夜が明けるから
Kier
第――話
きっと、朝の来ない夜を何度も繰り返した。そうして、今。
――僕は、何をしているんだろう?
「あぁ……」
また、まただ。
こんなにも、胸が苦しいのに。
もう、何もかもを諦めてしまったはずなのに。
どうしてまだ、生きているんだろう?
「……」
ふと、思う。
もしかしたら自分は、生きることをやめたいだけなのではないかと。
あるいは……死ぬことすら諦めて、ただ無意味に流れて生き続けているだけではないのかと。
「……」
ずっとここに捕らわれたまま。
光を見る術もないままに、1人、ここで時を過ごす。ただそれだけのことなのではないだろうか?……そんなことは。
ーーそれではまるで、人形じゃないか……。
「……」
そこまで考えたところで、彼は思考を打ち切った。
どうでもいいことだと思ったからだ。
考える必要もない、くだらない妄想だと。
それよりも今は、やらなくてはならないことがある。……だから彼は、いつものように眠りにつくことにした。
目を閉じればすぐに意識は薄れていき、そして次に目覚めたときには全てが終わっているだろう。……だが、その前に。
「……」
最後にもう一度だけ、彼は自らの手を見つめる。
そこには当然、何があるわけでもない。
ただ闇だけが在った。…それはそうだ。
ここには自分以外のものは何もない。あるとしたら自分自身だけだ。
でも。
それでも、彼の手には、確かにそこに何かがあったのだ。
ほんの小さな、温もりの記憶が残っていたから。
遠い遠い、過去の記憶。何も覚えていないけれど、遥か彼方に確かに存在していた記憶。
だから彼は、眠る。
次なる目覚めのために。
いつか必ず訪れるはずの終わりのために。
さようなら。
ありがとう。
ごめんなさい。
…さよなら。
「……」
今日もまた、この部屋を訪れる者がいる。
だが、記憶が無くなってもいつもと同じだ。
彼がすることは変わらない。
ベッドの上に横になり、目を閉じる。
そうすれば、きっと、全ては終わるはずだから。
夜が明けるから Kier @Rei-Kn
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