第45話~GI天皇賞・秋《後編》~

最新オッズ


1番人気ステイファートム 2.4倍

2番人気ネオエイジ 3.9倍

3番人気ホワイトローゼンセ 4.7倍

4番人気カレンニサキホコル 7.8倍

5番人気ヒシクラウン 9.6倍

6番人気ミドルオブドリーム 12.3倍

7番人気アスクマカヒキモア 12.9倍



【馬番】

①ジェミニリスト

②バーストインパクト

③ホワイトローゼンセ

④ミドルオブドリーム

⑤ロクテンノブナガ

⑥アスクマカヒキモア

⑦ヒシクラウン

⑧ダノンバルス

⑨ダイワマカヒキー

⑩アグネスファイル→除外

⑪ガイストデゼル

⑫ホゲットミーノット

⑬カレンニサキホコル

⑭ステイファートム

⑮サザンプール

⑯メイショウザクロス

⑰ネオエイジ

⑱マツリダマカヒキ



《さぁゲート入りが始まっています。馬場入り直前になんとアグネスファイルが故障発生と言う異例の事態にはなりましたが17頭のうち半数は既にゲートの中です


バーストインパクトはまだ落ち着いています。さぁマツリダマカヒキが収まりました。古馬の意地か! 新星か! その脚で掴め秋の盾! 今スタートを切りました!


ややバラついたスタート、ロクテンノブナガ出遅れました。そして先行争いに移っていく中で……最初に出たのはやはり1枠①ジェミニリスト! そしてホゲットミーノットも行きます!


逃げ馬2頭がレースを引っ張る形となりました。そしてステイファートムは真ん中より前目で競馬を進めています。ネオエイジ、ホワイトローゼンセは後方寄り。第2コーナーに差し掛かります》



「良い感じ!」



 まぁまぁのスタート。横川さんの声色も普通だ。さぁ、この中で強い馬は1度戦ったことがある馬だけだ。他は強そうであって、恐らくホワイトローゼンセおじさん達の方が強いからあまり意識はしない。



『隣だから合わせるなんざ楽勝だな』


『ふふ、ちゃ~んと見ててね♡』



 ストーカーのサザンプールの奴が外から被さるに並び立った。と思ったら今度は内を塞ぐようにカレンニサキホコルお姉さんも隣に立つ。


 鞍上の人が少し混乱してるが別に暴れている訳じゃないから、着順に影響するほどの不利は無いだろう。サザンプールの鞍上は冷静だな。これも経験の賜物ってやつ? 俺もサザンプールが居ることに慣れてきてるし嫌な経験……。



《さぁ先頭から見ていきましょう。行った行ったぞ逃げ馬ジェミニリストが先頭です。そしてこちらも逃げ馬ホゲットミーノットがいます


そこから2馬身ほど離れて真ん中、1番人気ステイファートムは前目で競馬を進めています。内にカレンニサキホコル、外サザンプールがいて


メイショウザクロス復帰戦ですがこの位置にいます。ダイワマカヒキーがいて、その隣にミドルオブドリーム3歳馬がいます


その後ろに内ダノンバルス外アスクマカヒキモアのGIホース2頭が固まっています。その外からヒシクラウンが上がっていきました


その後ろにホワイトローゼンセ3番人気。並ぶ形でマツリダマカヒキがいて、競りかけるように、バーストインパクトが上がっていく!!!


行ったぞ! 向こう正面でバーストインパクトが動いた! 鞍上沼添抑えきれないか!? あと3頭後ろを紹介します


ガイストデゼルと出遅れたロクテンノブナガ。ネオエイジ2番人気は最後方と行った形になります。そして……最初の1000m57秒5!!!


57秒5と言う超ハイペース! 既に10馬身の差を付けて、ジェミニリストとホゲットミーノットが大逃げを打っています! 欅の向こうは既に通過!


そして離れた馬群の先頭にステイファートム。徐々にペースを上げていこうという所か!? 既に手網が動き始めている!


そしてそして、並びかけるように外からバーストインパクトが馬群の先頭集団に競りかけている! 差は詰まっているがまだ10馬身と言った所か!? 第3コーナーから第4コーナーを迎えて……


さぁ! 逃げ馬の悲願成就か! GI馬の復活か! はたまた新たな栄光か! 古馬の意地か! 若駒の快進撃か! 全ては、府中の直線525mで決まるっっっ!!!》



『行ける! 行けるぞぉ!』


『うぉぉぉぉぉ!』


「うわ、遠くね?」



 バカ逃げコンビみたいに破滅的なラップを刻んでいる前の2頭を見て思わず横川さんもそんな言葉が漏れる。……バカ逃げコンビって何だ? ふと頭に浮かんだんだけど。



『お前を差し切ってゴールするんだ。だから意地でも届かせろ』


『ふふ、別に何着でも良いのよ? お姉さんが勝って慰めることには変わりないもの』


『うっせぇ黙れ。……俺が上でお前らが下だ!』


『……良いねぇ!』


『ふふふ、泣かせたいわその気迫のこもった顔』



 横川さんの手網が動き始める。俺の得意なコーナーだ。細かく回転率の高いピッチ走法で回る。距離のロスなく最内を、減速することなく。


 合わせるように2頭が動き始めるが、やはり人間である以上、人の言葉を聞いて改善したりした俺の走りは何かが違うのだろう。技術面に関しては俺の方が上らしい。



『ひゃははははは! 来たぞ! 来たぜぃ! 俺様のターンよォ!』


『バーストインパクト! お前もいつも通りだなぁおい!?』



 外から強襲するかのような勢いでバーストインパクトが競りかけてくる。それで体力は……菊花賞を走っていたな。ならスタミナ切れにはなりにくいか。それを見越してのロングスパート? いや、そこまで考えてねぇだろ。


 後ろをチラッと見る。ミドルオブドリームって若駒に、マカモアおじさん、それにヒシクラウンとダノンバルスも。有力馬達も来ている。


 ただ、ネオエイジとホワイトローゼンセの奴はまだ見えない。……ここの直線は前回走った札幌記念のコースより1.5倍~2倍程度の差がある。いつ来るか、油断するなよ俺!


 

《先頭やはりジェミニリスト! こちらも忘れるなと言わんばかりの狂気の逃げを打つ真ん中ホゲットミーノット!


既に差を詰めているステイファートムが上がってきている! 最内を選択したカレンニサキホコル! 真ん中からサザンプール!


外からバーストインパクトの凄い脚! さらにアスクマカヒキモアが来ているぞ! ミドルオブドリームも内から顔を出す!》



『ボウズ、今から追い抜くそこで待ってろや!』


『ファートムおじさん居たァ! まずはあんたをぶち抜くよぉぉぉ!』


『年寄りとガキの出る幕じゃねぇよ! 俺の王道邪魔すんな!』



 マカモアおじさんにミドルオブドリームも差を詰めてきている。さらにその後ろはジェミニリスト達の大逃げで馬群がぎゅっと詰まっていて、ヒシクラウンって馬は割って来れそうにないな。



《ダノンバルスも伸びている! そして外からホワイトローゼンセとネオエイジがジリジリ上がっている! さぁ、残り400を通過しています!


後ろはとどくのか!? まだ先頭ジェミニリスト! ホゲットミーノット脚が鈍った! 並ぶ形でステイファートムだ!


サザンプールも隣にいるぞ! 最内で、カレンニサキホコルも伸びてきている!


先頭ジェミニリスト! 4馬身、3馬身、徐々に差が詰まっていく! 2番手ステイファートム! サザンプールとカレンニサキホコルは差が詰まらない!》



『がはっ、はっ、は……!』


『届く!』


『離されて、たまるかぁ!』



 ジェミニリストの奴の脚色が鈍った。ホゲットミーノットの奴と競り合って体力を消費したようだな。俺の末脚は1級品だ。


 でも後ろの奴らは超1級品。早めに抜けて体力を消費するロングスパートのような仕掛けをしなければならなかった。俺の得意な好位差しの王道パターンよ!


 俺について来なきゃ、後ろから脚を溜めて末脚で追ってくるとかすればサザンプールの奴ももうちょっと戦えるんじゃないか? いや、あいつも俺と同じタイプなのかもしれん。



《外からアスクマカヒキモア! それに並ぶネオエイジ! さらに真ん中から一気に来た! ホワイトローゼンセだ! ディフェンディングチャンピオン!


ジェミニリストにステイファートム並んで交わした! 無冠の帝王が、戴冠するまで残り200m! 栄光まであと200!


しかし! やっぱり来たぞ! 外からホワイトローゼンセの凄い脚! 前走の悔しさ果たす末脚! ネオエイジは、千切り捨てられた!》



『お前、そこまでの力を……!?』


『はっ、クラシックホース? 二冠馬? 知るか、所詮は俺の出ていないレースで得た地位だろう? この距離、このコースでなら俺は最強だ!』



 その言葉に嘘偽りは無い。それを証明するかの如き凄まじい末脚が弾けるように爆発した。垂れたジェミニリストを一気に抜き去って先頭に立つ俺まで迫ってくる。



《サザンプールとカレンニサキホコルの3番手争い! さらにその後ろにアスクマカヒキモアとミドルオブドリームか!? ジェミニリストも粘っている。しかし届かない!


先頭ステイファートム2番手ホワイトローゼンセだが、差が詰まる! 差が詰まる! 1馬身、半馬身! 札幌記念の再現か!? 2頭のマッチレースだ!


前ステイファートム! いや、並ぶ! 並んだ! ホワイトローゼンセが並ぶ!》



『よう、じゃあ、捉えるぞ?』



 前には誰もいない。と思う暇も無くホワイトローゼンセの奴が後ろに迫ってきていた。最後の直線時点じゃ影も形も見えなかったってのに……。



『あ、どこがだよ』


『これから見せるさ。その目に焼き付けろ。抜き去る姿を』



 強がりのようにそう言うのが限界だった。俺はこんな末脚は持ってない。粘るしかないんだ。スタミナを使って、脚を使って……。クソ、札幌記念ならもう終わっている。前走と変わらず俺の粘り勝ちのはずだ。


 ……でも、この舞台じゃ違う。ホワイトローゼンセの脚は、この舞台で真価を発揮するのだろう。あっという間に俺の隣に並びかけて……クビ差、相手が抜ける形となった。



《残り100を切って、先頭変わってホワイトローゼンセ! 連覇の華が咲くのか!?》



『じゃあな』



 ホワイトローゼンセの奴が抜けた、俺の前に……。何かが壊れていく。パリンと、ガラスが割れるような音が聞こえた気がした。


 ………ふざけるなって。このまま負けるのか? 何度負ければ気がするんだ? お前は勝ちたいんじゃないのか? そうなんだろ? 負けるのは嫌なんだろう? なら、負けられない。負けられない……!



「ダメだ。ここじゃ、負けられないんだ……!」



 あぁ、そうだよ横川さん。負けられないんだよ……! ヒュンと鞭を振るう音が聞こえた。バチィンと後ろのトモに衝撃が走る。瞬間、小さく着いた俺の心の炎が燃え盛る!



「伸びろ、ファー!」



 ……おう、任せろ! 最後の最期にタマモクラウンは俺に勝った。あいつにとってはそれが唯一の勝利だ。でも、俺が勝てないとあいつの勝利にもケチがついてしまう。


 そんなの許せるか? 否だ! ならもう俺は、誰にも負けない! 負けちゃいけないんだ! それが、あいつへ贈る手向けっ! ぶっぱなせ! 俺の二の足!



《いやまだだ! 内からステイファートムまた伸びる!? ステイファートム差し返す! ファートム差し返すぞ!?


また並ぶ! 残り50! 連覇か! 悲願か! 2頭が並ぶ! そして……!》



『ちっ』


『……なんだよ?』


『今回は、お前に譲ってやる』



《ステイファートム差し返したァァァァァ!?!?!? ついに! ついに! ついに掴んだGIタイトルゥゥゥ! 母子制覇だ秋の盾! 無冠の帝王が今、中距離最強馬として戴冠しましたァァァ!!!》



「……よっ、しゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」



 横川さんの渾身のガッツポーズ。それに呼応する雄叫びと、観客から湧き上がる歓声が東京競馬場を支配した。ビシッと突き立てた人差し指。


 それは俺たちが1番であることをテレビを通して見た全ての人間へと向けたメッセージであることを示していた。



《ステイファートムが5度目の挑戦でついにやりました! 初のGIタイトルはなんと母子制覇! そして、荻野厩舎は開業から僅か5年で4度目のGI制覇! さらに横川勤はこれで天皇賞・秋を2度目の制覇です!


2着には前年の覇者ホワイトローゼンセ、3歳の若駒、2年前のクラシックホース達、共に届きませんでした。悲願のGI初制覇、ステイファートムです!


親子で同じ道を歩み辿り着いた頂き。これはもう、運命と言っても過言ではないでしょう。そして、ステイファートムの旅路はまだ始まったばかりである。そう予感させられたレースでもありました》



『おい』


『……』


『おい!』


『……え?』



 見るとホワイトローゼンセおじさんが俺に向かって声を荒らげていた。



『今回は負けを認めてやる……でも次会った時は勝つ。それまで、誰にも負けるな。分かったか?』


『……勝ったんだよな?』


『あ?』


『俺、勝ったんだよな!? 勝ったんだよな!?!? ……お、おぉぉぉおぉぉおおぉぉぉおぉっっっ!!!』



 勝てた……! 勝てた! 勝てた! やっとだ。皐月賞でディープゼロスに敗れてから4度、ロードクレイアス、ゼッフィルド、タマモクラウン……こいつらに負け続けた。


 その悔しさが今、解き放たれた。胸を熱く燃やすこの高揚感! 息をするのが苦しくて張り裂けそうだ。耳も大歓声のはずなのに届いてないように思える。


 その全てを吐き出すかのように、俺はヒヒィーン! と叫ぶ。全身で勝ったことを、観衆に見せつけた。そして横川さんを思わず振り下ろしてしまった。ご、ごめんなさい……。



『……強いなファー』


『マカモアおじさん! 俺、ついに、勝ったんだ! GIを!』


『うっせぇ俺なんて3つも勝ってるんだ。1回ぐらいで調子乗んな……次は負けねぇかんな?』



 そう言ってアスクマカヒキモアが。



『今回はお姉さんの完敗よ。所でその涙はお姉さんに構ってほしいって合図なの? ふふふふ良いわよ♡』


『アアァァァアアアァァァアアァァァァァァ!?!?!?』



 舐めまわすようにカレンニサキホコルが。



『……強いね、おじさん。やっぱりタガノフェイルドおじさんのライバルなだけある……でも、まだ俺の旅路はこんな所で終わらない……!』



 己の道を、負けてもなお突き進むミドルオブドリームが……俺の元に詰め寄って自分勝手な言い分を吐き捨てながら去っていく。


 はは、勝てた。その事実があるだけでこいつらの悔しさから来る俺への恨み節やらも全く傷つかないな! 最高の気分だぜ!!!


 そして再び俺の背に跨った横川さんと共にウイニングランを行い、今1度大歓声が沸き起こった。「おめでとう」そんな言葉に横川さんは泣きながら手を振るう。


 その先には沢山のファンがいて、俺たちの勝利を自分の事のように祝ってくれて嬉しい。なぁ……タマモクラウン、見ているか?


 少し立ちどまり府中のターフのど真ん中で、俺は快晴の青空を見上げる。清々しいよ本当……この勝利は俺に携わってくれた皆の勝利でもあるけど、お前も俺の背中を押してくれた1人なんだぜ?


 だから……お前には感謝してもし足りないよ。でも、少しはこれでお前への手向けとなってくれれば良いかな……。俺はそんな事を考えながらターフから引き上げて行った。



 なお、その頃タマモクラウンは初年度の種付けを終えて優雅な種牡馬人生を謳歌していた。その事実をステイファートムが知るのはまだまだ先の話である。



1着ステイファートム

2着ホワイトローゼンセ 1/4

3着カレンニサキホコル 3 1/2

4着サザンプール クビ

5着アスクマカヒキモア 1

6着ミドルオブドリーム 3/4

7着ヒシクラウン 1

8着ジェミニリスト 1/4

9着ネオエイジ 2

10着バーストインパクト 1/2

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