第6話~パドックとオッズ~
伝説の新馬戦と呼ばれる1戦があるらしい。後の重賞馬やGI馬、良血馬達が集結したハイレベルな1戦の事だ。もちろん、どの新馬戦がそうなるかは神のみぞ知るところだが……。
そしてまたここにも一つ、伝説の新馬戦と呼ぶに相応しい……いや、その呼称ですら生ぬるいと後世に語り継がれることとなった伝説の新馬戦が幕を開けることとなった。
***
ついに来ました俺の新馬戦! さっさと同期共をぶっ飛ばして1つ前のレースを走るフェイと一緒に白星を飾りますかぁ!
『な、なんだここ?』
タガノフェイルド……フェイが競馬場に戸惑っている。確かに今まで見た事ないサイズの建物だしな。
そうそう、牧場じゃお互いを意識して走る練習をしていたのを見た人達が、俺たちは仲が良いと勘違いしたので同じ厩舎に入ることになりました。
『レースするんだよ。いつも走ったりしてるだろ? ゲートの練習とかもしたし、あれらを混ぜた勝負をするんだ』
『勝負!? って事はここで勝てばお前がボスになるんだな!?』
『いや、一緒に走らんぞ。わざわざ知り合い同士で走らせるとかないし』
『ふぁっ!?』
て言うか群れのボスとかまだ言ってるのか。育成牧場の群れはそれぞれ別の厩舎に引き取られたからもう無いじゃん。
『……なら、負けるなよ? 俺以外のやつに負けたら承知しないからな!』
『大丈夫、俺最強だから』
『よしいつか絶対ボコす』
そして少し時が経ち、なんか検疫? って言うやつだっけ? 普通に検査を済ませてパドックって所へ向かう。
ワイワイガヤガヤ。楕円形の広場で俺と含めた10数頭の馬が回っている。その周りには大勢の人……いや、マジで多いな。立ってスマホやら構えてる人がクソ多い。全員俺に期待してるのかな???
「うは~、やっぱ今日は札幌記念だし人も多いな」
俺の手網を引く沢村さんが言うには、どうやらGIより一つ下のGIIのレースがある日らしい。それで人がいっぱいいるってことか。ってことはGIはこれよりももっと人がいるのかよ。
むっ、俺よりも人の視線を集めてるヤツらが2頭もいやがるな。へっ、まぁ精々今のうちに注目を集めておくが良いさ。レース後の視線は全て俺のものだ。
***
「さっきのタガノフェイルド凄かったですね。8馬身差の圧勝。特に高速馬場でもないのにレコードのコンマ1秒まで迫ってましたし」
「ありゃ出来すぎだ。テンションは上がりまくりで掛かってたしな。相手に化け物がいなくて良かった」
「ファーのレースの、あの2頭みたいなですか?」
「(ギロリ)」
「おー怖い。……ファーの奴は3番人気か。まぁ、相手が相手だから仕方あるまい」
「アイツに跨る騎手がそんな気持ちでどうするこのバカ!」
「ちょ、荻野さん暴力反対っ! でも……まさかあの2頭と被るなんて思いもしませんでしたよ」
横川の奴が話を逸らすために視線を注目されている2頭に目を向ける。
「ディープゼロスはともかく……ロードクレイアス。コイツまでここに合わせるとはな」
「本当ならファーの奴が圧倒的1番人気に支持されてもおかしくないはずなのに、見てくださいよ今のオッズ」
1番人気ロードクレイアス1.8倍
2番人気ディープゼロス1.9倍
3番人気ステイファートム18.9倍
4番人気タマモクラウン30.3倍
以下60倍で続く。
「オッズなんて気にすることない。勝つのはファーだ」
「はは、現役を終えた今でも僕より騎手向いてますよ」
「やかましい! ……今日はオーナーと館山生産牧場の人も来てるそうだ。不甲斐ない結果だけはするなよ?」
「うへぇ、僕にプレッシャーかけないでくださいって。お、そろそろなんで行ってきます」
整列の声が聞こえた横川が軽やかに去っていく。先程までの緊張感はどこへやら。……思ったよりやれそうだな。
「……ファーの実力はあの2頭にも劣らん。だが競馬は何が起こるか分からんものだ……せめて馬券には絡めてくれよ」
横川とは反対に、私はいつに無く弱気な発言を発することしか出来なかった。
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