【書籍化! 12/20発売】強すぎてボッチになった俺が戦学院のパーティ決めで余った結果、元王女で聖女な先生がペアを組んでくれた件《強すぎて学園であぶれた俺。ボッチな先生とペア組んだら元王女だった 》

穂積潜@12/20 新作発売!

プロローグ パーティ決めで余った

 初夏のよく晴れたある日。


 二百人を収容できる大教室に、ナインと同じ年頃の少年少女が集まっていた。


「それでは皆さん、入学から三ヶ月を迎え、いよいよ初めての実習ですね。パーティメンバーが決まったら、私の所に来てくださいね。登録手続きをしますから」


 周囲より数段高い位置に設えられた教卓の前に立った担任の女――アイシアがにこやかに言う。


 その言葉を合図に、生徒たちが一斉に動き出す。


 誰も彼もその歩みに迷いはない。


 それはそうだろう。


 今からメンバー探しをする間抜けな人間などおらず、あらかじめ取り決めていた面子で集まるだけなのだから。


 もちろんナインもその一人だ。


 ここ数ヶ月で根回しというやつが大切なのだということは学んだのだ。


「なあ、あんた! 前に俺と組むって言ってたよな?」


 走り込みの教練でデッドヒートを繰り広げた大男の肩を叩く。


「えっ、あれ本気だったのか。は、ははは、すまん、冗談だと思ってた。先約があるからまたな」


「マジかよ! ――じゃあ、あんた! 前に肉を分けてやった時、俺と組むって約束したよな!」


 ナインは反対方向に跳び移り、別の生徒のローブの袖を引く。


「え? ぼ、僕? えっと、あれはその場のノリで――ごめん。昼食代は払うから勘弁してくれ」


 ローブの生徒が全力で後ずさっていく。


 どんどんパーティの塊ができ、ナインは取り残されていった。


「くそっ、なんでだよ! じゃあ俺は誰と組めば――おっ!」


 ナインは辺りを見回し、明らかにぎこちなさそうに隅の方に固まる一団を見つける。


「なあ! お前らって今から組むんだろ! 俺も混ぜてくれよ。最前衛でいいし、荷物もいっぱい持つぜ」


 手を挙げて、自己アピールしながら近づいていく。


「ひっ……」


「おいらたちじゃ君の足を引っ張ってしまうと思うから」


「パーティは釣り合ってないとちょっと」


 なぜか彼らもそそくさと逃げていってしまう。


 結局、誰に声をかけても、ナインとパーティを組んでくれる生徒は見つからなかった。


 そして、ナイン以外の全員のパーティ登録が終わり、教室を出て行く。


「ナインくん。こっちに来てください」


 アイシアが手招きをする。


「先生、えっと、その……」


 ただ一人余ったナインは、頭を掻いて素直にその指示に従った。


「ナインくん……。結局、誰もパーティーを組んでくれる人がいなかったんですね?」


 アイシアは両腕を教卓につけて、ナインに視線を合わせる。


 その銀の長髪が教卓の茶色い木肌に海のように広がる。


 彼女の碧い瞳が、同情とは違う悲しみの色を湛えていた。


「そうみたいだ。まあ、それならそれでいい。D級の魔物を二体狩るだけだろ? それくらいは俺一人で十分だもんな」


 ナインはアイシアにというよりも、自身に言い聞かせるように答える。


「最低二人以上でないと実習には参加できませんよ。要綱に目を通しましたか?」


 アイシアは教卓の下から取り出した紙の一文を指さして言った。


「悪い。まだ俺、絵本くらいしか読めないよ。でもさ、これって俺のせいなのか。約束を破るやつが悪いんじゃないのかよ。口約束でも約束は約束だろ? 戦場なら約束を破る奴は味方だろうと殺されてたぞ。そんな奴に背中を預けられないだろ」


 ナインは早口でそう主張した。


「口約束も約束です。でも、その中には約束っぽいけど約束じゃない約束もあるんです」


 アイシアはゆっくりと言い含めるように語る。


 その声色とリズムは、かつてナインが敵から奪い、一度だけ口にしたことがある高級な蒸留酒の味に似ていた。


「なんだそれ。訳が分からねえ。ここは戦士を育てる学校じゃないのかよ。嘘をつく戦士が役に立つのか?」


 ナインは首を傾げる。


「確かにこの学院は戦える人を育てる場所です。でも、戦える人も戦っている時よりも戦ってない時の方が多いんですよ」


 静かに首を横に振る。


「そりゃそうだ。でも、戦ってない時は戦うための準備をする時間なんだから結局同じことだろう」


「ナインくんが将来この学院を卒業したら、戦う人以外とも接しなければいけません。そして、そういう色んな役割の人たちが集まる所では、ルールが全て明文化されているとは限りません。……入学の時、私がナインくんに言ったこと、覚えていますか?」


「ああ。えっと――確か、『曖昧』だろ?」


 ナインは記憶を掘り起こし、学門を初めてくぐった日のことを頭の中で思い描いた。

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