余裕はあるようだ。丁度良く馬馬車が到着する。横川さんもついに促してきた。残された時間は少ないな。
『……ったく、お前は最後まで憎たら──』
『勝てよ……ファートム。お前に、任せた……!』
『……任せろ。元より世界を見て回る使命は先輩達から託されてる。そんでタマモクラウンのためにも、俺はもう二度と負けないと決めてる……最初から、どこだろうと勝つ以外の選択肢なんて無いのさ』
決して俺の方を見ずに、その背中を向け続けたゼッフィルドの言葉に俺はそう答えた。……シュトルムのおっさん、タマモクラウン、マカモアおじさんに、再戦を誓ったシャルルゲート。
そしてゼッフィルドまで……託しすぎなんだよ、お前ら。俺へのプレッシャーってもんを考えやがれってんだ。……夢を乗せて走り、次代へと繋ぐ。でもお前ら同期だよねぇ!?
……ったく、重たいな。すっげぇ重たい。……でも、ここでアイツらの想いに応えなきゃ漢じゃねぇよな。やってやるよ、まずはロードクレイアス。そして世界一へ、駆け上がってやるさ!
3:12.3(R)
1着ステイファートム
2着ゼッフィルド 4
3着ドゥラブレイズ クビ
4着ネオエイジ 3
4着ダノンマカヒキッド 同着
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