第55話~GI有馬記念《後編》~

【馬番】

①インマイハート

②コヨミアマツ

③メイショウザクロス

④アサヒメイキッド

⑤マツリダマカヒキ

⑥ワナビアヒーロー

⑦ドゥラスチェソーレ

⑧バーストインパクト

⑨ネオエイジ

⑩キャンディボール

⑪ウイングロード

⑫ライムライト

⑬カレンニサキホコル

⑭ステイファートム



1番人気ドゥラスチェソーレ3.2倍

2番人気ステイファートム3.3倍

3番人気キャンディボール8.4倍

4番人気カレンニサキホコル8.5倍

5番人気ネオエイジ18.1倍

6番人気ワナビアヒーロー25.6倍

7番人気バーストインパクト31.9倍



《さぁ、スターターが歩き出しました。年末最後の大1番。今年の競馬を締めくくる、有馬記念のファンファーレです!》


《最終オッズは僅差でドゥラスチェソーレに軍配が上がりました。やはり三冠馬の肩書きの格、それに朝日杯FS以外では負け知らずの戦績が後押ししたのかもしれません》


《明智さん、それにステイファートムがやはり大外枠と言うのもきついでしょうね。去年も大外枠で2着に食い込む大健闘を見せたんですが……》


《細田さん。無冠の帝王と呼ばれたステイファートムですが、対するドゥラスチェソーレは2冠の壁を破った馬とも呼ばれていますね》


《えぇ、キングカメハメハの変則2冠、ドゥラメンテの2冠、スターズオンアースの2冠に終止符を、三冠という形で射止めましたからね。ただ、父系も注目でしょう》


《イクイノックス。わずか3歳で日本最強馬となり、4歳初戦で世界を制した馬ですね。逆にイクイノックスはクラシックを無冠で終えたに対してその息子が三冠を取ったことも大きな話題になりました》


《あの走りは衝撃でした。1番人気ドゥラスチェソーレが最強4歳世代筆頭候補のステイファートムとどんな競馬を見せてくれるのか、今から楽しみで仕方ありません!》


《枠入りは順調です。バーストインパクトもスっと入りました。両隣のドゥラスチェソーレとネオエイジも落ち着いています


そして最後に、2番人気のステイファートムがゲートに向かって歩きだしました。おっと、少し躊躇っている。……促されて入りました


全馬枠入り完了。若駒の天下統一か、昨年からの逆襲か! はたまたそれに待ったをかける新星か! 今年はどんなドラマが待つのか、日本の競馬ファンよ、見届けよう! 第××回有馬記念スタート切りました!》



 カレンニサキホコルお姉さんが俺を見てウィンクをしたのでちょっとビビったが横川さんに促されて普通に入る。あれ? また1番外!?


 確かすぐ開くはずだ。脚に力を入れて……よし開いたっ! 良いスタート! 上手く出れた。さぁ誰が行く!? 先頭は嫌だぞ!



《良いスタートだステイファートム! ドゥラスチェソーレは真ん中少し下げました。さぁ先行争い前に行くのは誰だ?


最内枠を活かしてインマイハートが行く。そしてやっぱり行ったぞワナビアヒーローだ! アサヒメイキッドも早め3番手につけている


ステイファートムは外から強襲。すごい勢いです。アサヒメイキッドに並びかける。ドゥラスチェソーレは中段後ろ。最後方にネオエイジこう行った形で1周目のコーナーを迎えます》



 行ったのは……ワナビアヒーロー。いいねぇ、その名に相応しく先陣を切ってくれ。そしてその後ろに……インマイハートか。知らねぇ奴ら2頭だが、俺はその後ろに付けさせてもらうぜ。


 隣には……アサヒメイキッド。いつも堅実に走ってるおっちゃんだな。強いけど勝ちきれないイメージの馬だ。まぁ、GI級ではあるが運が良くないと勝てない程度の実力って印象。


 んで、三冠馬……ドゥラスチェソーレはどこだ? 後ろか。まぁ俺が結構先頭寄りの位置取りをいつもしてるから大抵そうなるのは知ってるが。


 ……後思ってたんだけど、三冠馬って何? アイツが言ってた奴だけど……あと、俺が勝ててないとか煽ってきたよなぁ!?


 ……あっ、思い出した。皐月賞、日本ダービー、菊花賞の去年走った3つの特別なレースのことか! 確かにゼロス、クレイアス、ゼッフィルドに負けて俺勝ってないや!


 ……そのレースを、ドゥラスチェソーレは俺が居ないとはいえ3つとも勝ったと……だから三冠馬だと、1つも勝ててない俺には負けないと、そう言いたかったんだな!


 ……はっ、イキリやがって。このレースで、身をもって教えてやろう。お前がそれを取れたのは、この俺とそのライバル達が居なかったからだとなぁ……!



《さぁホームストレッチです。中山を訪れたお客さんの前を、今年を彩った14頭の優駿が駆け抜けます。先頭を引っ張るのはワナビアヒーロー


2番手にインマイハート。3番手ステイファートム2番人気。その後ろにアサヒメイキッドがいて、カレンニサキホコル5冠牝馬、中段に構えている


キャンディボールが後ろでピッタリとマークして、その後ろにドゥラスチェソーレ、三冠馬として挑む古馬初戦、負けられないぞ。やや中段後ろ寄り


最初の1000mは60.1。平均的なペースで進んでいます。ネオエイジが最後方。こういった形で再びコーナーに差し掛かっていく。ワナビアヒーローの2馬身ほど離した逃げ。そして向こう正面へと戻っていきます》



 隊列は決まったな。ここで動き出すやつはいない……バーストインパクトも問題ないな。昔のあいつはレースをやる前から暴れたりしてた。


 3歳時は途中から暴走して……でも、それも最近は也を潜めている。強いて言えば最終コーナー手前で暴れてるけど早めに仕掛けるって意味じゃゼッフィルドと同じだし。


 まぁ、ただ我慢の限界が来たのと仕掛け所を考えた上での作戦という大きな違いはあるがな。



《さぁ隊列を確認しましょう。先頭ワナビアヒーロー、2馬身切れて2番手インマイハート。その後ろに2番人気のステイファートム、史上3頭目の偉業なるかどうか


そして外、隣にアサヒメイキッド。後ろに構える形でライムライト。ステイヤー2頭がステイファートムに狙いを定めているぞ!


後ろにラストラン、有終の美を飾れるかカレンニサキホコル5冠牝馬、その内にキャンディボール年下オークス馬。最強牝馬の称号獲得を狙います


1馬身切れてコヨミアマツ神戸新聞杯勝ち馬。まだ抑えて、抑えて、バーストインパクトと沼添。人馬で深めた絆でまだ我慢させていま──動いた!


ここで動いた!!! 行ってしまった! バーストインパクトがここで仕掛けた! さぁテンポを乱し始めたぞぉ!


そして3頭並んでいます。外にウイングロード。内にメイショウザクロス。これらを囲む形で1番人気の三冠馬ドゥラスチェソーレは後方


キタサンブラック、イクイノックスに続く三代制覇を目指して鞍上メルコ・デムーロの手網が早くも動き始めた! さぁバーストインパクトの暴走で空いた隙間を通って後ろの2頭が仕掛けたぞ!


依然として後方に位置するのはネオエイジ。そして最後方はマツリダマカヒキ。こう言った形で隊列が形成されています


バーストインパクト、そしてドゥラスチェソーレの動きで各馬の位置取りが激しく変わる! 先頭ワナビアヒーローで第3コーナーカーブを回る!》



『うははははは!』



 お、この声はバーストインパクトだな。あいつ、やっぱり早めに仕掛けてきたか。ん? 脚音が忙しない。後ろの方ちょっとゴチャゴチャしてるな。



『ねぇ、おばさん、早く仕掛けたらどうなの?』


『ふふ、まだまだ子供ね。余裕を持つのも大人なのよ』


『あら? でもそんなにとろとろしてると追いつけなくなるわよ』


『勢いだけで突っ走って自滅してくれるの? ありがとうね』


『『……あ? ぶち抜くぞ?』』



 後ろの牝馬2頭もなんかバチバチしてますぅ!? 前は……あ、ワナビアヒーローくんが一生懸命先頭で走ってて癒される~。



《まだ先頭ワナビアヒーロー。インマイハート竹豊の鞭が飛ぶ! ステイファートム内で持ったまま! 外からオークス馬2頭!


そしてバーストインパクトも来ている! その外から、持ったまんまで、ドゥラスチェソーレとデムーロが上がってきて最後の直線迎えました!》



『ぐぅっ! まだぁぁぁ!』


『邪魔よ!』


『そっちこそ!』


『……ふっ、いける』



 ワナビアヒーローの粘り。後ろからカレンニサキホコルお姉さんとキャンディボールの競り合い。そして最後の余裕の声……。



『来たか』


『もちろん』



 ドゥラスチェソーレの奴が上がってきた。まだ余裕を見せている。でも、それは俺もなんだよ。さぁ、競おうぜ! どっちが強いかをよっ!



《先頭ワナビアヒーロー! 内から並びかけるステイファートム! 真ん中からカレンニサキホコルとキャンディボールも来ている!


外バーストインパクト! ネオエイジも後ろから伸びてきている! 外からドゥラスチェソーレきたっ! 10代目三冠馬に鞭が入った!


全てを抜き去る勢いっ! あっという間に差を詰めていく! 内からステイファートム1馬身抜けた! 2番手ドゥラスチェソーレ! 


ワナビアヒーロー沈む! 各馬が懸命の追いを見せるが差が詰まらない!》



『追い、着いたぞ』


『はっ、ご苦労なこった』


『あんたを倒して国内に敵はいない。そう知らしめる。……俺が目指すのは世界だ!』


『奇遇だな。……俺もだよ』



 一番最初に言われたのは……シュトルムのおっさんだったな。後はアスクマカヒキモアおじさんやシャルルゲートの奴らも言ってたっけ?


 俺は……俺も、世界を目指すんだ。例えお前が俺の取れなかったタイトルを全部かっ攫ってようと! 実績が俺より上だとしても! 勝つッッッ!!!



「行け! ファー!」



 ここで横川さんの鞭が俺に振るわれた。……それじゃ、飛ばすか。



《さぁ最後の急坂! この2強が馬体を併せたぞ! 内ステイファートム! 外ドゥラスチェソーレ! 


並ぶ! 抜くか!? 突き抜けるのか!? 見せろファートム古馬の意地! さぁ、ここでステイファートムに鞭が入って……っ!?


抜けた! 一瞬で抜けたのはステイファートム!!! 迫るドゥラスチェソーレをあっさり突き放す!?!? 1馬身! 2馬身!》



『は……?』


『じゃあな』


『ま、待て! 何だよその脚!?』


『……ははっ、国内も中々のもんだろ?』



《並び立つが抜かせない! ドゥラスチェソーレの猛追何のその! ステイファートムが離した離した離したァ! 2番手ドゥラスチェソーレ3番手カレンニサキホコルとキャンディボールの争い!


1頭だけ桁が違う! 大外枠も問題なし! 去年の悔しさ今果たす! 魅せてくれた帝王の脚! ステイファートム! 強ぉぉぉぉぉいっっっ!!!


ステイファートム圧勝ぉぉぉぁぉ!!! おめでとうステイファートムゥゥゥ! 三冠馬に3馬身差付けての完勝! そしてそして! 史上3頭目の! 秋古馬三冠達成ぃぃぃ!


場内から大きなどよめき! そして拍手! この馬には、三冠馬ですら役不足なのか!? 古馬としての威厳を見せつけるすごい走り! もう国内に敵は無し!


そして2着にドゥラスチェソーレ。3着はカレンニサホコルとキャンディボールの写真判定。5着には粘ったワナビアヒーローか、追い込んだネオエイジか》



「……終わったよファー。今日もおつかれさん。ふふ、やっぱファーは最高だよ。実はもっと着差付けるつもりだったけど……おめでとうさん」



 横川さんが俺のたてがみを撫でながら笑いかけてくる。喜んでくれるなら良かったよ。



『……よっ、先輩の強さはどうだったよ後輩?』


『ぐっ……あ、あんな、脚してても、勝てなかったのか?』



 ドゥラスチェソーレがトボトボとこちらに歩み寄ってくる。負けた悔しさが全身から滲み出ているな。



『……あぁ。勝てなかった。あの頃の俺は色々と若かったからな。ただ、後悔はしてない……と言えば嘘になるが、納得はしてる』


『負けたのに、か?』


『あぁ。悔しさをバネに頑張った。お前も今、それを熱烈に感じてるだろ? その悔しさがお前をもっと強くする。……ライバルの存在、そうだな……ワナビアヒーローのような熱意を持てば、そしてそれを俺に向けられれば……次はもっと着差を詰められる……かも、しれない』


『……この、胸の奥を焼き焦がすような灼熱の炎……それを燃やし尽くす勢いで努力する。そして、次はあんたに勝つ。勝ってみせる!』


『はは、その意気だ。でも怪我はすんなよ? まずは身体を休めること、それも大事だ。俺たち競走馬の道は怪我をしたり引退をしてはい終わりだなんて、そう簡単なものじゃない……まぁまずは、悔しかったら次は勝ってみせろ。幾らでも受けて立つ』



 こうして後輩にハッパをかけて俺はドゥラスチェソーレの前から去った。はっ、勝った勢いでめっちゃ臭いセリフ吐いちまった。


 でも、それでアイツの糧になってくれるなら安いもんか。……シュトルムのおっさんやマカモアおじさんも、こんな気持ちだったのかもしれん。


 人間からすれば短い競走生活の中で、俺たちを命を懸けてターフを駆ける。毎年何千頭と生まれる競走馬の中で、巡り会えたってだけで運命だろ。


 馬が馬を育てる。先輩がしてくれたように、とはいかないかもだけど、俺なりの言い方で……。縁は巡るって言うしな。


 血統のように繋ぐんだよ。教えを、上から下へ。……うん、負けた後輩にかける言葉、もっと色々考えておいた方が良いかもしれん。



『……ファートムくん』


『カレンニサキホコルお姉さん』



 負けたことの悔しさを前面に押し出していたドゥラスチェソーレとは逆に、悔しさを噛み締めて、押し殺すような苦悶の表情を浮かべた姉さんが話しかけてきた。



『私ね、キャンディボールちゃんに負けたわ』


『そう、ですか』


『これが、最後のレースだったの。……あはは、勝ちたかった、なぁ。君と走ったレース、全部ファートムくんの背中を見てるだけだった。他のレースじゃ勝ったりしたけど、君は居なかった……本当に、勝ちたかったわ』


『……長い間、お疲れ様でした』



 その横顔から俺は見た。ポロリと一筋の涙が彼女の目から零れた様子を。



『ふふ、ありがとう。……さっき、彼女と話し合ったの。私はもうターフを去るけど、彼女はまだ走る。譲るのは癪だけど、彼女になら任せられるかなって……でも、貴方も引退した時に逢いに来てくれると嬉しいわ』


『善処しますよ。俺が貴方に相応しい戦績を携えて』


『えへへ、そう? ……楽しかったわ。それじゃあ……またね』



 最初とは違い笑顔を浮かべて彼女は去っていく。何度も咲いたであろう花は、有終の美という最後は飾れなかった。でも、彼女の顔には飛びっきりの笑顔が咲いていたのだ。


 ……叶わなかったその夢の続きは、彼女の子供達が紡ぐだろう。その礎に、俺も少しぐらい携われたらな、なんて考えてしまった。


 その後はキャンディボールの褒めて褒めてアピール、バーストインパクトの暴走、ネオエイジとワナビアヒーローのどっちが先にゴール板を通過したか論争(同着だったらしい)を乗り越えてそして、俺の4歳は終わりを告げたのだった。



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JG1中山グランドジャンプは過去10年のデータ見ても今年で8年連続出走するオジュウチョウサンを買えば勝ち確ですね!!!

皐月賞は難しい!フリームファクシ推しです!

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