第40話~GII札幌記念《前編》~
『よぉ』
『あ? って、あぁぁぁぁぁぁぁ!?!? お前! どこ行ってた!』
久しぶりに帰厩して最初に見た顔なじみに挨拶をする。フェイは驚いた様子でめちゃくちゃ吠えてきた。
『ちょっと治療してた。そっちの調子は?』
『……まぁまぁだ』
『はっ、負けたか』
『うるさい! それもこれもお前が……ちっ、それよりも弱くなってないだろうな?』
『やってみるか?』
『ぶち抜いてやる!』
そんな会話をしているとすぐにフェイの奴との併走が始まった。久々だったけどなんとか粘って先着はさせなかった。
『ふん、実力は衰えてないようだな』
『いくら衰えようがお前に負ける未来が見えねぇ』
『ぶっ潰す! ……てかそっち、でかくなってね?』
『ふ、太ってねぇぞ!?』
みんなに言われるんだけど!? 俺、そんなに太いのか? 確かにちゃんと走ることはあんまなかったけどさぁ……。
『違う。……ただ、うん。ファー、今のお前ならいける。絶対ボスやった方が良いぞ』
『おう、やるわ』
『ちっ、そうかよ。じゃあまだ俺が暫定的なボスって事か…………ん?』
『やるよ、ボス』
『…………ファーがおかしくなって帰ってきた!?!?!?』
失礼だなおい!? 俺は至って普通だ! ……シュトルムの奴に言われたからな。群れのボスって奴はあんま理解できてないけど……。
***
《最後の直線! 1番外からカーテンコールだ! カーテンコール抜けた! カーテンコールが後ろを離す! 2番手ネイルドライト!
カーテンコールだ! 格が違うのかカーテンコールだ! 今、8馬身差をつけてゴールイン! ステイスターダム産駒のカーテンコールです!
全兄はあの無冠の帝王ステイファートム! メインレース札幌記念に向けて、鞍上横川、まずは嬉しい今日初勝利っ!》
「おめでとうさん」
「いえ、カーテンコールは重賞ぐらいなら勝てると思ってましたから」
ステイファートムが本日走るのは札幌記念。それと同じ日にカーテンコールの新馬戦も兼ねてみたが大成功だな。
「それよりも横川、正直乗ってみて……どうだ?」
「まぁ、太め残りではありましたね。ただ……成長分の方が比重は多いと思います」
「太め残りは仕方ない。今回は叩き一戦目だ。勝ち負けを目指せと上からも言われてる」
ファートムの奴、最初に有馬記念から40kg増って聞いた時は驚いたな。まぁ、菊花賞から15kg増の時点で分かってはいた。
確実に成長期だ。菊花賞から合計で55kg増。そこから10kgほど絞って、結果としては有馬記念から30kg増……天皇賞・秋までにもう10kgは落としてぇ。
「ただファーの気分はのってます。注文通り、このメンツでも勝ち負けならいけます」
「ふっ、まぁ勝てとは言わん。ただ……怪我の具合がどうなるか分からん。無理はさせないように」
「えぇ。本気は出させません。と言うか有馬記念の7割出せれば良い方かと」
そう言い残して横川の奴はファートムの元に向かう。……まずは怪我をしないこと。そして出来れば勝ち負け。望むなら勝利。ただ今回は同じGIIでも1つ格が違うからな。……まぁ、走ってみるまで結果は分からん。あとは信じて送り出すだけか。
***
札幌競馬場第11R:札幌記念<GII>(芝・良・右・2000m)
《馬産地、札幌が競馬ファンの熱で燃え上がっています。この北の大地で輝きを放つGI馬4頭、重賞馬8頭が揃いました。人呼んでスーパーGII札幌記念です。解説は私、明智と》
《はい、細田です! 今年も豪華なメンツが揃いましたね。特にロードクレイアスを筆頭に最強世代では? と呼び声の高い4歳世代の有力牡馬達が集まっていてとても楽しみなんですよ》
《私はやっぱり復帰戦のステイファートムですね。春競馬は全休でしたがやはり昨年の有馬記念を大外枠から2着にきた実力馬です》
《はい、それでは現在のオッズを確認していきましょう》
1番人気ステイファートム3.4倍
2番人気ドゥラブレイズ3.9倍
3番人気ホワイトローゼンセ5.8倍
4番人気ディープゼロス6.2倍
5番人気ジェミニリスト10.6倍
6番人気サザンプール12.4倍
《4歳世代の牡馬が上位をほぼ独占してますね。これはさすがに予想外です。GI馬2頭もその下にいますが……》
《GI2着4回、昨年の覇者、昨年の皐月賞馬、GI大阪杯2着、GII金鯱賞覇者ですからね。共に去年のクラシックを盛り上げた猛者たちです》
《あ、そろそろファンファーレが始まりますね》
《日本でいちばん難しいとされているファンファーレを今年は海上自衛隊音楽隊の皆さんが吹きます。さぁ、スーパーGII札幌記念のファンファーレです!》
【馬番】
①シュゼンレート
②ジェミニリスト
③メリッサ
④ドゥラブレイズ
⑤ライドオンザタイム
⑥ホワイトローゼンセ
⑦ライト
⑧ディープゼロス
⑨ステイファートム
⑩トーセンゲート
⑪マカマカ
⑫シラハテングラック
⑬クラフトオー
⑭ネイチャールビー
⑮ウイングロード
⑯サザンプール
***
はは、久しぶりのレースだ。にしても暑いな。夏に入ってから長いはずだが、まだまだ続きそうな気がする。周りのメンツは……おぉ、知ってる奴らもちょくちょく居るな。
同期ならジェミニリスト、メリッサ、ドゥラブレイズ、マカマカ、クラフトオー、サザンプールに……ディープゼロスの奴もいやがる!
あとは有馬記念で一緒に走ったホワイトローゼンセ、トーセンゲートっておじさん達もいるな。ん? メリッサ……あれ牝馬じゃね? 嘘、全然気づいてなかったんだけど!?
確か日本ダービーの時に一緒になってたはず。……アホだったのか俺? いやいや、確かあの時は女っ気の欠片もない男勝りな感じだったから気づかなかっただけだし? 決して牝馬に一切興味なかったからとかじゃないし?
『久しぶり、だな』
『ブレイズ。ちょっと怪我しちまって休んでたが……復帰戦の肩慣らしにはちょうど良いか』
『む? 今度こそ勝つのは俺だ。怪我の言い訳が出来て良かったな』
『よし潰すー』
そう言えばドゥラブレイズの奴、中々強そうになっていたな。GIでも掲示板ぐらいならこなせるんじゃないだろうか?
早々、知らない他の奴らはえっと……シュゼンレート、ライドオンザタイム、ライト、シラハテングラック、ネイチャールビー、ウイングロードの7頭か。
強そうなのはネイチャールビーとウイングロードって牝馬の姉ちゃんかな。あとライトって姉ちゃんは強そうには見えねぇけど不気味だ。たまにあっと驚く戦果持ってきそう。けどこのメンツで気をつけるとすればやっぱ……。
『久しぶりだな、ディープゼロス』
『……あぁ』
新馬戦、そしてGI皐月賞。俺はこいつに2度も負けている。2度も、だ。俺にとって最大の壁であり、1番のライバルでもある。
確かフェイの奴に1度負けたらしいが、多分何かしらの不幸があったんだろう。その後もフェイの奴に聞いてみたがゼロスの事は1度も話題が出なかった。
ふっ、フェイの奴は1度倒したゼロスが実は本当は強すぎて話すことも嫌だったんだろうな! 分かるぞぉ、俺も母さんに怪我した事は言えてもずっと勝ててない事は言えなかったからな!
『調子はどうよ?』
『……俺を、見るな』
『はぁ?』
『……もう、良い』
訳の分からない言葉を吐き捨ててディープゼロスは去っていった。……え? 何あれ?
と思ったらプペペポピー、と失笑を誘う高音のファンファーレが鳴り響き札幌記念の幕が開けた。……え、今まで聞いた中で一番下手じゃね?
「このファンファーレ、音楽隊泣かせって有名だからねー」
お、そうなのか? この音楽確かにいつもとちょっと違うようなテンポだったりしたしそうなんだろう。頑張れ音楽隊ー!
そして俺の復帰戦、GII札幌記念が始まる。
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ネタバレするとここから先はGIばっかになるんでメンツが結構固定されます。馬名はありがたいですが都合上、1話だけのぽっとで扱いになる事が多いと思いますがそれでもという方のみ提案をお願いします
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