第21話~東京優駿日本ダービー~
東京競馬場第11R:東京優駿~日本ダービー~ <GI>(芝・良・左・2400m)
《澄んだ暖かい風に迎えられ、選ばれし18頭を輝く太陽も祝福しています。今日は第××回、日本ダービー、良馬場での開催となります。実況は私、明智と……》
《解説の細田です。6週続けてのGIウィークも今日で5週目。3歳の頂点が今日、この場所で決まります。楽しみですねっ!》
《はい。今年はハイレベルと話題の3歳世代の中から最も運の良い馬が、世代の王が誕生するんですね。皐月賞馬は不在となった本レースですが、オッズは見事に2強を表しています》
《1番人気がロードクレイアス2.2倍。2番人気ステイファートムが3.2倍。離れた3番人気がタマモクラウン12.6倍。以下20倍と続きますね。明智さんの本命はどの馬でしょうか?》
《私はずっとステイファートム推しですよ。血統もそうですがあの愛くるしさがたまらないんですよ。今日はいつもより気が立ってるように見えますが……》
《ですよね。私もずっとロードクレイアス推しなんですよ。前走は大きな出遅れもあって4着と惜敗だったんですが、府中のこの舞台は一番合ってると思うので今日は勝てると踏んでます》
《父ロードクレセントは皐月賞3着、日本ダービーを2着と勝ちきれない競馬から菊花賞をきっかけに古馬で覚醒して海外を含むGIを8勝も上げましたからね。父の果たせなかった日本ダービー制覇に期待がかかります。鞍上は既に日本ダービーを6勝もしているレジェンド竹豊ですし》
《一方で明智さんが推すステイファートムの父ステイスターダムは日本ダービー馬。しかもロードクレセントに勝ってますし、親子制覇が掛かってますからこちらも負けられませんよ。鞍上は日本ダービー初制覇が掛かる
《さぁ、××××頭の中から選ばれし18頭がその姿をターフに表します。
まず現れましたのは早速大本命です。1枠①ロードクレイアス! GIホープフルSの勝ち馬。皐月賞では出遅れと不利を受けながらの惜しい4着。父ロードクレセントの果たせなかった日本ダービー制覇へ、鞍上竹豊と共に王が挑みます。
続いて──。
ここで最強の未勝利馬が登場です。皐月賞3着で優先出走権を取るほどの実力馬でありながら、勝ち鞍はなんと『ー』。この空白は世代の王を名乗るためにわざと空けておいた布石なのか? ③タマモクラウンと鞍上
こちらの④サクラゲイリーは新馬勝ち後の2歳シーズンを骨折で棒に振りながらも、その後は勝ち上がり、4分の1抽選突破で日本ダービーへの切符を掴みました。出れなかった3頭の想いを乗せて走ります。
続いて──。
さぁ、もう一頭の本命馬です。皐月賞を僅か1cm差で逃した悔しさをバネに、ダービー馬への道を駆け上がります。⑨ステイファートムと鞍上は日本ダービー初騎乗初制覇を狙う横川勤!
続きまして──。
居ましたGII京都新聞杯の勝ち馬⑪ミッキーブラットです。最低人気であっと言わせたその走りが、ここでも通用するのでしょうか?
続いて──。
Lクラス競走2勝をして賞金を積んだ⑬マカマカです。父はダービー馬マカヒキ、母は熊本産駒初の重賞勝利を収めた名牝ヨカヨカ。2頭の血を引き継いだ仔が、府中のターフに足を踏み入れました。鞍上は──!
続いて──。
日本ダービー最終トライアル、プリンシパルSの勝ち馬⑮ジャックテイルです。父ジャックドールが勝てなかったトライアルから、クラシックへと駒を進めました。鞍上は──!
続いて──。
今年唯一の牝馬⑰メリッサです。桜花賞3着の実績引っさげて、男馬達を蹴散らします。鞍上は──!
ウマ娘から競馬にハマったファンの人お待たせしました! 2021年牡馬クラシック勝ち馬3頭から名前を頂いた⑱シャフタイホエフがここ、ダービー馬を決める舞台に歩みを進めています。あっと言わせて見せよう、その名前以外でも! 鞍上は──!
以上、18頭のご紹介でした》
【馬番】
①ロードクレイアス
②シャドーフェイス
③タマモクラウン
④サクラゲイリー
⑤ドゥラブレイズ
⑥メイショウザクロス
⑦ナベリウス
⑧マチカネテキサス
⑨ステイファートム
⑩ヘクターソン
⑪ミッキーブラット
⑫クラフトオー
⑬マカマカ
⑭コングレイル
⑮ジャックテイル
⑯ジェミニリスト
⑰メリッサ
⑱シャフタイホエフ
***
1ヶ月ぐらい経ったな。また俺はレースに走るらしい。なんでもGIだそうだ。やったね! 周りの人間が特に張り切ってたから、GIの中でも特別な奴なんだろう。
絶対に勝つ! なんて言えねぇのが本音だ。ディープゼロスの奴は居ないみたいだが、なんかやべぇ雰囲気の奴が一頭いる。
『やぁ……』
『ロードクレイアスか。久しぶりだな……ってかお前、雰囲気変わった?』
『? そう、かな。……でも、うん。今日は誰にも負ける気がしないんだ』
『それは俺にもって意味か? そう言うのは1度でも俺より前に立ってから言いやがれ』
『うん。……だから、先に言っとく。今日の俺に負けて、泣かないでね?』
『潰すぞ』
バチバチと火花を散らしていると、鞍上……横川さん達が喧嘩しそうと勘違いしたのか引き離そうとしてくる。別に喧嘩はしてないってば!
『ディープゼロスの奴は別のレースに出たらしい。んで、負けたそうだ』
『っ……ふーん。彼、調子に乗ってそうだったし、良いお灸になったんじゃない? 俺の前走の時みたいに、ちょっと油断してると凄いやらかしをしちゃう。……だから多分、次会う時の彼は別人だと思った方が、良いね』
『あぁ。1度負けて生まれ変わったように強くなる奴もいるしな。ただ今日のライバルはお前だけだ。せいぜい俺の背中を追ってこいよ?』
『うん。君が、俺の背中を、ね。そろそろいかないと』
そんな感じで彼と別れると同時にタマモクラウンの奴が迫ってきたため俺は逃げた。
『えぇ!? 逃げないでよっ!?』
『うるせぇ! てかお前ら1頭ずつしか来ないの何なんだ? 面倒臭いから一緒に来いよもう!』
『今日のボクは凄く調子いいんだよ! だから油断しないでね!』
『話聞いてねぇな!?』
タマモクラウンは係の人に静止させられてまたグルグルとゲート前での周回に戻って行った。
《さぁ、もうそろそろのはず……あ、今スターターの人が向かっています。陸上自衛隊音楽隊の生演奏をお聴き下さい!》
お、ファンファーレか。今まででいちばん多い観客の人たちから拍手が送られる。ここにいるみんなが、ここにいる誰かに夢を託してるんだな。多分、俺は他の奴らより多く託されてる……期待に応えなきゃ男じゃないね!
《割れんばかりの拍手に送られて第××回、日本ダービーの幕開けです! 果てしなき優駿への道を歩み、ここへ辿り着いた18頭の英雄を称えましょう
細田さん、序盤の展開はどう予想されますか?》
《やはり行くのは内のシャドーフェイスですね。真ん中のステイファートムもスタートが上手いですし前目かと。外枠のジェミリニストがどれだけ競りかけるかも注目のポイントです
そして何よりも、ロードクレイアスが出遅れないかが心配です。ゲートはあまり上手くないので脚質的に後方でしょうが、いつ仕掛けるかで順位は大きく入れ替わりますよ》
《私もそう思います。さぁ、ゲート入りは順調です。今ロードクレイアスとタマモクラウン、ステイファートムの上位人気3頭が綺麗に入りました
そしてシャドーフェイスもスっと大人しく入ります。レース以外なら大人しいのでご安心ください。そして最後に大外枠、⑱シャフタイホエフが入ります》
へぇ、今回は暴れてる奴は居ないな。邪魔するやつも、邪魔されるやつもいない真の強さがここで発揮される訳ね。勝つぞ、横川!
「あぁ、勝とう。行くよ、ファー!」
《一生に一度の晴れ舞台、世代最強は自分だとこの場で証明しよう、第××回日本ダービースタートしましたっ!
各馬綺麗なスタートを切っています。大きな出遅れはありません。やはり内から②シャドーフェイスが飛び出していく! 1頭前に抜け出した!
真ん中から⑨ステイファートムも良いダッシュ! 外から被せるように⑯ジェミニリストも出ムチが入った!
さらにそこから中段に③タマモクラウンがいて⑬マカマカ、⑩ヘクターソンも中段。内のその少し後方に①ロードクレイアス、⑤ドゥラブレイズ、⑧マチカネテキサス辺りが固まっています
各馬、順調な滑り出しでスタンドを別れを告げていきました!》
皐月賞同様に最高のスタート切ったぞオラァ! 前は……シャドーフェイスと外から一気にジェミニリストの奴が行った。これも皐月賞と一緒だな。
《やや縦長となった馬群をシャドーフェイスが引っ張る形で向こう正面バックストレッチに入っていきます。さぁ、先頭から見ていきましょう。
シャドーフェイス2馬身リード、ジェミニリストがいて、さらに後ろには内ミッキーブラット、外サクラゲイリーです。
そして皐月2着の2番人気ステイファートム鞍上横川はここ。その後ろ、サザンプールとジャックテイルがピッタリマークしています。
その後ろの中団グループにクラフトオーと皐月3着のタマモクラウンがいて、ドゥラブライズがタマモクラウンに並びかけていってるぞ!
そこから2馬身開いてナベリウスとヘクターソン、マカマカが3頭並んでその後ろにコングレイル、メリッサ、シャフタイホエフの計6頭が固まっています。
1000mの通過タイムは59.9秒! これは、速いと見せかけて普通ペース、ラップを刻んでいるぞシャドーフェイス!? 予想では最低でも58秒台のハイペース!
しかし現実はシャドーフェイスの流れた走り。これはスタミナを持たせるための作戦か!?
2馬身差が開き、1番人気のロードクレイアスは後方のこの位置! メイショウザクロスがいてさらに1馬身差が開き、殿追走は末脚が自慢のマチカネテキサス!
さぁ、欅の向こうを通過して、相変わらず先頭はシャドーフェイス。第3コーナーから第4コーナーへ! 泣いても笑ってもこれが最後の直線っ!》
やっぱり、遅い! アイツが爆逃げしてる予定だったけど、俺も無駄に体力が貯まってる。ヤバいのは後ろの奴らだ。
ミドルペースで最後の直線を突き抜ける脚が十分に溜まってるだろう。早めに抜け出したら最後、あとから抜け出してくる奴らに捕まってしまう。
「大丈夫、落ち着いて……」
横川さんの声が耳に入る。あぁ、分かってるよ……全力を出す。だから頼んだ! 俺とあんたで勝つぞ、このレースっ!
《全てを賭けて日本ダービー! 先頭はシャドーフェイス! ジェミニリストが既に競りかけている。真ん中からステイファートム!
真ん中クラフトオーがここで先頭に立った。外からドゥラブレイズ! そしてタマモクラウンも来ているぞ!
1番人気のロードクレイアスはまだ中団で外に出そうとしている。抜けたのはクラフトオーとステイファートム!
必死にタマモクラウンが追いすがる! そして来たぞロードクレイアスだ! 王座へ向けて王の進撃!
残りあと300m! 真ん中ステイファートムと後ろタマモクラウン! 外からロードクレイアス! この3頭か!?
皐月2着の雪辱かっ! 悲願の初勝利かっ! GI馬の意地かっ!
ステイファートムが抜けた! タマモクラウン厳しい! 外からロードクレイアスも来る! 前に、届くか! 届くのか!?》
『勝ちたぃぃぃぃ!!!』
『ふっ、ふっ……もう、少しだ……届けっ!』
後ろのタマモクラウンの奴が頑張っているが、少しづつ離れている声からして差は開いている。逆に……ロードクレイアス、てめぇが近づいてきていることも分かってる。
1歩1歩を踏み締める度にその振動が、気迫が、ヒシヒシと伝わってきやがる。あと、ゴール板はどこなんだ? まだ、過ぎないのか?
クソ、皐月賞じゃゴール板なんてしばらく来るなって思ってたのに、今じゃ全くの逆になるなんて……。
『それでも、勝つのは俺だっ!』
『ここじゃ、負けられ……ない!』
《やはり2強! ステイファートムか、ロードクレイアスか! 並んだ! どっちだどっちだ!? 抜けた!》
ゴール板はあと50mもない。俺は全力を出している。距離が長すぎてスタミナ切れって訳じゃない。ただ……今日のロードクレイアスの脚は化け物だった。
《ロードクレイアスが抜けた! ロードクレイアスだ! ロードクレイアス1着でゴールイン!
2強対決はロードクレイアスが半馬身差の勝利! 父ロードクレセントが果たせなかったダービー制覇は! その息子が叶えた! 王の名に恥じない1等賞っ!
そしてやりました竹豊騎手! 日本ダービー制覇、なんとなんと7勝目! また1つ、レジェンドが記録を塗り替えました!
タイムは2:21.5ッッッ!?!?!? あのミドルペースから物凄い脚を繰り出したロードクレイアスの、上がりの3ハロンは32.5ッ! この上がりなら、どんな馬にも追いつけます!》
……負けた。勝てると思っていた。……だって、コイツらは1度たりとも俺に勝っていなかったんだから、順当にいけばディープゼロスが居なかったら俺じゃないのか?
ロードクレイアスの最後の脚、俺と何が違った? 俺の闘志もやる気も全てを踏み潰すような踏み込み。コイツが走った場所だけ芝が抉れていた。
……あぁ、ちくしょう。バカか俺は。勝てると思っただと? 最後に並ばれた時、俺は抜き返そうとしたとしたっけ?
いやしてない。慢心して、油断して……それで並ばれた時に信じられなくて、新馬戦で見せた懸命な粘りも出せなかった。
今回もまた、俺の失敗で勝利は俺から遠のいてしまった。……勝つと約束したのに、横川さん、ごめん……。
『……ステイファートム、1度挫折した奴は強くなる、君がそう言ったんだ。そして俺が、それを体現して見せた。次戦う時を楽しみにしてるよ。君とゼロスが、俺のライバルなんだと思ってる』
『……あぁ、今度は勝つよ』
息を切らしながら、ければ晴れやかな笑みを浮かべたロードクレイアスはそのままスタンドに向かって凱旋を行った。
俺はGIには、また手は届かなかった。
1着 ①ロードクレイアス
2着 ⑨ステイファートム 1/2
3着 ③タマモクラウン 1
4着 ⑤ドゥラブライズ 2 1/2
5着 ⑬マカマカ クビ
タイム2:21.5
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